🩸 T&S?交差適合試験?不規則抗体?・・用語が一杯

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Type & Screen:タイプアンドスクリーン

🔷 Type & Screenって何?

 Type and Screen.入院時検査で見たことがあると思いますが,いったい何のことでしょう.

 一言で言うと,「輸血の効率的な使用のための輸血準備方式の一つ」です.

 ある手術において,「ひょっとしたら少し輸血がいる程度の出血があるかもしれない,でも使わない可能性も高いな〜」という時,とりあえず患者さんの血液型と不規則抗体(後述)の有無だけ調べて,その患者さん用に優先的に使えるようにストックしておきます.使えばよし,もし使わなかった場合は別の必要な患者さんに回すことができる,そういったシステムです.

🔷 具体的な基準はある?

 先ほどは必要性に関して曖昧な表現をしましたが,一応の基準はあります.

術中に輸血する可能性が30%以下,あるいは輸血しても2単位以下の場合

 ただし実際には施設ごとの基準にもよるので,「一般的にはそう言われる」程度に覚えておくのがよいでしょう.

 不規則抗体が陰性(ない)の場合には,後述する交差適合試験(クロスマッチ)を省略して,ABO型の適合性のみの確認で輸血を行うことができる,とされています.

 ではその交差適合試験(クロスマッチ)って何でしょうか


交差適合試験(クロスマッチ)

🔷 クロスマッチって何? クラスマッチじゃないよ.

 現場で”クロスとった?”とか”クロスマッチ済んでる?”などと聞いたことがあると思います.

 交差適合試験(クロスマッチ)とは,致命的になり得る血液型不適合輸血を防ぐために行われる,輸血前の大事な試験のことです.病院では輸血部や検査科で行われます.

🔷 主試験と副試験

 交差適合試験には輸血される赤血球と患者血清の反応を見る主試験と,患者血球と供血の血清との反応を見る副試験とがあります.
 ただし現在の輸血用赤血球製剤は製造過程で血漿成分がほとんど除去されているため,供血血清中の抗体による反応を確認する副試験の臨床的意義は乏しく,多くの施設では省略されています.そのため実際には主試験のみが行われることが一般的です.

 ちなみに何が「交差」しているかというと,供血赤血球と患者血清,供血血清と患者赤血球の反応を見るため,血球と血清が互いにクロスしているように見えるからです.

 「主」と「副」と書いてあるように,主試験の方が圧倒的に重要です.免疫反応を起こす物質は血清に含まれているので,入ってくる赤血球に対して免疫反応を起こすと赤血球が破壊(溶血)されてしまい,重篤な症状を呈します.そのため主試験が陽性であった場合には「基本的に絶対に」輸血してはいけません.緊急時にどうしても必要なら,通常は未交差のO型赤血球(Rh適合)を用いるのが原則です.

 副試験は,上述のように,患者の赤血球に対して供血に含まれている血清が免疫反応を起こすかどうかを検査します.供血血清に含まれる抗体は比較的少ないとされているため,主試験が陰性なら臨床的に問題とならないことも多いのですが,現在のガイドラインでは原則として副試験陽性の血液は使用すべきではありません(検査を行い,判明している場合).ただし,どうしても避けられない緊急時には慎重な観察のもと使用されることがあります.


不規則抗体について

🔷 何が”不規則”・・?

 “不規則”抗体と言うからには”規則”抗体があるわけですが,規則抗体とは,が一般の人にも馴染みの深い「ABO血液型」の名前の由来である「抗A抗体」,「抗B抗体」です.ほぼ全ての人に生まれながらに常に存在し,検出が予測可能なため”規則”抗体と呼ばれます.

 抗A・抗Bの「規則抗体」に対し,不規則抗体は全ての人が持っているわけでもなく,輸血や妊娠を契機に形成されることがあり,検出が予測不可能なことから”不規則”と呼ばれます.つまり・・

  • 規則抗体:お馴染みのABO血液型判定に用いる抗A抗体,抗B抗体
  • 不規則抗体:それ以外の赤血球に対する抗体のこと

 抗A抗体と抗B抗体は超重要ですが,不規則抗体は「ものによりけり」です.種類も200種類以上とたくさんあり,その臨床的意義も高いものから低いものまで様々です.

 最も有名なのはRh系の不規則抗体です.「私の子供はRhマイナスのA型なんです!」など,医療系の方々でなくともテレビやドラマで聞いたことがあると思います.さらにこのRh系の抗原にも種類があり,臨床的に重要なものとしてC,c,D,E,eの5つがあります.

 この中ではD抗原が最も抗原性が強く,2番目はE抗原です.また,Rh系以外にもKell抗体など臨床的に問題となる抗体があります.これらの抗体は遅発性の輸血副作用や新生児溶血性疾患の原因となることがあります


RhD陰性患者は何が問題・・?

 一般的に問題になるのは、手術や外傷などでの大量出血に対する緊急輸血時と,RhD抗原陰性妊婦がRhD抗原陽性の胎児を妊娠した場合(血液型不適合妊娠)です.

🔷 血液型不適合妊娠

 RhD抗原陰性妊婦がRhD抗原陽性の胎児を妊娠すると、分娩時などに胎児の血液が母体内に侵入しRhD抗原に対する抗体ができます.第1子に影響がでることはほとんどありませんが,第2子以降では母体内のD抗体が胎児の赤血球を破壊して貧血や新生児溶血性黄疸が生じます.予防として,出産後72時間以内に抗Dヒト免疫グロブリンを投与するのが一般的で,現在では重症例はかなり減っています.

🔷 大量輸血時

 大量出血時などにRhD陰性患者にRhD適合血がすぐ入手できない場合,救命のためRhD陽性血を投与せざるを得ないことがあります.この場合はRhD陰性血が手に入り次第すぐに切り替える必要があります.特に女児や妊娠可能年齢の女性では第一子から新生児溶血のリスクが高まるため要注意です.

 RhD抗原陰性患者にRhD陽性血を緊急投与した場合には,48時間以内に不規則抗体検査を行い,抗D抗体が陰性なら抗Dヒト免疫グロブリン投与を考慮します(効果は限定的なこともあり).もし抗D抗体が検出されてしまった場合には,遅発性溶血性副作用の可能性が高いため慎重な観察が必要です

🔷 補足:たまに受ける質問・・抗体と抗原,持ってるか持ってないか

 この話をすると,「D抗原を持っている人はもともとそれに対するD抗体を持っているんですか?だとするとなぜ抗原抗体反応が起きないのですか?」と聞かれることがあります.確かにごちゃごちゃ勘違いしやすいところです.

 基本的に抗体は「自分ではないもの」に対して作られます.ウイルスが入ってきて抗体ができるのはそれが「自分ではない」からです.生まれつき持っているD抗原は「自分」なので,D抗体は作られません.これを免疫寛容と呼びます.そのためD抗原を持っている人はD抗体を持たず,他者からD抗原陽性の赤血球を輸血されても基本的に安全です.

📝 まとめ

  • Type & Screen は,「輸血の可能性が低いがゼロではない」場合に行う準備法.血液型と不規則抗体の有無を調べておき,必要時に速やかに輸血が可能となる.
  • 交差適合試験(クロスマッチ) は致命的な不適合輸血を防ぐための必須検査.現在は血漿成分が除去された製剤が用いられるため,副試験は省略されることが多く,主試験が中心となる.
  • 不規則抗体 は輸血や妊娠を契機に作られることがあり,ABO抗体以外の抗体を指す.200種類以上存在し,特に Rh系(D抗原・E抗原など)やKell抗体 が臨床的に重要.
  • RhD陰性患者 は,輸血や妊娠で問題になることがある.妊婦では新生児溶血性疾患を引き起こす可能性があり,予防には抗D免疫グロブリン投与が行われる.
  • 抗体は「自分ではないもの」に対して作られる.自分の赤血球上にあるD抗原に対しては抗体は作られないため,D抗原陽性者はD抗体を持たない.
  • 👉 つまり,Type & Screen とクロスマッチは,安全で効率的な輸血のために欠かせない仕組みです.

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