🔷 輸血製剤のラベルにはいろいろ書いてある
医療従事者,特に大病院や救急病院の医師や看護師さんであれば毎日目にする輸血製剤.そのパッケージにはシールが貼られており,製剤番号や血液型などいろいろと書かれています.ただ,その細かな表記の意味は意外と知られていないことが多いのではないでしょうか.ここで一度整理しておきましょう😃
A型(D Rho 陽性)とか認証用バーコード,RBCはいいとして,注目していただきたいのは右の中央あたりにある「Ir」と「LR」という文字です.
🔷 ラベル表記の意味

Ir(Irradiated:放射線照射済)
Irは放射線照射済という意味です.放射線の単位はGy(グレイ)で,ラベルには「いつ」「何Gyの照射を行ったか」がしっかり記載されています.普段あまり見ていないかもしれませんが,ぜひ一度チェックしてみてください.
放射線照射を行う理由は,輸血後GVHD(移植片対宿主病)の予防です.これは供血者(輸血を提供した人)のリンパ球が患者体内で生着・増殖し,患者の組織を攻撃してしまう重篤な疾患です.恐ろしい病気ですが,事前に血液製剤へ放射線を当てることで予防できます.
赤血球製剤・血小板製剤・全血製剤には照射が必要ですが,新鮮凍結血漿(FFP)にはリンパ球が含まれないため不要です.
日本赤十字社の報告によれば,この処置が始まって以降,輸血後GVHDはほとんど発生していないそうです(^^)
LR(Leukocytes Reduced:保存前白血球除去済)
LRは保存前白血球除去を示すラベルです.現在ではすべての血液製剤に対して血液センターでこの処置が行われています.
白血球除去を行う目的は,輸血に伴うさまざまな副作用を減らすことです.具体的には,
- 発熱反応の抑制
- HLA抗体産生による血小板輸血不応の予防
- サイトメガロウイルス(CMV)感染の予防
- 原因不明の免疫抑制の軽減
発熱は輸血製剤中のHLAに対する抗原抗体反応や,保存中に蓄積する炎症性サイトカインによって起こります.保存前に白血球を除去しておくことで,これらの副作用を大幅に減らすことができるとされています.
🔷 ヒューマンエラーをなくすために
血液製剤のラベルにはバーコードが印刷されており,患者リストバンドのバーコードと照合することで「血液型不適合輸血」「患者取り違え」などを防止するシステムが導入されています.端末で「ピッ」とするだけで自動的に確認できるのは,安全管理上とても大切な仕組みです.
昔は人間同士の読み合わせやカルテ記載の確認だけで対応していたため,どうしてもヒューマンエラーが起こり,残念ながら事故につながることもありました.
人間が関わる以上,エラーを完全にゼロにすることはできません.だからこそ「事故を起こしたくても起こせない仕組み」を作ることが重要になります.
アクセルとブレーキの踏み間違え防止機構がついた車と同じ発想ですね.
📝 まとめ
- Ir(Irradiated:放射線照射済) 赤血球・血小板などの血液製剤に行われ,輸血後GVHDを予防する.FFPには不要.
- LR(Leukocytes Reduced:保存前白血球除去済) 白血球由来の副作用(発熱,輸血不応,CMV感染など)を減らすため,現在は全ての血液製剤で実施.
- 安全システム バーコード照合により,血液型不適合や患者取り違えを「事故を起こしたくても起こせない仕組み」で防止.
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