🤔 「準備しておいて」の「準備」は,どこまで?-教わる側から確かめる「できた状態」-

♦️ はじめに
この記事は,「臨床の解像度」の「同じミスを繰り返す後輩に,もう一度説明すればいいのか?」から派生した関連記事です.元記事では教える側から考えた行き違いを,今回は仕事を頼まれる側から見てみます.元記事を読んでいなくても,この記事だけで読める内容にしています.
🔹 「準備できました」と言ったけど…
以下は,説明のための架空の場面です.
麻酔の導入を前に,指導医から「昇圧薬,すぐ使えるように準備しておいてね」と頼まれました.
単回投与用(ボーラス用)の昇圧薬をシリンジに引いて,ラベルも貼った.持続投与用のシリンジも揃っています.
「準備できました( 。•̀_•́。)✧キリッ」
報告すると,返ってきたのは,
「ありがとう.これ,ポンプにもセットしておいてもらえる?」
でした.
「あ,すみません」
すぐに取りかかります.ただ,少しだけ引っかかる.
薬は準備した.ラベルも貼った.言われたことは,やったつもりだったんだけどな.
しかも,前にも似たやりとりがあったような気がする.また足りなかったのか,と思うと,少しへこみます.
ここで「次はもっと気をつけます」と思って終わることもありそうです.でも,何に気をつけるのかが分からないままだと,次も同じところで迷うかもしれません.
指導医はポンプへのセットまで頼んだつもりで,こちらはシリンジを用意するところまでだと思っていたのかもしれません.同じ「準備」という言葉で,違う状態を思い浮かべていた.
同じ「足りなかった」でも,手順をまだ知らなかった,あとでやるつもりだった,自分の担当ではないと思っていた,など理由はいろいろあります.今回は,そのうち「どこまでを準備完了とするか」が揃っていなかった場合を考えます.
研修医に限らず,新人看護師や,若手の薬剤師,臨床工学技士などにも,似た場面はあるのではないでしょうか.
🔹 「できた」の中身を,自分だけで決めていないか
「準備しておいて」
「確認しておいて」
「少し様子を見ておいて」
病院では,短い言葉で仕事を頼まれることがあります.
でも,頼んだ人の頭の中には,その一言より少し長い話がある.
何を使うための準備なのか.いつまでに必要なのか.どこまで自分で進めて,どこから一緒に確認するつもりなのか.
頼んだ人には見えていても,頼まれた側からは,まだ見えていない部分があるかもしれません.
たとえば,「確認しておいて」.
ある書類に目を通せば終わりなのか,別の記録と突き合わせるところまでなのか.確認した結果を,その人へ返す必要もあるのか.
「確認しました」と言ったあとに,「で,どうだった?」と聞かれて,初めて,結果を返すところまで頼まれていたのだと気づく.そんな行き違いも考えられます.
「様子を見て」なら,何を見て,いつまで見て,どんな変化があったら知らせてほしいのか.その中身が分からないままでは,そもそも頼まれた仕事の範囲がはっきりしません.
もちろん,それを全部,教わる側が読み取るべきだという話ではありません.依頼する側も,必要なことを言葉にして渡した方がいい.「分からなかったら聞いて」で,説明の責任まで全部相手に渡せるわけではないと思います.
ただ,こちらが「自分はここまでだと思った」と黙って進めても,相手にはその範囲が見えません.
自分の中にある「できた状態」を,一度言葉にしてみる.そこから確かめられることがあります.
🔹 「どこまでですか?」も,聞いていい
分からなければ聞く.
それができれば苦労しないんですが…😅
相手は忙しそうだし,「そんなことも分からないの?」と思われそう.前にも一度聞いた気がする.今さら聞いていいのかな,と迷う.
だからといって,分かったことにして進めるのも不安.やばいことになったら取り返しがつかないかもしれない.
ここで,「準備って,どこまでですか?」と聞くのは,もちろん悪いことではありません.何をするのか見当がつかないなら,最初から教えてもらってよいと思います.
ただ,自分なりに考えているところがあるなら,それを添えて聞く方法もあります.
漠然と「どこまで?」と聞かれると,相手も最初から説明を組み立てる必要があります.せっかく聞いても,「全部」「ちゃんとやっておいて」と返ってきたら,その「ちゃんと」の中身は分からないままです.
こちらの考えが分かれば,相手も「そこまででいい」「そこに,これも加えて」と返せるかもしれない.何について認識がずれているのかを,少し見つけやすくする聞き方です.
🔹 自分が考えている完了を,先に言ってみる
たとえば冒頭の場面なら,依頼されたときに,
「持続用は,ポンプにセットするところまで,私がやっておけばいいですか?」
と聞いてみる.
返事は,「そこまでお願い」かもしれません.「ポンプはあとで自分がやるから,まずシリンジまででいいよ」かもしれない.
どちらにしても,自分が思い浮かべていた範囲を,相手にも見てもらえます.
もし,「薬を用意する」ところまでは分かるけれど,その先を一人で進められないなら,そこを伝える.
「シリンジの準備まではできます.ポンプへのセットは,一緒に確認してもらえますか?」
無理に,もっともらしい完成像を作ってから聞く必要はありません.できるところと,まだ教えてもらいたいところを,そのまま伝えてよいと思います.
別の仕事なら,たとえば,
「この記録を前の記録と照らして,違いがあったところを先生に報告する,ということで合っていますか?」
という形も考えられます.
「確認」という動詞を,実際に何をするのかへ少しほどいて,相手に返してみる.
また,何のために頼まれた仕事なのかを聞く方が,分かりやすいこともあります.
「導入直後から持続で使うかもしれない,という想定ですか?」
いつ,どのように使う想定なのかが分かれば,準備の範囲を一緒に確かめやすくなるでしょう.
ここで確かめるのは,今回の担当範囲です.実際の準備は,施設の手順と指示に沿って,自分が習得している範囲で進めます.
それから,聞いたあとは,返ってきた答えもきちんと受け取りたいところです.
「ポンプまでですか?」に「そこはあとで一緒にやろう」と返ってきたなら,その違いを受け取る.こちらの案に「はい」と言ってもらうことだけが目的ではありません.返事がなければ,伝わったかはまだ分からないので,必要なところはもう一度短く確かめます.
毎回こんなに確認していたら大変,とも思うかもしれません😅.
すでに担当範囲が決まり,お互い同じ手順で進められている仕事を,毎回ゼロから聞き直す必要はないでしょう.
初めて頼まれたとき,前と条件が違うとき,あるいは,前回「そこまでだったのか」となった仕事.そういうところから,一言足してみるので十分だと思います.
🔹 報告は,「ここまでやりました」
「準備できました」は,完了の宣言です.相手はそれを前提に,次の段取りを考えます.
でも,依頼を受けたときに確かめても,途中で予定どおりに進まないことはあります.別の仕事に呼ばれた.必要な物品が足りなかった.途中で迷って,そこで止めた.
そんなときは,どこまで終わったかを伝える.
「単回投与用の準備は終わっています.持続用はシリンジまでで,ポンプへのセットはまだです」
これなら,「できました」の中にどこまで含まれるかを,相手が推測しなくて済みます.
ただ,全部終わっていないと,報告しにくいこともありそうです.もう少し頑張れば終わるから,それから言おう.「まだです」と言うと,自分ができていないことを,わざわざ知らせるような気がする.
でも,できていないことを伝えるのは,ただ謝るためではありません.相手が,今の状態を前提に次を考えられるようにするためです.
たとえば,他にも色々な薬剤でシリンジポンプが使われていて,昇圧用のポンプが用意できなかったなら,
「持続用の昇圧薬シリンジは用意しました.でもポンプが足りなくてまだセットできてません」
と伝える.
そうすれば,別の場所から持ってくるのか,誰かに頼むのか,準備を分担し直すのかを相談できます.「まだできていません」だけでは見えない,どこで止まっているのかが伝わります.
全部終わってから報告するか,何も言わないか.その二択にせず,「ここまではできています.ここから先はまだです」と,途中の状態を伝えてよいと思います.
🔹 昨日の先生と,言うことが違うとき😅
A先生は,「持続のほうもポンプにセットしておいてね」.
B先生は,「そこは自分でやるから,シリンジまででいいよ」.
教わる側からすると,どちらも,その人に教わったやり方です.A先生と組んだときにB先生のやり方で準備して,足りないと言われると,ちょっと困ります.
ここで,どちらが正しいのかを一人で決める必要はありません.前に教わったことも伝えつつ,今回の担当範囲を確かめます.
「前はシリンジまでで,その先は一緒に確認していました.今回は,どこまで私がすればいいですか?」
「前の先生はこうでしたが」と言うこと自体が,悪いわけではありません.違いがあることは,指導する側にも知ってもらった方がよいと思います.
ここで分けておきたいのが,施設として決まっている安全上の手順と,その場の役割分担です.
薬剤シリンジのラベルについては,日本麻酔科学会も標準化を推奨しています[1].施設で定められた表示や確認の手順を,人ごとの好みと一緒にしてはいけません.
「この先生は細かいからラベルを貼る」「別の先生だから省いていい」という話ではない.その上で,誰がどこまで準備するかを確かめる.
もちろん,施設の手順をまだ知らないなら,そこは聞く必要があります.知らないことを確認するのと,決まっている手順を省いてよいか交渉するのとは,別の話です.
もし教わった内容が食い違っていて,安全上必要なことなのか,役割の違いなのかも判断できないなら,一人でつじつまを合わせようとしなくてよいと思います.指導医や教育担当者に,「この部分の説明が違っていて,どちらに合わせるか分かりません」と確認するところです.
すべての先生や先輩の好みを覚え,その日の正解を当てることが,新人の仕事になってしまうのも,しんどいですし…😅(外科系は病院や指導医ごとのお作法がもっとたくさんありますよね).
🔹 ゆっくり確かめる余裕がないとき
ここまでのやりとりが,毎回できるわけではありません.
頼んだ人が,もう別の対応に入っている.仕事が重なって,どちらを先にすればよいか分からない.それでも,今すぐ動かないといけない.
そんなときに,完了の条件を全部整理してから話そうとすると,余計に声をかけにくくなります.
まずは,今分からないところを短く伝えるのでよいと思います.
「今,別の準備をしています.どちらを先にしますか?」
あるいは,
「シリンジの準備までは終わっています.ポンプへのセットは,これからです」
全部を説明できなくても,今どこまで進んでいるかと,自分では決められないことを伝える.
自分がまだ扱い方を教わっていないものや,一人では判断できないことは,そのまま伝えたい.忙しくても,「ここからは手伝ってほしい」と言えれば,周囲も支え方を考えられます.
患者さんの状態悪化など,危険が迫っている場合は,丁寧な確認の会話を完成させることより,必要な応援を求め,危険を伝えることを優先します.落ち着いてから,「どこまで準備しておけばよかったか」を振り返ればよい.
聞く余地がない,答えをもらえない,ということが続くなら,それは聞き方だけで解決する問題でもありません.一人の相手とのやりとりで抱えず,教育担当者などに相談してよいと思います.
🔹 教える側にも,一つだけ
「ここまで,ということで合っていますか?」
こう聞かれたら,「そこまででいい」「この確認もお願い」「そこからは一緒にやろう」と,足りないところを返してもらえたらと思います.
完成した答えを言えているかどうかを試すより,今どこを理解し,どこで迷っているのかを知る機会にする.
「そんなことも分からないの?」で終わると,次は聞きにくくなりそうです(以前よりは減ったように思いますが,まだまだこの手のことを言う人はいますよね😅).自分の考えを添えて聞いたことを受け止めてもらえると,次も聞いてみようと思えるのではないでしょうか.
♦️ まとめ
- 「準備できました」の中身は,相手と同じとは限りません.
- 自分が考えている「ここまで」を一度言って,合っているか確かめる.分からないところは,分からないまま尋ねてよい.
- 報告するときも,ひとまとめに「できました」と言う前に,どこまで終わっていて,何がまだなのかを伝える.
次に仕事を頼まれたとき,一言だけ足してみてもいいかもしれません.
「ここまで,で合っていますか?」
教える側の工夫については,冒頭で述べたように「臨床の解像度」の関連記事「同じミスを繰り返す後輩に,もう一度説明すればいいのか?-『この前も言ったよね』の前に,確かめたいこと-」で考えています.