🤔 麻酔から覚めないとき,何を考える?覚醒遅延の主な原因と確認ポイント

♦️ はじめに
麻酔薬を止めたのに,呼びかけても目を開けない.
「まだ薬が残っているのかな🤔」と考えますが,覚醒が遅いように見える理由は,麻酔薬の残存だけではありません.筋弛緩が残って動けない場合もあれば,換気や血糖などに問題がある場合もあります.
ここで一度,「意識が戻らない」「動けない」「十分に呼吸できない」を分けて考えると,確認することが整理しやすくなります.
今回は,麻酔のあと反応がなかなか戻らない患者さんで,何を考え,何を確かめるかを,原因の一覧表と一緒に整理します.後から見返す見取り図としても使ってもらえればと思います.
♦️ 原因を考える間も,気道・換気・循環を支える
呼びかけへの反応が乏しいときは,まず気道,換気,循環を確認します.必要な補助を続けながら,原因を探します[1].
原因が分かるまで,呼吸や循環への対応を待つことはありません.
麻酔終了から何分たったかも大切な情報ですが,時間だけで原因は決まりません.使った薬,患者さんの背景,反応の変化をあわせて見ます.
♦️ 「反応がない」の中身を分ける
「目を開けてください,手を握ってください」と声をかけても反応がない.それだけで,意識がないとは言えません.筋弛緩が残っていれば,意識があっても体を動かして応えられないことがあります[1].
逆に,筋弛緩が回復していても,意識や自発呼吸まで戻ったとは限りません.
- 意識の反応:呼びかけで開眼するか.指示を理解し,繰り返し応じられるか.
- 神経筋機能:筋弛緩が残っていないか.定量的な神経筋モニターではどうか.
- 呼吸:息を吸おうとする動きがあるだけでなく,十分に換気できているか.換気の補助がどれくらい必要か.
この三つはつながっていますが,一つが戻れば全部戻る,というものではありません.筋弛緩が残っていそうなときは,意識がある可能性も考えて声をかけ,苦痛に配慮します.
♦️ 覚醒遅延で考える主な原因
原因を見渡すための表です.上から一つずつ調べ終えてから次へ進む,という順番ではありません.複数の原因が重なることもあります[1].
| 🔍 考える原因 | どう関係するか | 確認する情報の例 |
|---|---|---|
| 麻酔薬・鎮静薬・オピオイドなどの作用 | 意識や呼吸の回復に影響する | 薬剤名,総量,最終投与時刻,持続投与の終了,呼気麻酔薬濃度,常用薬 |
| 残存筋弛緩 | 動いて応答できず,「覚めていない」ように見える.呼吸にも影響する | 定量TOF,測定条件,筋弛緩薬・拮抗薬の投与歴 |
| 換気・酸素化の異常 | 低換気によるCO₂の蓄積や低酸素血症が,意識の回復に影響する | 気道・回路,呼吸の様子,換気量,カプノグラム,必要なら血液ガス |
| 体温・血糖・電解質などの異常 | 低体温,低血糖,著しいNa,Mg異常などが関与する | 深部体温,血糖,電解質,酸塩基平衡 |
| 脳・神経の異常 | 脳梗塞,頭蓋内出血,低酸素性脳障害,非けいれん性発作など | 瞳孔・眼位,観察できる動きの左右差,術前との違い,術中の経過,専門評価 |
※表は,総説[1],ASAガイドライン[2],AHA/ASAの声明[4],ACNSの合意声明[5]をもとに,この記事用に整理したものです.
🔹 薬剤は「止めたか」だけでなく,「何を,いつまで使ったか」
吸入麻酔薬なら呼気濃度,静脈麻酔薬なら投与量や持続投与の経過を確認します.
途中で追加したオピオイドや鎮静薬,術前から飲んでいる薬も見直します.肝・腎機能や年齢によって,薬の効き方が変わることもあります[1].
記録上は止めたことになっていても,実際に止まっているかを確かめます.ポンプは止まっているか,投与ラインに薬が残っていないか,といった確認です.
呼気の吸入麻酔薬濃度が下がっていても,オピオイドなど他の薬の作用まで消えたとは言えません.「吸入麻酔薬は抜けた」と「薬のせいではない」は別の話です.
🔹 換気は,SpO₂だけでは分からない
SpO₂が教えてくれるのは酸素化です.CO₂を十分に吐き出せているかは,別に確かめます[6].
手術室で挿管中なら,EtCO₂とカプノグラムで換気を確認できます.必要なら血液ガスでPaCO₂も見ます.換気が足りずにCO₂がたまりすぎると,それ自体が覚醒を遅らせます[1].
ここで分けて考えたいのは,人工呼吸で保たれている換気と,患者さん自身の呼吸です.
調節換気の間は,EtCO₂やPaCO₂は主に人工呼吸器の設定で決まります.値が正常でも,それは「機械で換気できている」という意味で,患者さんが自分で十分に呼吸できるかは分かりません.逆に,換気を多めにしてPaCO₂が下がっていると,自発呼吸が出にくくなることもあります.
患者さん自身の呼吸は,補助を減らしたときに見えてきます.自発呼吸が出ているか,1回換気量や呼吸回数は十分か,そのときEtCO₂がどう変わるか,を見ます.
抜管後や回復室では,見え方が変わります.酸素を投与していると,換気が足りなくてもSpO₂は保たれることがあるので,呼吸回数や呼吸の様子もあわせて観察します.
🔹 低体温や代謝の問題も,薬剤と切り離さない
低体温は,それ自体が覚醒を遅らせるうえに,薬の分解や排泄も遅くして,作用を長引かせることがあります.低血糖や大きな電解質の異常も,反応が戻らない原因になります[1].
特に血糖は,ベッドサイドですぐに測れて,低ければすぐに対応が必要です.薬の確認と並行して,早めに測っておきたい項目です[1,4].
異常が一つ見つかって対応しても,ほかの原因がないとは限りません.対応したあと,呼びかけへの反応や呼吸がどう変わったかまで見届けます.
♦️ TOFやBISは,何を見ている?
🔹 TOFは神経筋機能を見る
ここでは主に,ロクロニウムなどの非脱分極性筋弛緩薬からの回復を説明します.
TOFは,末梢神経を4回続けて刺激し,筋肉の反応を見る方法です.TOF比は,4回目の反応の大きさを1回目の大きさで割った値です[2].
ASAの2023年ガイドラインは,定量的な筋弛緩モニターを使うこと,母指内転筋で評価することを推奨しています.定量モニターを使う場合は,抜管前にTOF比0.9以上を確認するよう推奨しています[2].
測り方にも注意が必要です.加速度法(AMG)では,筋弛緩薬を入れる前のTOF比が1.0を超えることがあります.そのため,入れる前の値で補正(正規化)しないと,回復を実際より良く見積もることがあります[2].ガイドラインの本文では,筋電図法(EMG)か,正規化したAMGでTOF比0.9以上を,十分な回復の目安としています[2].
TOFが見ているのは,あくまで筋弛緩からの回復です.意識や呼吸中枢の状態は測っていません.TOF比が回復しただけで,抜管できるとは判断しません.
🔹 BISは意識の有無を確定する検査ではない
BISは,脳波をもとに計算した数値で,あくまで補助的な指標です.メーカーも,診断や治療の判断をBISだけに頼らないよう示しています[3].
BISが高いというだけで,「意識が戻った」「指示を理解できる」とは言えません.TOFと同じく,何を見ている数字なのかを意識して,患者さんの様子と合わせて読みます.
♦️ 危険な原因の評価を,後回しにしない
覚醒が遅いとき,薬の影響はもちろん大事な候補です.ただ,「薬のせい」と決めてしまうと,脳卒中などの評価が遅れるおそれがあります.
目が一方に寄っている(共同偏視),手足の動きに明らかな左右差がある,といった新しい所見があれば,迅速な対応が必要になります.脳卒中が疑われれば,院内の脳卒中対応に沿って迅速な専門評価・画像検査へ進みます[4].薬剤の確認や対応も並行して続けます.
術中に心停止,低酸素血症,大きな血圧低下,塞栓を疑う出来事がなかったかも振り返ります(心停止が起きてたら手術は中止になってると思うけど😅).
心房細動や手術の内容なども,脳の原因を考える手がかりになります[1,4].診察所見とこうした経過をあわせて伝え,どのくらい急いで評価するかを判断します.
また,指示に従えず,筋力や言葉を十分に診察できていない患者さんを,「麻痺なし」「神経学的に異常なし」とまとめないようにします.評価できなかったことと,異常がなかったことは違います.
周術期脳卒中は,はっきりした片麻痺などを伴わず,覚醒遅延として現れることもあります[4].明らかな左右差がなくても,薬や換気・代謝の評価と対応を進めたあとに,説明できない反応の低下が続く場合は,経過を伝えて追加の専門評価や原因検索を相談します[1].
原因が分からない意識障害では,目に見えるけいれんがない発作(非けいれん性発作)も考えます.米国臨床神経生理学会(ACNS)の合意声明は,重症患者の原因不明の意識の変化を,持続脳波の適応に含めています[5].ただし,麻酔後に覚めにくい患者さん全員に持続脳波を行うという意味ではなく,経過や所見から必要性を専門医と判断します(そりゃそう).
♦️ 「まだ覚めません」で終わらせない
「まだ覚めません( 。•̀_•́。)✧キリッ」だけでは,相談を受けた人も状況がつかめません.
どの薬をいつ止めたか,最後の追加投与はいつか.呼びかけ,指示,呼吸の反応がどう変わってきたか.換気の補助の程度,TOF,体温や血糖で分かったこと.こうした情報を,時刻と一緒に伝えます.
脳の原因を考えるときは,最後に普段どおりの状態を確認できた時刻(最終正常確認時刻)も大切です[4].「反応が戻らない」と気づいた時刻を,そのまま脳卒中の発症時刻にはしません.
📝 まとめ
🔑 Key Points
- 反応が乏しいときは,意識,筋弛緩からの回復,自発呼吸を分けて見る.
- 薬だけでなく,換気・酸素化,体温・代謝,脳の原因も見渡す.原因は一つとは限らない.
- TOFやBISの数字だけで回復を判断しない.危険な原因を疑ったら,薬の確認が終わるのを待たずに伝える.
📚 References & Further reading
- Cascella M, Bimonte S, Di Napoli R. Delayed Emergence from Anesthesia: What We Know and How We Act. Local Reg Anesth. 2020;13:195–206. doi:10.2147/LRA.S230728
- Thilen SR, et al. 2023 American Society of Anesthesiologists Practice Guidelines for Monitoring and Antagonism of Neuromuscular Blockade. Anesthesiology. 2023;138:13–41. doi:10.1097/ALN.0000000000004379
- Medtronic. BIS System With 3.5 Software Product Guide. 2026年10月20日閲覧.
- Benesch C, et al. Perioperative Neurological Evaluation and Management to Lower the Risk of Acute Stroke in Patients Undergoing Noncardiac, Nonneurological Surgery: A Scientific Statement From the American Heart Association/American Stroke Association. Circulation. 2021;143:e923–e946. doi:10.1161/CIR.0000000000000968
- Herman ST, et al. Consensus Statement on Continuous EEG in Critically Ill Adults and Children, Part I: Indications. J Clin Neurophysiol. 2015;32:87–95. doi:10.1097/WNP.0000000000000166
- American Society of Anesthesiologists. Standards for Basic Anesthetic Monitoring. Standard II,Oxygenation/Ventilation.2026年10月20日閲覧.
🔗 Related articles
- 追加予定