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Contents
♦️ はじめに
本記事では,脱分極性筋弛緩薬と非脱分極性筋弛緩薬の違いを整理し,RSIおよびCICO(挿管も換気もできない状況)における最適な選択について,最新のエビデンスに基づいて解説します😊.
- 脱分極性筋弛緩薬と非脱分極性筋弛緩薬はその作用機序が大きく異なります☝️.
- 迅速導入(Rapid Sequence Induction: RSI),いわゆる「クラッシュインダクション」は,誤嚥リスクの高い患者に対して迅速に気道確保を行うための麻酔導入・気管挿管手技です☝️.
- 従来(私が麻酔科医になった20年程度前位),RSIではスキサメトニウム(サクシニルコリン)が「ゴールドスタンダード」とされてきました.しかし,ロクロニウムの高用量投与(1.2 mg/kg)とスガマデクスによる即時拮抗の登場により,その運用は大きく変化しました.
♦️ 脱分極性筋弛緩薬と非脱分極性筋弛緩薬
🔷 概略
- 通常の筋収縮は,神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン受容体にアセチルコリンが結合することから始まります.
- 筋弛緩薬は,このアセチルコリン受容体への作用機序により,脱分極性と非脱分極性に分けられます.
- 脱分極性筋弛緩薬の代表がスキサメトニウム(サクシニルコリン)です.アセチルコリン受容体に結合して持続的な脱分極を引き起こし,筋収縮後に弛緩をもたらします.効果発現が極めて速く(約60秒),作用時間は短い(約7〜10分)のが特徴で,血漿コリンエステラーゼにより加水分解されます.
- 非脱分極性筋弛緩薬の代表がロクロニウム(エスラックス®)です.アセチルコリン受容体に競合的に結合して,アセチルコリンの結合を阻害します.標準量(0.6 mg/kg)では効果発現に約90秒以上かかりますが,高用量(1.2 mg/kg)投与により約60秒に短縮できます.スガマデクスによる拮抗が可能な点が大きな特徴(神🥹)です.
ここで,作用機序について「よくわからない」と一年目の看護師さんに言われたり,一度は勉強したはずの研修医に質問しても,今一つわかっていないことが多い😅ため簡単に説明しておきます.
🔷 アセチルコリン,スキサメトニウム,ロクロニウムの構造の違い
筋収縮は,神経筋接合部にある受容体に,神経から放出されたアセチルコリンが結合することでナトリウムチャネルが開くことから開始します.これだとわかりにくいので,以下のように例えます.
- アセチルコリン:毎回必要な一回限りの純正の鍵🔑
- アセチルコリン受容体:鍵穴🔒
- ナトリウムチャネル:ドアを開けるための電動モーター
- コリンエステラーゼ(分解酵素):使い終わった鍵を即座に回収して捨てる,専用回収業者.
鍵穴に鍵を差し込んで回すことで,電流が流れてモーターが動き,ドアが開きます.
- アセチルコリンは使用1回限り純正キーです.鍵穴(受容体)にぴったりフィットして,チャネルを開け(筋が収縮),開いたらすぐに抜いて回収業者に渡します.このため,スムーズに開閉ができ,次の鍵を持った人もすぐに使えます.
- スキサメトニウムは,本物の鍵を元に作られた偽造キー(アセチルコリンが二つ結合した物質)です.アセチルコリンで出来ているので,鍵穴に入って回せます(脱分極をさせる).回せますがすぐに抜けません.回収業者も回収できないためしばらく刺さったままになって,電流が流れ続けるためドアは開きっぱなしになります.その後モーターがオーバーヒートしてしまい,ドアは閉まります.そのころに鍵はぽろっと取れますが,モーターが冷えるまで動かないため,その後,純正の鍵を持った人が入ろうと思っても使えず,しばらくはドアは開きません(筋弛緩状態).
- ロクロニウムは先端の形状が似てるので鍵穴には入るけど,回せないタイプのダミーキーです.当然ドアは開きませんが,この鍵を持ってきた人は悪戯目的(しかもちょっと怖い人😡)です,ガチャガチャを繰り返して,しばらく鍵穴を独占しているため,次の人が来ても鍵穴を明け渡してくれません.回収業者は偽の鍵は回収しても処理できないためどうしようもないし,怖い人に声もかけれずで,なんと新しく来た人の鍵を回収し始めてしまいます(あ,ここ今使えないんですよ・・鍵,もらっておきますね).新しい人は鍵が無くなったので諦めてどこかにいってしまいます.そのためしばらくはドアは開かない状態が続きます(筋弛緩状態)
🔷 スガマデクス(新しい筋弛緩拮抗薬)とネオスチグミン(古い筋弛緩拮抗薬)
- スキサメトニウムには拮抗薬は存在しないため,なんとか引っこ抜けるまで待つしかありません.厳密には血漿コリンエステラーゼという,名前は似てるけど別の分解酵素(血液中に存在)処理してくれます.
- ロクロニウムには拮抗薬が2種類存在し,昔からあるネオスチグミンと,15年前に発売された特異的拮抗薬のスガマデクスがあります.
- ネオスチグミン:回収業者が過剰な仕事(新しく来た人の鍵まで回収してしまう)をするのを止める警備員.
- スガマデクス:不当に鍵穴を占拠している人を強制的に連れて行く警察.
- 警備員(ネオスチグミン)が来ると,余計な仕事をする回収業者を止めます(鍵穴を占拠している人は怖いのでそこまでは止めれない・・笑).するとどんどん次の鍵を持った人が,鍵穴を占拠している人の後ろに並んで囲み,「圧をかけはじめます」笑.そうするとさすがにその圧に耐えかねて,ダミーキーを使っていた人は引き下がって,純正キーを持った人が使えるようになります.
- 警察(スガマデクス)が来ると,怖いとか関係なしに連れていってくれるので(お前,なにやってんだこら),すぐに次の人が正常に鍵を使えるようになります.
・・ちょっとわかりにくいし,厳密には微妙な部分もあるのですが,なんとなくそんな感じで想像してみてください😅.
♦️ RSI(迅速導入)におけるロクロニウム vs スキサメトニウム
- 2015年に発表されたCochrane Systematic Review [1] は,RSIにおける両薬剤を直接比較したエビデンスです.
- このレビューでは,スキサメトニウムが「優れた(Excellent)」挿管条件(つまり完全に動きがない状態)を作ることに関してわずかに優れていることが示されています.ただし,臨床的に許容できる(Acceptable)挿管条件に関しては,ロクロニウム1.2 mg/kgを用いた場合と有意差がないと結論付けられています.つまり,スキサメトニウムでも,高用量のロクロニウムでほとんど違わない👍.
- つまり,RSIにおいてロクロニウム1.2 mg/kgを用いれば,実臨床上はスキサメトニウムと同等の効果が期待できるということです.であれば,副作用の懸念が大きいスキサメトニウムを積極的に使用する意義はなくなります.ちなみに,ロクロニウムの標準量(0.6 mg/kg)では効果発現が遅すぎるため,RSIでは必ず高用量を選択する必要があります.
♦️ 副作用と禁忌⚠️
🔷 スキサメトニウムの副作用と禁忌
スキサメトニウムには重要な副作用のリスクがあります.
- 最も注意すべきは高カリウム血症です.脱分極に伴ってカリウムが細胞外へ放出されるため,腎不全患者などでは致死的な高カリウム血症を引き起こします.
- また,熱傷,圧挫症候群(クラッシュ症候群),一部の神経筋疾患,長期臥床,脊髄損傷などの患者では絶対禁忌となります.
- 悪性高熱症の素因がある患者にも禁忌です.また,小児における心停止のリスクから,米国FDAは警告を出しています.その他,徐脈(特に小児や反復投与時),術後筋肉痛,眼圧・頭蓋内圧上昇などの副作用があります.
🔷 ロクロニウムの副作用
- ロクロニウムは比較的安全性が高いですが,アナフィラキシーのリスクがあります.報告頻度は地域によって異なり,特にフランスやオーストラリアでは比較的高い発生率が報告されています [4].また,注射部位の血管痛が見られることがあります.筋弛緩薬と抗菌薬は,周術期アナフィラキシーの主な要因となります.
- RSI時の高用量使用時は作用持続時間が延長するため,十分なモニタリングまたはスガマデクスによる拮抗が前提となります☝️.
♦️ CICOにおけるスガマデクスの役割
- CICO(Cannot Intubate, Cannot Oxygenate:挿管も換気もできない緊急事態)において,筋弛緩の迅速な拮抗が超重要になります.麻酔科医が手術が始まる前に最も怖れる事態です😨.
補足
- かつでは(今でも)CVCI(Cannot Ventilate, Cannot Intubate)と呼ばれていましたが,より本質的な問題である「酸素化ができないこと(換気が出来ない→結果的に酸素化できない)」に焦点を当てた,CICOという名称が主流になっています.
- 2012年のSørensen らによるランダム化比較試験 [2] は,この場面でのスガマデクスの優位性が示されました.ロクロニウム投与後にスガマデクス16 mg/kgで拮抗した群では,筋力回復までの時間が約2〜3分でしたが,スキサメトニウムの自発呼吸回復を待つ場合は約7〜10分を要します.
- この時間差は,低酸素による脳虚血のリスクを考えると非常に重要です.
- 2022年のASAガイドライン [3] においても,困難気道管理の戦略としてロクロニウム使用下でのスガマデクス拮抗が明記されました.これにより,「ロクロニウム+スガマデクス」の組み合わせは,単に代替手段ではなく,安全性に優れた選択肢として位置付けられています.

♦️ 臨床現場での使い分け🤔
🔷 ロクロニウム 1.2 mg/kgを選択すべき症例
- 通常のRSI(迅速導入)
- 高カリウム血症リスクのある患者(熱傷,クラッシュ,神経筋疾患)
- 悪性高熱症の既往・家族歴がある患者
- 困難気道が予測され,CICO時の即時拮抗が必要な場合
🔷 スキサメトニウムを検討してもいい症例
- 喉頭痙攣など超短時間での確実な筋弛緩が求められる場合(この場合でも,すぐに拮抗する必要がなければ別にロクロニウムでよい)
- スガマデクスが使用できない環境(だとしても,待てば切れるし,ネオスチグミンもあるのでロクロニウムでも別に構わない)
- ロクロニウムまたはスガマデクスのアナフィラキシーの既往がある場合.
👉つまり,アナフィラキシーの既往がない限り,スガマデクスがあればロクロニウムで代替可能👍
🔷 日本国内での留意点
- 日本の添付文書(PMDA 2024)[5] では,ロクロニウム高用量使用時の作用持続時間延長について注意喚起されています.緊急気管挿管時の高用量投与は認められていますが,十分な術後管理が前提です.
- コスト面では,スガマデクスは比較的高価(1バイアル約1万円)です.しかし,患者安全の「保険」として捉えれば,日本の医療環境では許容される傾向にあります.現在は後発品が出ているので価格的にもやさしくなりました.👉200mg製剤で約2,700円〜2,900円台,500mg製剤で約6,300円〜6,900円台です😊.
スキサメトニウムの供給に関して
- スキサメトニウムは,2021年に原薬製造所に対する行政処分が行われたことにより,一時的に供給が困難になった時期があります.
- その後麻酔科学会からの,様々な部門に対する働きかけもあり,日本薬局方外の原薬を用いた製造が正式に承認され,安定供給が再開されました.
🤔 よくある質問(FAQ)
🤔 RSIでロクロニウムとスキサメトニウムのどちらを選ぶべきですか?
- 現代の麻酔管理では,スガマデクスが使用可能な環境であればロクロニウム1.2 mg/kgが推奨されます.
🤔 ロクロニウム1.2mg/kgの効果発現時間はどのくらいですか?
- ロクロニウム1.2 mg/kgを投与した場合,約60秒で良好な挿管条件が得られます.これはスキサメトニウムとほぼ同等の効果発現時間です.
🤔 スキサメトニウムが禁忌となる症例は?
- 高カリウム血症を引き起こすリスクのある症例,悪性高熱症の素因がある患者で禁忌となります.
🤔 CICOでスガマデクスを使う利点は何ですか?
- スガマデクス16 mg/kgを投与すると約2〜3分で筋力が回復し,自発呼吸の再開が期待できます.
- スキサメトニウムの自発呼吸回復を待つ場合は7〜10分を要するため,低酸素脳症のリスク軽減においては,スガマデクスに大きな優位性があります.
🏠 まとめ Take Home Messages
🔑 Key Points
- RSIではロクロニウム1.2 mg/kgで約60秒の効果発現
- スキサメトニウムは高カリウム血症・悪性高熱症リスク症例で禁忌
- CICOではスガマデクス16 mg/kgで約2〜3分で筋力回復
- スガマデクス使用可能環境ではロクロニウムが安全面で優位
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📚 References & Further reading
- 1. Tran DT, Newton EK, Mount VA, Lee JS, Wells GA, Perry JJ. Rocuronium versus succinylcholine for rapid sequence induction intubation. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(10):CD002788. PMID: 26512948
- 2. Sørensen MK, Bretlau C, Gätke MR, Sørensen AM, Rasmussen LS. Rapid sequence induction and intubation with rocuronium-sugammadex compared with succinylcholine: a randomized trial. Br J Anaesth. 2012;108(4):682-689. PMID: 22401768
- 3. Apfelbaum JL, Hagberg CA, Caplan RA, et al. 2022 American Society of Anesthesiologists Practice Guidelines for Management of the Difficult Airway. Anesthesiology. 2022;136(1):31-81.
- 4. Guihard B, Chollet-Xémard C, Lakhnati P, et al. Effect of Rocuronium vs Succinylcholine on Endotracheal Intubation Success Rate Among Patients Undergoing Out-of-Hospital Rapid Sequence Intubation: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2019;2(12):e1917861. PMID: 31846014
- 5. 医薬品医療機器総合機構. エスラックス静注25mg/50mg 添付文書. 2024.
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