👩‍🦰 👶妊娠中の鎮痛・解熱薬は安全!?🤔 〜アセトアミノフェンとNSAIDs〜 💊

妊娠中の鎮痛・解熱薬の選び方を示した。アセトアミノフェンとNSAIDsの妊娠週数別使用可否。ジクロフェナク禁忌など麻酔科専門医試験・周術期管理チーム試験対策に最適な教材。

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Contents

♦️ はじめに

妊娠中の患者さんが発熱や疼痛を訴えた際,どの薬剤を選択すべきか迷った経験はありませんか?.また,妊婦さん自身,いつも飲んでいた市販の鎮痛薬を飲んでいいのかどうか迷ったことはありませんか?🤔

妊娠中の薬剤選択は,母体の症状緩和と胎児への安全性のバランスが求められます.

妊娠中の鎮痛・解熱薬として,アセトアミノフェンは妊娠全期を通じて最も安全な第一選択薬とされています😊.実際,妊婦の約50-65%がアセトアミノフェンを使用しており,最も広く使われている妊娠中の薬剤の一つです.

一方,NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:ジクロフェナクやロキソプロフェン,イブプロフェンなど)は妊娠20週以降で胎児への重大なリスクがあり,FDA(米国食品医薬品局)は2023年に使用禁止の警告を強化しました.日本でも添付文書が改訂され,適切な薬剤選択がこれまで以上に重要となっています.

この記事では,妊娠中の鎮痛・解熱薬の安全性に関する最新エビデンス,日本における承認状況,臨床現場での使い方について,周術期管理チーム試験および麻酔科専門医試験の頻出ポイントを交えて解説します👍


♦️ アセトアミノフェン:妊娠中の第一選択薬 🟢

アセトアミノフェン(内服薬のカロナール®,点滴用のアセリオ®等)は,妊娠中いつでも使える最も安全な薬として,世界中で第一選択薬とされています

米国産科婦人科学会(ACOG)の2025年声明,カナダ産科婦人科学会(SOGC)の2025年ガイドライン,FDAの2023年勧告のいずれも,アセトアミノフェンを妊娠中の疼痛・発熱管理の第一選択薬として推奨しています.日本麻酔科学会の周産期薬物投与ガイドライン(第4版)においても,同様の推奨がなされています☝️

ただし,実際の使用にあたっては,必要最小用量・最短期間という原則が重要です.成人では1回300-1000mg,1日最大4000mgまでの使用が可能ですが,妊娠中は症状緩和に必要な最小量にとどめることが推奨されます.

重要なのは,発熱や疼痛を放置することによる母体・胎児リスクとのバランスです.妊娠初期の高熱は流産や先天異常のリスク因子となり,疼痛の持続はストレスホルモンの上昇を介して胎児に悪影響を及ぼす可能性があります.適切な症状管理は,母体のQOL向上だけでなく,胎児の健康維持にも寄与します.

オピオイド鎮痛薬の妊娠中使用については別記事で詳しく解説しますが,まずはアセトアミノフェンでの管理を行いましょう.


♦️ NSAIDs:妊娠後期での禁忌とリスク⚠️

NSAIDsは妊娠20週以降で使用禁止となっており,これは試験でも頻出の重要ポイントです。

🔷 FDAの警告

FDAは2023年,妊娠20週以降のNSAIDs使用に関する警告を強化しました.主なリスクは以下の3つです.

🔸 胎児腎障害と羊水過少

NSAIDsはプロスタグランジンという物質の働きを抑えることで,胎児の腎臓への血流を減少させます.妊娠20週以降,胎児の腎臓は羊水産生の主要な役割を担うようになり,プロスタグランジンE2が胎児腎血流の維持に重要な働きをしています.
NSAIDsはこの経路を阻害するため,胎児尿産生が低下し,羊水過少を引き起こします.羊水過少は肺低形成や四肢拘縮などの重篤な合併症につながり,胎児の予後に深刻な影響を及ぼす可能性があります😓

🔸 動脈管早期閉鎖

妊娠30週以降では,NSAIDsによる動脈管収縮のリスクがさらに高まります.胎児循環において動脈管は肺循環を迂回するための重要な経路であり,その早期閉鎖は胎児心不全や肺高血圧を引き起こす可能性があります.
胎児循環に関しては,また別の記事でも取り上げたいと思います☝️

🔸 分娩への影響

NSAIDsは子宮収縮を抑制し,分娩遅延や出血リスクの増加をもたらす可能性があります.

日本においては,特にジクロフェナクNa(ボルタレン®等)は妊婦禁忌とされており,添付文書においても記載されています.他のNSAIDs(イブプロフェン,ロキソプロフェン等)も妊娠20週以降は原則として使用を避けるべきとされています.

🔷 妊娠20週前のNSAIDs使用と注意点(👉あえて使用する意義は低い)

妊娠19週までのNSAIDs使用については,薬剤によっては限定的な使用が認められる場合があります.ただし,これは「19週まで安全」という意味ではなく,やむを得ない場合に限り,慎重に使用するという位置づけです.

妊娠20-30週でやむを得ずNSAIDsを使用する場合は、厳格な監視体制が必要です。具体的には,48時間以上の使用で羊水量の超音波評価を行い,羊水過少の兆候がないか確認します.羊水過少が認められた場合は,直ちにNSAIDsを中止し,中止後24-48時間で羊水量が正常化することを確認します.いずれの時期においても,NSAIDsを使用する際は最小用量・最短期間の原則を厳守します.

ただし,実際に使う状況は アセトアミノフェンで対応困難な強い炎症痛など,極めて限定的です.通常アセトアミノフェンやその他の鎮痛方法との併用で代替可能です.


♦️ アセトアミノフェンの長期・高用量投与:最新エビデンス

近年,妊娠中のアセトアミノフェン使用と児の神経発達障害(自閉症,ADHD等)との関連が報告され,懸念が広がっていました.しかし,2024年のAhlqvistらによる大規模研究をはじめとする最新のエビデンスにより,この懸念は大きく払拭されています.

スウェーデンの大規模出生コホート(約250万人!)により,遺伝や環境要因を考慮した解析が行われ,因果関係は認められませんでした.同様の結果は,Pradaら(2025)の系統的レビューでも支持されています.

ACOGとSOGCは2025年の声明で,これらの最新研究を踏まえ,アセトアミノフェンの妊娠中使用の安全性を改めて確認しました.そのため,妊娠中の疼痛・発熱に対する第一選択薬としての推奨は変わっていません

🇯🇵 日本における現状

一方,日本では2024年に添付文書が改訂され,妊娠後期のアセトアミノフェン使用において動脈管収縮の可能性がある旨が記載されました.この改訂は,ラット実験での弱い収縮所見と数例の症例報告を根拠としていますが,因果関係は明確ではありません
症例報告では他の要因(NSAIDs併用等)が除外しきれておらず,アセトアミノフェン単独の影響とは断定できません.国際的なガイドライン(ACOG、SOGC)では,このリスクについて言及しておらず,引き続きアセトアミノフェンを第一選択薬として推奨しています.

臨床現場では、日本の添付文書改訂の内容を理解しつつも、国際的なエビデンスと照らし合わせ、必要最小量・最短期間で使用する原則を守れば、アセトアミノフェンは妊娠全期を通じて安全に使用できると考えられます。

♦️ 日本における市販の鎮痛薬選択の注意点⚠️

市販の総合感冒薬や鎮痛薬には,NSAIDsが含まれている製品が多く存在します.イブ®,ロキソニン®S,バファリン®プレミアム,ノーシン®,PL顆粒®等です.一方で,アセトアミノフェン単剤の市販薬(例:タイレノール®やカロナール®,バファリンルナ®など)もあります.

妊娠中の患者さんには,市販薬を使用する前に必ず成分を確認し,不明な場合は医療従事者に相談するよう指導することが重要です.複数の製剤を併用する際も,総合感冒薬とカロナール®を併用すると意図せずアセトアミノフェンの過量投与となる可能性があるため注意が必要です.

アセトアミノフェンの過量投与については,記事の最後の関連ページを参照してください.

♦️ 実際の臨床のポイント☝️

🔷 妊娠週数別の薬剤選択

  • 妊娠全期:アセトアミノフェンが第一選択(必要最小量・最短期間
  • 妊娠19週まで:やむを得ない場合のみNSAIDs限定使用を検討
  • 妊娠20-30週:NSAIDs原則禁止,やむを得ず使用する場合は48時間以上で羊水量超音波評価
    • 👉使用しないのが無難
  • 妊娠30週以降:NSAIDs絶対禁忌(動脈管収縮リスク)
    • 👉使用しちゃだめ🙅

例えば,妊娠28週の患者さんが頭痛を訴えた場合,まずアセトアミノフェン1回500mgの投与を検討します.効果不十分な場合は用量を増やすことも可能ですが,NSAIDsは使用できません.

🔷  患者教育の重要性☝️

  • 市販薬の成分を使用前に必ず確認すること(アセトアミノフェン単剤の市販薬はOK),
  • 総合感冒薬とカロナール®の併用に注意すること
  • ジクロフェナクNa製剤は使用不可であること(妊娠後は基本NGとする)
  • 自己判断での薬剤変更は避け必ず医療従事者に相談することを,患者さんに十分説明する必要があります.

🔷 鎮痛薬(アセトアミノフェン)のリスク・ベネフィット

発熱・疼痛を放置することによる母体・胎児リスク(流産,先天異常,ストレス等)と,薬剤使用によるリスクを天秤にかけ,適切な治療判断を行うことが重要です.
多くの場合,適切に使用されるアセトアミノフェンのベネフィットはリスクを上回ります

📖 試験対策の頻出ポイント:

  • 妊娠20週,30週という時期的基準
  • ジクロフェナクNa禁忌
  • アセトアミノフェン第一選択
  • NSAIDsによる胎児リスク(腎障害,羊水過少,動脈管収縮)


📝 まとめ:Take Home Messages

アセトアミノフェンは妊娠全期で第一選択薬NSAIDsは妊娠20週以降禁忌です(基本どのNSAIDsも特別な場合を除き,全期間NGとしていたほうがよい).

🔑 Key Points

  • アセトアミノフェンは妊娠全期を通じて最も安全な鎮痛・解熱薬であり,必要最小量・最短期間での使用は問題ない.
  • NSAIDsは妊娠20週以降で胎児腎障害・羊水過少,30週以降で動脈管収縮のリスクがあり使用禁止
  • アセトアミノフェンと神経発達障害との因果関係は最新研究で否定されており,安全性が再確認されている.
  • アセトアミノフェン過量投与は急性肝不全の主要原因であり,NAC早期投与が重要(別ページで特集
  • 日本ではジクロフェナクNaは妊婦禁忌,市販薬の成分確認が不可欠.たくさんの市販薬でNSAIDsが含まれている.アセトアミノフェン単剤の市販薬もあり.

📚 References & Further reading

  • American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Statement on Acetaminophen Use During Pregnancy. 2025.
  • US Food and Drug Administration (FDA). FDA Recommends Avoiding Use of NSAIDs in Pregnancy at 20 Weeks or Later Because They Can Result in Low Amniotic Fluid. 2023.
  • Society of Obstetricians and Gynaecologists of Canada (SOGC). Acetaminophen Use in Pregnancy: Joint Statement. 2025.
  • 日本麻酔科学会. 周産期薬物投与ガイドライン
  • Ahlqvist VH, et al. Confounding of the association between acetaminophen use during pregnancy and adverse neurodevelopmental outcomes. JAMA Psychiatry. 2024;81(3):238-247. doi:10.1001/jamapsychiatry.2023.4525
  • Prada D, et al. Prenatal exposure to acetaminophen and neurodevelopmental outcomes: A systematic review and meta-analysis with bias analysis. Environ Res. 2025;240:117520. doi:10.1016/j.envres.2024.117520
  • Watkins PB, et al. Aminotransferase elevations in healthy adults receiving 4 grams of acetaminophen daily: a randomized controlled trial. JAMA. 2006;296(1):87-93. doi:10.1001/jama.296.1.87
  • LiverTox: Clinical and Research Information on Drug-Induced Liver Injury. Acetaminophen. Bethesda (MD): National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases; 2012-.

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出典

  • 本記事は上記の資料に基づく教育目的の記事です.

注意事項

  • 本記事の内容は,上記資料に基づく著者の解釈を反映したものです.
  • 臨床判断は必ず原著資料および最新のガイドラインを参照の上,各施設のプロトコルと担当医の判断に基づいて行ってください.
  • 本記事は医学的助言や治療の代替となるものではありません.
  • 日本での薬剤使用に際しては,添付文書,承認状況,保険適用の条件を必ず確認してください.

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