💉 硬膜穿刺後頭痛(PDPH)の診断と管理:最新エビデンスに基づく実践ガイド【Part 1:診断編】

硬膜穿刺後頭痛(PDPH)診断ガイドのサムネイル画像。体位性頭痛の特徴、ICHD-3診断基準、針選択による予防戦略を示すビジュアル。麻酔科専門医試験・周術期管理チーム試験対策の重要ポイントを視覚化。

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Contents

♦️ はじめに

硬膜穿刺後頭痛(Post-Dural Puncture Headache: PDPH)は,脊髄くも膜下麻酔や腰椎穿刺(手技合併症的には硬膜誤穿刺:ADP)の後に発生する代表的な合併症です.発生率は針の特性や患者背景により大きく変動し,針のタイプや患者集団によって数パーセントから30%台まで幅広く報告されています.

おそらく麻酔科医であれば,一度は手技合併症の有無に関わらず,経験したことがあるのではないでしょうか😅

2023年から2024年にかけては国際的なコンセンサスガイドラインが相次いで改訂され,診断基準の明確化と段階的な管理フレームワークが整理されました。;.

本記事では,麻酔科専門医試験および周術期管理チーム試験の受験者,さらに周術期管理に携わる医療従事者を対象に,PDPHの最新エビデンスに基づく診断と管理について解説します.日本においても欧米ガイドラインが広く参照されており,本邦の臨床実態を踏まえた実践的なポイントを取り上げます😊.

本記事はPart 1(診断編)とPart 2(治療・管理編)の2部構成となっています.Part 1では診断と疫学を中心に解説します


♦️ 定義と病態生理

🔹 PDPHとは何か

PDPHは,PostDural-Puncture-Headacheの略で,硬膜穿刺に伴って発生する特徴的な体位性頭痛です.

国際頭痛分類第3版(ICHD-3)による診断基準では,硬膜穿刺を受けた患者において,通常穿刺後5日以内に発症する頭痛であり,座位や立位をとって15分以内に増悪し,臥位をとって15分以内に改善する体位性の特徴を持つものと定義されています.

この体位性成分は臨床診断において極めて重要な特徴であり,起立時に頭痛が悪化し横になると軽快するという明確なパターンが認められます.

⚠️ ICHD-3の最新の定義では,体位性成分が明示的な必須項目から外され低CSF圧と画像所見が重視されていますが,実臨床ではPDPH患者の95%以上に体位性変化が認められるため,診断上最も有用な臨床指標として広く用いられています.
ICHD-3が体位性成分を必須項目から外した背景には,低CSF圧という病態生理学的機序と,それを裏付ける画像所見を重視し,診断基準をより厳密にしようとする意図があったと推測されます.しかし,体位性頭痛がPDPHの極めて重要な臨床的特徴であるという事実は変わらず,議論となっているようです🤔

多くの症例では頭痛は前頭部や後頭部を中心とした両側性の痛みとして現れ,項部硬直,耳鳴り,光過敏,悪心といった随伴症状を伴うことがあります.診断には硬膜穿刺との時間的関係が重要であり,穿刺と頭痛発症との因果関係を示すことが求められます.

🔹 発症機序

PDPHは,硬膜穿刺に伴う硬膜欠損部(穴)からの持続的な脳脊髄液(CSF)の漏出により発生します.CSFが減少すると頭蓋内圧が低下し,いわゆる低髄液圧症候群(intracranial hypotension)となり,これが頭痛の主な原因になります.

起立時には重力の影響でCSFがさらに尾側へ移動するため脳が下垂し,硬膜,血管,脳神経などの痛覚受容構造が牽引されます.この牽引刺激が,特徴的な体位性頭痛の発生に直接つながります

また,CSF減少に対する代償として脳血管が拡張し,これも頭痛の増悪に関与すると考えられています.

これらの病態生理は麻酔科専門医試験でも頻出であり,PDPHの理解に不可欠なポイントです.


♦️ 疫学とリスク因子

🔹 発生率:針の種類が重要☝️

PDPHの発生率は,手技の種類や使用する針の特性によって大きく異なります.脊髄くも膜下麻酔全体での発生率は,針のタイプや患者背景により2%未満から40%程度まで幅広く報告されています(1)(4)(5)(6)

針の種類による差は特に顕著で,カッティング型針(通常の点滴をとる時に使う普通の針)では20%台後半から30%台前半(!)の発生率が報告されているのに対し,ペンシルポイント型(非カッティング型)針では発生率が大幅に低下します.

ペンシルポイント型(非カッティング型)針は,硬膜線維を押し分けるように穿刺するため,カッティング型針と比較して硬膜欠損が小さくなり,PDPH発生率を大幅に低減します(4)(5)(6).日本ではWhitacre針やSprotte針など,ペンシルポイント型針が広く使用されています.

針の太さも重要な因子であり,26ゲージ以下の細径針を使用することで発生率が2%未満まで低減することが示されています.当院では26Gを用いています(27Gもいいんですが,髄液のバックフローがかなりゆっくりになるので・・😅).

また,腰椎穿刺では診断目的で太い針が使われることが多く,脊髄くも膜下麻酔と比較して発生率がやや高い傾向(報告により10〜数十%まで)あります(髄膜炎やくも膜下出血などの際の髄液検査).

🔹 患者関連リスク因子

PDPHの発生には複数の患者関連因子が関与しており,これらは国家試験レベルでも重要な知識です.年齢では若年成人が特にリスクが高く,18〜40歳の層で発生率が最も高いとされています.性別では女性でリスクが高く,特に産科領域では若年女性が多いため高リスク群となります.このあたり,麻酔科専門医試験でも過去に何度も出題があります.

体格については低BMIが独立したリスク因子として報告されており,BMIが低いほどPDPHの発生リスクが上昇する傾向が認められます(1)(5)(6).肥満による高い腹腔内圧が硬膜外の圧を上昇させることで漏出が減少するというメカニズムのようです☝️

このほか,頭痛疾患の既往やPDPHの既往がある場合には,再発リスクが高いことも知られています。これらの患者因子は,術前評価で脊髄くも膜下麻酔を計画する際の重要なリスク層別化の指標となります.複数のリスク因子を持つ患者では,特に慎重で丁寧な手技が求められます(針はもちろんペンシルポイント☝️).

🔹 手技関連リスク因子

PDPHのリスクは,手技の技術的要素にも大きく左右されます.針の種類や太さに関しては上述の通りです.ただし,極端に細い針を使用すると穿刺の難易度が上がり,複数回の穿刺試行が必要になる可能性があります).この場合,複数回の穿刺自体がリスク因子となる場合があります.

カッティング針を使用する際には、ベベル(針の斜面)を縦方向に向けて穿刺することで,硬膜線維の走行に沿った切開となり,発生率をある程度低減できる可能性が示唆されています.でも麻酔ではペンシルポイント使いましょう😊☝️


♦️ 臨床診断と鑑別診断

🔹 特徴的な臨床像

冒頭でも述べましたが,PDPHの診断で最も重要なのは,明確な体位性変化を示す頭痛パターンです.典型的には,患者が起立または座位をとると頭痛が増悪し,臥位になると軽快するという経過をたどります.この体位性変化は通常15分以内という比較的短時間で生じることが多いです.

頭痛の性状は前頭部や後頭部を中心とした両側性の痛みが多く,圧迫感や拍動性として表現されることがあります.随伴症状として項部硬直,耳鳴り,聴覚障害,光過敏,悪心・嘔吐,めまいなどがみられることがあり,これらは低CSF圧に関連した頭蓋内構造の変化を反映しています(1)(2)(3)(5)

発症時期は多くの症例で穿刺後数時間から5日以内ですが,遅発例も報告されています.頭痛の持続期間は,通常2週間以内に自然に軽快することが多いようですが,個人差が大きく,適切な治療を行わない場合には数週間から数か月続くこともあります(2週間以上続く可能性も十分ある).

臨床診断では,硬膜穿刺の既往と体位性頭痛という2つの要素の組み合わせが診断の核心となります.

🔹 鑑別診断と画像検査の適応

PDPHの診断は主に臨床的特徴に基づきますが,非典型的な経過をとる場合には他の頭痛疾患との鑑別が重要です.特に注意すべき状況として,体位性変化を示さない頭痛,穿刺後5日を超えて初発する頭痛,神経学的異常症状を伴う頭痛が挙げられます.

こうした非典型例や,以下のようないわゆるred flag症状がみられる場合には,重篤な神経学的合併症の可能性を考慮し,神経画像検査を検討する必要があります.

画像検査の適応となるのは,突然発症の激烈な頭痛,進行性の増悪,意識レベル低下,局所神経症状,痙攣,発熱などです.これらは硬膜下血腫,脳静脈洞血栓症,髄膜炎など生命を脅かす病態を示唆する可能性があり,迅速な評価が求められます(1)(2)

鑑別診断としては片頭痛や緊張型頭痛,髄膜炎(多くが発熱を伴う),くも膜下出血などの頭蓋内病変,産科領域では子癇前症に伴う高血圧障害(PRES)などがあり,詳細な病歴聴取と身体診察をもとに総合的に判断します.


よくある質問(FAQ)- 診断編

🤔 硬膜穿刺後頭痛(PDPH)の原因は何ですか?

PDPHは神経軸索手技中の硬膜穿刺によって生じた硬膜欠損部から脳脊髄液(CSF)が漏出することで発生します.CSFの喪失により頭蓋内圧が低下し,起立時には脳が下垂することで痛覚受容構造への牽引が生じ,特徴的な体位性頭痛が現れます.さらに,低CSF圧に対する代償として脳血管が拡張し,これも頭痛の一因と考えられます.

🤔 どの針を使えばPDPHのリスクを減らせますか?

ペンシルポイント型(非カッティング型)針は,カッティング型針と比べてPDPHの発生率を大幅に低下させます.26ゲージ以下の細径針を用いるとさらにリスクは減少しますが,極端に細い針は穿刺が難しくなり複数回の試技につながる可能性もあります.臨床状況と術者の技量に応じて選択することが重要です.日本ではWhitacre針やSprotte針が広く使用されています.

🤔 PDPHの重篤な合併症にはどのようなものがありますか?

頻度は低いものの,硬膜下血腫(SDH),脳静脈洞血栓症(CVST),脳神経麻痺などの重篤な神経学的合併症が起こりえます.頭痛のパターンが急に変わった場合,新たな神経症状が出現した場合にはこれらを疑い,迅速な神経画像検査と専門医へのコンサルテーションが必要です.



📝 まとめ:Take Home Messages(診断編)

PDPHは神経軸索手技に続発する体位性頭痛であり,診断基準の標準化により,エビデンスに基づいた診断が可能となっています.

Part 2(治療・管理編)では,保存的治療,硬膜外血パッチ,薬物治療,予防戦略について詳しく解説します.

🔑 Key Points

  • PDPHの診断は,硬膜穿刺後5日以内に発症する特徴的な体位性頭痛に基づき,ICHD-3基準に従う.
  • 診断の必須要素は「座位・立位で15分以内に増悪,臥位で15分以内に改善」という明確な体位性変化.
  • リスク層別化では,患者因子(若年,女性,低BMI,頭痛の既往)と手技因子(針のサイズ・タイプ,穿刺回数)の両方を考慮する.
  • ペンシルポイント型針(26G以下)の使用がPDPH予防の最も効果的な戦略.
  • 非典型的な経過やred flag症状がある場合には,重篤な神経学的合併症(硬膜下血腫,脳静脈洞血栓症)を除外するため,速やかな画像検査が必要.

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📚 References & Further reading

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  • Uppal V, Russell R, Sondekoppam RV, et al. ASA consensus-based guidance statement on neuraxial anesthesia in obstetric patients with thrombocytopenia. Reg Anesth Pain Med. 2024;49(1):3-13.
  • Morgan P, Davies S. Management of postdural puncture headache: current approaches. JAMA. 2021;326(21):2188-2189.
  • Weji BG, Etafa WD, Shiferaw WS, Debebe AM. Incidence and risk factors of post-dural puncture headache. BMC Res Notes. 2020;13(1):549.
  • Al-Hashel JY, Ismail II. A simple clinical review of post-dural puncture headache. Headache. 2022;62(7):855-865.
  • Uppal V, Retter S, Casey K, Sancheti S, Matheson K, Prabhakar C. Hyperbaric versus isobaric bupivacaine for spinal anesthesia: systematic review and meta-analysis for adult patients undergoing surgery. Anesth Analg. 2024;138(4):697-710.
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