📘 致死率が激減!悪性高熱症の早期発見と最新基準によるダントロレン投与

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Contents

♦️ はじめに

悪性高熱症(MH)は、全身麻酔における,稀だが致死的な合併症として知られています。揮発性吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬により誘発される遺伝性疾患であり、骨格筋のカルシウム代謝異常が原因です。

かつては大多数の患者が死に至る恐るべき病態でしたが、特効薬ダントロレンの導入により致死率は現在10%以下まで劇的に改善しました😊。

麻酔科専攻医や周術期管理チーム試験の受験者にとって、トリガー薬剤の正確な把握、早期診断の指標、緊急治療プロトコルの理解は必須です。

本記事では、実臨床での迅速な対応力と試験での得点力を高めるための知識を体系的に解説します。国際的な発生頻度はおよそ1万から5万人に1人程度とされていますが、国内での詳細なデータは現在収集中です(1, 4)。


♦️ 悪性高熱症の病態生理

🔹 遺伝的背景と遺伝形式

悪性高熱症は常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる遺伝性疾患です。骨格筋リアノジン受容体遺伝子(*RYR1*)の変異が、症例の半数以上で同定されています(5, 8)。かつて「常染色体優性遺伝」と呼ばれていましたが、現在は「顕性遺伝」という用語が推奨されており、試験でもこの用語が使用されることがあります。

家族歴がある場合、発症リスクは高まりますが、変異を持っている人全員が必ずしも発症するわけではありません.

🔹 リアノジン受容体(RYR1)とカルシウム代謝異常

病態の中心は、骨格筋細胞内のリアノジン受容体(RYR1)を介したカルシウムイオン(Ca²⁺)の過剰放出です。トリガー薬剤が投与されると、変異RYR1受容体が異常な開口状態となり、筋小胞体から細胞質へのCa²⁺放出が制御不能に陥ります。その結果、筋収縮が持続し、酸素消費量と熱産生が急激に増加します。この代謝亢進状態が、頻脈、アシドーシス、筋硬直、そして最終的には体温上昇へと進展します.(1, 4)。

この病態生理の理解は、なぜ体温上昇が遅れて現れるのか、なぜEtCO₂が最も敏感な指標なのかを納得する上で重要です(後述)。


♦️トリガー薬剤と安全な薬剤

麻酔科医にとって、トリガー薬剤の完全な把握は生命に直結する知識です。すべての揮発性吸入麻酔薬(セボフルラン、デスフルラン、イソフルラン、ハロタン等)および脱分極性筋弛緩薬であるスキサメトニウムが、MHを誘発する可能性があります(1, 4)。これらの薬剤は骨格筋のRYR1受容体に作用し、過剰なCa²⁺放出を引き起こします。

一方、安全に使用できる薬剤も明確です。プロポフォール、エトミデート、ベンゾジアゼピン系、オピオイド、そして非脱分極性筋弛緩薬(ロクロニウム、ベクロニウム等)は、MH易発症性患者に対しても安全とされています。もし試験では「非脱分極性筋弛緩薬は安全か」という問いが出た場合,答えは「安全」です。脱分極性と非脱分極性を混同しないよう注意が必要です(1, 2)。


臨床症状と診断のポイント

🔹 早期発見の重要性

悪性高熱症の早期発見において、最も敏感な初期サインは呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO₂)の進行性の上昇です。代謝亢進により産生されたCO₂が血中に蓄積し、呼気中のCO₂濃度として即座に反映されるためです。EtCO₂の異常上昇を認めたら、まずMHを疑う必要があります。

続いて頻脈が出現し、代謝性および呼吸性アシドーシスが進行します。筋硬直も重要なサインですが、全例で認められるわけではありません。これらの症状が段階的に進展していく過程を理解することが、迅速な診断につながります(1, 6)。

🔹「高熱症」という病名の誤解

病名に「高熱症」という言葉が含まれているため、体温上昇が初発症状と誤解されがちですが、実際には体温上昇は代謝亢進の結果として遅れて現れることが多いです。EtCO₂上昇や頻脈が先行し、その後に熱産生が蓄積して体温が上昇します。

したがって、体温上昇を待ってから治療を開始するのでは手遅れになる可能性があります。この点は試験でも頻出の誤解ポイントであり、臨床でも初学者が陥りやすい落とし穴です(4)。

検査所見としては、クレアチンキナーゼ(CK)の著明な上昇、ミオグロビン尿、高カリウム血症が認められます。これらは横紋筋融解症の進行を示唆する所見であり、急性腎障害のリスクを評価する上でも重要です。


♦️緊急時の治療プロトコル

🔹 疑った場合の初期対応

悪性高熱症を疑った瞬間から、迅速な対応が求められます。

まず、トリガー薬剤の投与を直ちに中止し、手術を可能な限り早期に終了させます。同時に応援を要請し、複数の医療従事者で対応する体制を整えます。換気は100%酸素で行い、過換気により蓄積したCO₂を排出します。これらの初期対応を並行して進めることが救命の第一歩となります(2, 3)。

🔹 ダントロレン投与

ダントロレンは筋小胞体からのCa²⁺放出を抑制するMHの特効薬です。海外のMHAUS等のガイドラインでは、初期投与量として約2.5 mg/kgの静脈内投与が推奨されており、日本麻酔科学会のガイドラインもこれに準じて1mg/kg(できれば2mg/kg)との改訂がされています.ただし溶けにくいので,協力して溶かす必要があります!

ただし,日本の添付文書上は初期1 mg/kgと記載されており、乖離がある点に注意が必要です。症状が改善するまで、およそ5分から10分ごとに追加投与を繰り返します。合計投与量は症例によって異なり、10 mg/kg程度以上必要になる場合もあります。重要なのは、症状が改善するまで投与を継続することであり、明確な上限は設定されていません(ちなみに,添付文書上の最大投与量は7mg/kg)(2, 3, 7)。

ダントロレンの投与には、複数のスタッフによる迅速な溶解作業が不可欠です。この点は後述する日本における薬剤事情のセクションで詳しく解説します。

🔹 補助療法

ダントロレン投与と並行して、積極的な冷却療法を行います。冷却された輸液、体表冷却、胃洗浄などが用いられます。

高カリウム血症に対しては、炭酸水素ナトリウム投与によるアシドーシスの補正、グルコース・インスリン療法によるカリウムの細胞内への移動促進が行われます。

尿量のモニタリングも重要であり、横紋筋融解症に伴うミオグロビン尿による急性腎障害を予防するため、十分な尿量を確保します(1)。

♦️ 合併症と予後

悪性高熱症の主要な合併症は、横紋筋融解症に起因します。筋細胞の崩壊により、高カリウム血症と急性腎障害が生じます。高カリウム血症は致死的な不整脈を引き起こす可能性があり、前述の補助療法による迅速な管理が必要です。

また、播種性血管内凝固症候群(DIC)が合併することもあります。DICでは凝固因子の消費と線溶系の亢進により、出血傾向と微小血栓形成が同時に生じます。そのため、凝固能のモニタリング(PT、APTT、フィブリノゲン、Dダイマー等)を行い、必要に応じて新鮮凍結血漿や血小板輸血などの補充療法を検討します(1)。

予後については、ダントロレン導入前の時代には大多数の患者が死亡していましたが、現在では致死率は10%以下まで低下しています。この劇的な改善は、早期診断と迅速なダントロレン投与の重要性を物語っています。ただし、診断の遅れや治療の不足があれば、依然として致命的な転帰をたどる可能性があるため、常に高い臨床的警戒心が必要です(1)。


♦️ MH易発症性患者への麻酔計画

🔹 術前評価と麻酔器準備

家族歴や過去のMH発症歴がある患者は、MH易発症性患者として慎重な術前評価が必要です。遺伝カウンセリングや遺伝子検査が推奨される場合もあります。

麻酔器の準備では、回路内に残留する揮発性麻酔薬を除去するため、高流量酸素での回路フラッシュを行うか、活性炭フィルター(Vapor-Clean等)を使用します。活性炭フィルターの使用は、フラッシュ時間を大幅に短縮できる有効な手段として、近年のガイドラインでも推奨されています(2)。

🔹 完全静脈麻酔(TIVA)

MH易発症性患者に対しては、トリガー薬剤を完全に避けた麻酔計画が基本です。プロポフォールを中心とした完全静脈麻酔(TIVA)が第一選択となります。

筋弛緩薬には非脱分極性筋弛緩薬を使用し、スキサメトニウムは絶対に使用しません(まぁ最近はほとんど使われてないと思いますけど・・)。また、術中はEtCO₂、体温、心拍数などのモニタリングを厳重に行い、異常の早期発見に努めます(1, 2)。

手術室にはダントロレンを常備し、緊急時に即座に使用できる体制を整えておくことが不可欠です。ただし,使わないまま有効期限を迎えることが多いです・・😅


♦️日本におけるダントロレン製剤の特徴

日本の臨床現場において重要な情報として、国内で使用されているダントロレン製剤の特性を理解しておく必要があります。米国等で使用されている高濃度懸濁製剤「Ryanodex」は、2025年現在も日本国内では未承認です。国内で標準的に使用されているのは「ダントリウム静注用20mg」であり、この製剤の溶解には1瓶あたり60mL程度の滅菌蒸留水を要します(3, 7)。

MH発症時においては、初期投与だけでも体重70kgの患者で約9瓶(2.5 mg/kg × 70 kg ÷ 20 mg/瓶 ≒ 8.75瓶)、最低量の1mg/kgを投与する場合でも4瓶(2mg/kgなら7瓶)が必要となります。溶解作業は時間を要する(溶けにくい)ため、複数のスタッフによるマンパワーの確保が極めて重要です。事前に溶解手順を確認し、チーム全体でシミュレーション訓練を行っておくことが推奨されます。


🤔よくある質問(FAQ)

🤔 なぜ「高熱症」なのに体温上昇が遅いのか?

  • 悪性高熱症における体温上昇は、代謝亢進の結果として生じる二次的な現象です。トリガー薬剤により筋細胞内のCa²⁺が過剰放出されると、筋収縮が持続し、酸素消費と熱産生が急激に増加します。
  • しかし、産生された熱が体温として測定可能なレベルに達するまでには時間がかかります。一方、代謝亢進により産生されたCO₂は血中に即座に反映され、EtCO₂として検出されます。
  • このため、EtCO₂上昇が最も早期の指標となり、体温上昇は遅れて現れます.

🤔 非脱分極性筋弛緩薬は安全か?

  • はい、非脱分極性筋弛緩薬(ロクロニウム、ベクロニウム等)は、MH易発症性患者に対しても安全に使用できます。MHを誘発するのは脱分極性筋弛緩薬であるスキサメトニウムのみです。
  • 非脱分極性筋弛緩薬は作用機序が異なり、RYR1受容体を介したCa²⁺放出を引き起こしません。

🤔 ダントロレンの最大投与量に上限はあるか?

  • ダントロレンの投与は、症状が改善するまで継続することが原則であり、明確な最大投与量の上限は設定されていません。初期投与量は海外ガイドライン上約2.5 mg/kgです(日本では1〜2mg/kg)が、合計で10 mg/kg程度以上必要になる症例も報告されています。
  • 重要なのは、EtCO₂、心拍数、筋硬直、体温などの臨床症状を注意深く観察し、改善が得られるまで5分から10分ごとに追加投与を行うことです。

🤔 家族歴がある場合の術前対策は?

  • MHの家族歴がある患者には、術前にその旨を詳細に聴取し、遺伝カウンセリングや遺伝子検査の必要性を検討します。
  • 麻酔計画では、トリガー薬剤を完全に回避した完全静脈麻酔(TIVA)を選択し、麻酔器の準備として回路フラッシュまたは活性炭フィルターの使用を行います。
  • 手術室にはダントロレンを確実に常備し、スタッフ全員がMH発症への対応手順を理解しておくことが重要です。

🤔 国内でのダントロレン製剤の特徴は?

  • 日本国内で使用されているダントリウム静注用20mgは、溶解に1瓶あたり60mL程度の滅菌蒸留水を必要とします。米国で使用されている高濃度懸濁製剤Ryanodexとは異なり、溶解作業に時間を要するため、MHクライシス時には周術期管理チームを含む複数のスタッフによるマンパワーの確保が不可欠です。
  • 事前のシミュレーション訓練と、溶解手順の周知が推奨されます。

🏠 Take Home Messages

悪性高熱症について重要な点をまとめます。

悪性高熱症は揮発性吸入麻酔薬とスキサメトニウムにより誘発される致死的な遺伝性疾患であるが、早期発見と迅速なダントロレン投与により致死率は劇的に改善した。

🔑 Key Points

  • MHはRYR1変異によるCa²⁺過剰放出で発症し、EtCO₂上昇が最も敏感な初期サインで、体温上昇は遅れて現れる
  • ダントロレンは約2.5 mg/kgを初期投与(国内では1〜2mg/kg)し、症状改善まで反復投与する(上限なし)
  • 非脱分極性筋弛緩薬は安全であり、MH易発症性患者にはTIVAを選択する
  • 国内ではダントロレン溶解に時間を要するため、マンパワー確保が重要である

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📚 References & Further reading

  • 1. Rosenberg H, Pollock N, Schiemann A, et al. Malignant hyperthermia: a review. Orphanet J Rare Dis. 2015;10:93. PMID: 26238698.
  • 2. Malignant Hyperthermia Association of the United States (MHAUS). Managing a Malignant Hyperthermia Crisis. Available at: https://www.mhaus.org/healthcare-professionals/mhaus-recommendations/managing-a-crisis/. Accessed December 26, 2025.
  • 3. 日本麻酔科学会. 悪性高熱症管理ガイドライン. 2025年(2025年3月改訂). Available at: https://anesth.or.jp/.
  • 4. Hopkins PM, Girard T, Dalay S, et al. Malignant hyperthermia 2020: Guideline from the Association of Anaesthetists. Br J Anaesth. 2021;126(1):120-130. PMID: 33139041.
  • 5. Riazi S, Kraeva N, Hopkins PM. Malignant hyperthermia in the post-genomics era: new perspectives on an old concept. Anesthesiology. 2018;128(1):168-180. PMID: 28914619.
  • 6. Watt JM, Amini A. Rare but deadly: Malignant hyperthermia. Clin Pract Cases Emerg Med. 2023;7(2):47-49. DOI: 10.1213/CP.0000000000001428.
  • 7. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). ダントリウム静注用20mg添付文書. Available at: https://www.info.pmda.go.jp/.
  • 8. Brandom BW, Bina S, Wong CA, et al. Ryanodine receptor type 1 gene variants in the malignant hyperthermia-susceptible population of the United States. Anesth Analg. 2013;116(5):1078-1086. PMID: 23558840.

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