低酸素血症とは・・?
誤解を恐れずものすごく単純に言えば「体の中の酸素が少ない状態」.ただし少ないからといって「足りない」とは同義でないのがまた悩ましいところ.
もう少し詳しく言うと「血液中の酸素が少ない状態」.もっと数値的な定義をすると「低酸素とは動脈血中酸素分圧が60mmHg以下」.ただし,あくまで低酸素血症とは「病名」ではなく「状態」です.基礎疾患や病態など状況によって対処も異なるため元々曖昧なものなのです😅.
ここで注意したいのは,「低酸素血症(hypoxemia)」と「低酸素(hypoxia)」は似て非なる言葉ということです.前者は血液中の酸素分圧の問題,後者は組織が実際に酸素不足に陥っている状態を指します.つまり,血液の酸素が低くても組織がまだ保たれていることもあれば,逆に血中酸素が十分でも組織レベルで酸素利用ができないこともあるのです.
とは言え,低酸素血症が続く状態は有害であり,特殊な状態(先天性心疾患など)を除いて基本的には何らかの対処が必要と考えましょう.「病名ではなく状態」であるからこそ,原因検索と迅速な対応が臨床で大事になります.
酸素はなぜ必要?
ではなぜ体の中に酸素が必要なのでしょうか?「息苦しくなるから」?.あくまでそれは結果です.血液中の酸素が少なくなると体は呼吸を促して新たな酸素を取り入れるために”息苦しいと感じさせる”のです.
体を動かすにはエネルギー(主にアデノシン三リン酸:ATP)が必要です.そのATPを効率的に産生する反応に酸素が必要不可欠です.
酸素は生体にとって必ずしも安全な物質ではないため大量に蓄えることもできず,反応を回すために一般的な生物は酸素を取り込むために呼吸をし続けなければならない宿命を負っているのですᕦ(ò_óˇ)ᕤー(詳しい生化学的な反応,その他免疫反応や重要な代謝にも酸素が関与していますが,ここでは割愛).
低酸素血症のイメージ
教科書の呼吸生理や低酸素血症について書かれてある部分を読むと,いろいろな定義や分類がされていますが,これがなかなかわかりにくいものも多いので,低酸素血症の原因のイメージの仕方について例を用いて説明していきます.
🔷 イメージのための定義
- あなたは果物屋🏠(細胞)を経営していますが,主要商品のリンゴ🍎(酸素)が売り切れ寸前です.
- あなたはリンゴ🍎を農家🧑🌾(呼吸の指令を出す脳の呼吸中枢)に依頼します.
- 注文したリンゴ🍎は空輸🛫(呼吸)で到着した後,運送業者の営業所(肺🫁)まで専用道路🛣️(気道)で運ばれたあと,運送業のトラック🚚(血液,具体的には赤血球内のヘモグロビン)で道路🛣️(血管)経由で果物屋🏠まで運ばれます.
以上のいずれかのプロセスに問題が生じると低酸素血症(低酸素状態)になります.それでは1つずつ見ていきましょう!
🔷 低換気①:脳(呼吸中枢)が働いていない・・・
あなたがせっかく注文を出したのに,肝心な農家の人が調子が悪くて,休業中,または十分な人手がいないようです.飛行機は飛んでは来ているものの十分な量とは言い難いです.
この状態が『低換気その1:呼吸抑制』です.周術期では麻酔薬,麻薬性鎮痛薬(オピオイド)などが使用されることが多いため,十分な呼吸が行われず低酸素状態に陥る可能性があります.
つまり,『そもそも入ってこねー!』という状態です.
🔷 低換気②:専用道路🛣️(気道)に問題がある.
リンゴ🍎(酸素)は空港に無事届けられています.しかし,運送業者(肺)に届けるまでの専用道路🛣️(気道)に問題があってうまく到着しないようです.
この状態が『低換気その2:気道閉塞』です.みなさんもいびきがひどい人を知っていますね?いびきが大きいだけならまだよいのですが,時折呼吸が止まる人がいます.これが睡眠時無呼吸症候群(SAS)です.つまり,呼吸して酸素を取り入れようという努力はあるのですが,その酸素の通り道である気道(主に上気道)に問題がある状態です.
リンゴ🍎(酸素)は運ばれてきているにも関わらず,土砂崩れ🌋や交通規制👷で塞がれているため十分な量が運送業者(肺)まで届かないため低酸素状態に陥る可能性があります.
つまり,『運送業者までもまだ届いてないよ!』という状態です.
注:気管支喘息による低酸素血症も低換気が原因の一つになりますが,この場合はもう少し複雑になるのでそれはまた喘息が話題となる別記事で説明します.
🔷 酸素化の障害:運送業者の営業所(肺🫁)に問題がある
さぁようやく配送業者(肺🫁)にリンゴ🍎が届きました.ようやく発送開始!といきたいところですが,「あーっ火事🔥だ!」.せっかくのリンゴ🍎が燃えてしまっています(焼きリンゴも美味しいですけどね・・😅).焼け残ったリンゴ🍎もありますが,必要な量には足りないようです.
この状態が『酸素化の障害』です.酸素化の障害となる病態はたくさんありますが,主なもので言うと,肺炎,肺水腫(水浸しでリンゴがダメになる),肺胞虚脱(無気肺:営業所の一部が閉鎖状態)などですね.
つまり,『運送業者のトラブル(システムエラーや営業所の事故)で十分な発送ができてないよ!』という状態です.
🔷 酸素運搬の障害:配送トラック(血液)
さてようやく配送業者からリンゴ🍎が出発しました!と言いたいところですが・・なんと何台かのトラック🚚にパンクが見つかりやはり十分な量のリンゴ🍎が入ってこない見込みです・・
この状態が『酸素の運搬障害』です.酸素は赤血球内のヘモグロビンに結合して運搬されるので,貧血があると送られてくる酸素は当然少なくなってしまいます.
また,重症心不全でも組織に十分な酸素が供給されなくなり,低酸素血症や組織の酸素不足に陥ることがあります.トラック🚚のエンジンが不調を起こしたとか,渋滞など道路状況が悪い(スピードが出ない)状況に例えることができます.
つまり,『トラックの調子や道路状況が悪くて一定の期間に十分な量が届かない』ということですね.
🔷 酸素の利用障害:リンゴが盗まれた・・・!
さてようやくトラック🚚が到着してリンゴ🍎が引き渡されます.そしてリンゴを見たら・・あれ?運送業者さんが謝っています.理由を聞くとリンゴが積み込みから配送経路のどこかで盗まれてしまったようです.なんということでしょう.待ちに待ったリンゴ🍎は届けられませんでした・・😭.
これが『酸素の利用障害』です.例えば一酸化炭素とヘモグロビンの結合のしやすさは酸素の200倍以上とも言われ,一酸化炭素中毒ではヘモグロビンは酸素と結合できなくなり組織に酸素が運ばれなくなります(酸素を積み込んだつもりが一酸化炭素でトラックが埋められる).その結果急激に重篤な低酸素状態になり市に至る可能性があります.
またシアン中毒の場合,細胞のエネルギー生成が直接阻害され,酸素があっても細胞がそれを利用できなくなります. つまり,『結局届かなかった!あるいは使い物にならない状態にされた』ということですね.
※正確には,CO中毒は「酸素運搬の障害」と「利用障害」の両方の特徴を持っていますが,ここではイメージしやすいようにまとめています.
📝 まとめ
低酸素血症の実際の詳細なメカニズムはもっと複雑ですが,簡単なイメージを用いるとおおよそ以上のようになります.周術期では「低換気」と「酸素化障害」が頻度高く,早期発見と対応が重要です.ややシンプルな例えでしたが,理解の一助になれば幸いです.
- 低換気:酸素が肺まで十分に届かない(麻酔薬やSASの影響)
- 酸素化障害:肺に問題がある(肺炎や肺水腫など)
- 酸素運搬障害:酸素が肺から十分に運ばれてこない(貧血や心不全)
- 酸素利用障害:酸素が使えない(一酸化炭素中毒やシアン中毒)
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