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Contents
♦️ はじめに
- 周術期の深部静脈血栓症(DVT)予防において,弾性ストッキング(ES)と間欠的空気圧迫法(IPC)は「物理的予防法」として欠かせない存在です😊.
- DVTの発生にはVirchowの三徴(血流の停滞,血管壁の障害,血液凝固能の亢進)が関与しますが,物理的予防法はこのうち「血流の停滞」に対処するものです.特に抗凝固療法が困難な出血高リスク群では第一選択となります.
- ただ,「とりあえず装着しておけばよい」という考えは危険です⚠️.既存のDVTがある患者への装着は肺血栓塞栓症を誘発しますし,重症末梢動脈疾患患者への装着は血行障害を悪化させます.また,不適切な装着は腓骨神経麻痺やコンパートメント症候群などの重篤な合併症を招くこともあります.
- 本記事では,麻酔科専門医試験や周術期管理チーム試験でも頻出の物理的予防法について,その禁忌と注意点を整理していきます😊☝️
物理的予防法の基礎知識
🔹 弾性ストッキング(ES)の作用機序
- 弾性ストッキングは,下肢に段階的な圧迫を加えることで表在静脈を圧迫し,深部静脈の血流速度を増加させます.足首で最も強く(20〜30mmHg),大腿に向かって徐々に圧が減少する構造により,静脈還流を促進する仕組みです.
- Virchowの三徴のうち「血流の停滞」に対処する方法ですが,単独での予防効果は中リスク患者に限られ,高リスク以上では効果が弱いことが知られています.
🔹 間欠的空気圧迫法(IPC)の作用機序
- IPCは下腿や大腿に巻いたスリーブに空気を間欠的に送り込み,機械的に静脈血を押し上げます.筋肉ポンプ作用を模倣するだけでなく,線溶活性を高める効果もあるとされています.
🔹 IPCとESの効果比較
- ここは試験でもよく問われるポイントです.2013年のメタ解析[1]では,IPCは「予防なし」と比較してDVTを有意に減少させ(7.3% vs 16.7%,RR 0.43),ES単独よりも効果的であることが示されました.さらに,薬理学的予防との併用でDVTリスクはさらに低下します(RR 0.54).
- 出血リスクが高い患者では抗凝固療法の代替としてIPCが特に有用です.
🙅 絶対禁忌:装着してはいけない状態 ⚠️
🔹 既存DVTがある場合(IPC)
- これが最も重要な禁忌です.臨床的に明らかなDVTがある下肢へのIPC装着は,血栓を剥離させ肺血栓塞栓症(PTE)を誘発する危険があります.
- 日本のVTE予防ガイドラインでも「静脈血栓症が診断された場合のIPC使用は原則禁忌」と明記されています[4].装着開始時にDVTの存在を完全に否定できない場合は,十分なインフォームド・コンセントのもとで慎重に使用し,PTEの発症に注意を払う必要がありますね.
🔹 重症末梢動脈疾患(PAD)
- 動脈の血流が悪い患者さんに持続的に圧迫を加えると,血管を完全に潰してしまい,虚血性壊死を引き起こすリスクがあります.そのため,以下の数値を目安に原則禁忌となります.
- 足関節血圧 <60mmHg
- ABPI(足関節上腕血圧比)<0.6
- 足趾血圧 <30mmHg
- ただし,国際コンセンサス[2]では,「持続的な圧迫(弾性ストッキング)」は絶対禁忌としていますが,「間欠的空気圧迫法(IPC)」は慎重に使用できる場合があるとしています.加圧の合間に血流が再開する時間があるため,持続的な静止圧を加える弾性ストッキングに比べて,虚血になりにくいことがその理由です.
🔹 装着不能な肥満患者
- 装置を適切に装着できない一部の肥満患者では,IPCは禁忌となります.
- 適切なフィットが得られない状態での使用は,効果が得られないだけでなく,局所的な過度の圧迫による合併症のリスクを高めるためです.
🔹 動脈血行障害の評価方法
- 装着前には必ず動脈血行障害の評価を行いましょう.
- 拍動確認:足背動脈および後脛骨動脈の拍動を触診
- 視診:皮膚温,色調,疼痛の有無を確認
- ABPI測定:拍動が微弱または触知できない場合に実施
- PMDAの医療安全情報No.56(2019)[3]では,閉塞性動脈硬化症などの動脈血行障害患者への弾性ストッキング使用について,血行障害を悪化させるおそれがあるとして注意喚起がなされています.
🙅 相対禁忌と慎重投与
🔹 心不全患者(NYHA III/IV)
- うっ血性心不全自体は禁忌ではありませんが,NYHA III/IVの患者では静脈還流の増加により心負荷が増大する可能性があります.国際コンセンサス[2]によると,以下のように示されています.
- NYHA IV:圧迫適用は推奨しない
- NYHA III:ルーチンの圧迫適用は推奨しない
- 慎重な適用と継続的なモニタリングが必要です.
🔹 糖尿病・知覚障害患者
- こちらも,糖尿病自体は禁忌ではありませんが,糖尿病性神経障害や脊髄損傷などで知覚が低下している患者では,圧迫による不快感や痛みを自覚できないため,皮膚障害や褥瘡のリスクが高まります.
- これらの患者さんに使用する場合は,いつも以上に慎重に定期的な皮膚観察が特に重要です.
🔹 骨隆起部への対応
- ラプラスの法則により,脚の半径が小さい部位や骨・腱の隆起部では局所圧が高くなります.以下の部位では特に注意が必要です.
- 足首
- 脛骨
- 腓骨頭(腓骨神経麻痺リスクも)
- アキレス腱
これらの部位では除圧パッドの使用や,全体的な圧力の低減を検討しましょう😊.
ラプラスの法則とは・・
- 圧迫圧(P)は張力(T)が高いほど,また半径(R)が大きいほど強くなるという法則です.つまり,「同じ強さのゴム(張力)でも,巻く場所の半径が小さい(細い)ほど,皮膚にかかる圧力は強くなる」ということです.

- 脛骨前面(弁慶の泣き所),腓骨頭,アキレス腱などの骨が腱が出っ張っている部分は,局所的に「半径(R)が極端に小さい」状態です.
- 骨隆起部にガーゼや綿花などでパディングを行うのは,擬似的に「半径(R)を大きくして,圧(P)を下げる」ためです.
♦️ 合併症とその予防
🔹 腓骨神経麻痺
- 膝外側の腓骨頭付近で総腓骨神経が圧迫されることで生じます.側臥位や不適切なサイズ選択がリスク因子です.
- 適正サイズの選択
- 腓骨頭付近に指2本分の隙間があることを確認
- 側臥位での使用時は特に注意
🔹 コンパートメント症候群
- 下腿の過度な圧迫により筋区画内圧が上昇し,血流障害を来す重篤な合併症です.
- 症状には以下のようなものがあります.
- 激しい疼痛(特に受動伸展時に増悪)
- 感覚障害
- 筋力低下
- 蒼白・脈拍減弱(進行例)
- 疑われた場合は直ちに弾性ストッキング・IPCを除去し,必要に応じて筋膜切開を検討します.
🔹 皮膚障害・褥瘡
- 弾性ストッキングのしわやよじれ,折り返しは局所的な駆血帯効果を生じ,皮膚潰瘍の原因となります.
- 特に「長さが余ったから」と膝下で折り返して使用しているケースは要注意です🙅.これは最強の駆血帯(ターニケット)となり,静脈還流を完全に遮断してしまいます.
- 「折り返し禁止」は現場で徹底すべきポイントです.また,素材によるアレルギー反応(接触性皮膚炎)にも注意が必要です.
- 観察窓から足趾の皮膚色・爪床の色調を評価(窓は「足趾を出すため」ではなく「血流評価のため」にあります)
- 皮膚・爪の色調変化をチェック
- しわ・よじれ・折り返しがないか確認(特に膝下の折り返しは絶対禁止)
- 発赤・掻痒感などのアレルギー症状がないか確認
☝️ 適正な装着管理のポイント
🔹 サイズ選定の方法
- 弾性ストッキングは最大周径を測定し,製品のサイズ表に従って適切なサイズを選択します.
- 適切な圧勾配(足首で20〜30mmHg)が維持されるサイズでなければ,効果が得られないだけでなく合併症のリスクも高まります⚠️
🔹 装着時間と継続期間
- 周術期には1日15〜18時間以上の装着が推奨されます.十分な歩行が可能になるまで継続しますが,「いつ中止するか」については施設間で差があります.
- なお,IPCの正装着率は53%という報告もあり,コンプライアンスが課題です.携帯型IPCでは77.7%と改善がみられます.
🔹 保険診療上の注意
- 日本では「肺血栓塞栓症予防管理料」(305点)を算定する場合,リスク評価に基づいた予防計画の策定と説明・同意が必須となります.
- 単に弾性ストッキングやIPCを装着するだけでは算定要件を満たしません.リスク分類(低・中・高・最高)に応じた予防法の選択と,その根拠を診療録に記載しておきましょう.
🔹 定期的な観察項目
- 下肢の腫脹,疼痛,浮腫の有無
- 皮膚温,色調の変化
- 足背動脈・後脛骨動脈の拍動
- ホーマンズ徴候(足関節背屈時の腓腹部痛)
🤔 よくある質問(FAQ)
🤔 ESとIPCはどちらが有効ですか?
- メタ解析ではIPCが予防なしと比較してDVTリスクを約60%減少させ(RR 0.43),ES単独と比較しても有意に減少させます(RR 0.61)
🤔 動脈血行障害の有無はどう評価しますか?
- まず足背動脈と後脛骨動脈の拍動を触診で確認します.
- 拍動が微弱または触知できない場合はABPIを測定し,0.6未満であれば禁忌と判断します.
🤔 腓骨神経麻痺を予防するにはどうすればよいですか?
- 適正サイズを選択し,腓骨頭(膝外側の骨の出っ張り)付近に指2本分の隙間があることを確認します.側臥位での使用時は特に注意が必要です.
🤔 既存DVTがあるかどうか不明な場合はどうしますか?
- 完全に否定できない場合は,十分なインフォームド・コンセントのもとで慎重に使用し,肺血栓塞栓症の発症に注意を払います.可能であれば超音波検査でDVTの有無を確認してから装着します.
📝 Take Home Messages 🏠
🔑 Key Points
- IPCはES単独より有効だが,既存DVT患者への装着は絶対禁忌
- 装着前の動脈血行障害評価(拍動確認,必要時ABPI測定)は必須
- 腓骨神経麻痺・皮膚障害予防には適正サイズ選択と定期的な観察が重要
- ABPI<0.6または足関節血圧<60mmHgは禁忌の基準として覚えておく
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📚 References & Further reading
- 1. Ho KM, Tan JA. Stratified Meta-Analysis of Intermittent Pneumatic Compression of the Lower Limbs to Prevent Venous Thromboembolism in Hospitalized Patients. Circulation 2013; 128(9):1003-1020. PMID: 23846644
- 2. Rabe E, et al. Risks and contraindications of medical compression treatment – A critical reappraisal. An international consensus statement. Phlebology 2020; 35(7):447-460. DOI: 10.1177/0268355520909066
- 3. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). 弾性ストッキング取扱い時の注意について. 医療安全情報 No.56, 2019
- 4. 日本血栓止血学会. 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン 2017(※圧迫療法全般については2024年に日本静脈学会より「静脈疾患における圧迫療法ガイドライン」が発行されています)
- 5. StatPearls. Deep Venous Thrombosis Prophylaxis. 2024; PMID: 30571044
- 6. 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会. VTE予防ガイドライン ダイジェスト版. 2004
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🔷 出典
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- 本記事は,前掲の論文・ガイドライン,医学系サイトで紹介されている知見を参考に,筆者による独自の解釈と再構成を加えて作成した教育的な解説記事です.
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- 筆者は,本記事の内容に基づいて行われた臨床判断について責任を負いかねます.
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