♦️ はじめに
手術室で勤務していると,「DAMカート」や「挿管困難の既往」といった言葉を耳にすることが多いのではないでしょうか。
最近ではWHO手術安全チェックリストのサイン・インでも「気道確保困難のリスク確認」が必須となっています(ちゃんとやってますか?😁).
♦️ 気道確保困難とは
気道確保とは「気道を開通」させること.つまり口や鼻から入った空気が気管を通り肺に届く状態を保つことです.意識があるときはもちろん、普通に眠っているときも開通しています(でなかったら死んじゃいます…)。
ところが麻酔薬や筋弛緩薬の影響で舌根が沈下すると,空気の通り道が塞がれてしまいます.頸部後屈・下顎挙上・気管挿管などで再び開通させられますが,患者によってはこれが難しい場合があります.
熟練した麻酔科医でも困難なことがあり,これを 気道確保困難 と呼びます。
👉 気道確保困難はさらに,マスク換気困難(DMV) と 気管挿管困難(DI) に分けられます.
♦️ マスク換気困難と挿管困難の違い
簡単な定義は以下の通りです⤵️
- マスク換気困難:バッグバルブマスクで十分な換気ができない状態
- 気管挿管困難:喉頭展開・声門視認が難しくチューブを気管に入れられない状態
両者は重なることもありますが,必ずしも一致しません.つまり「同じ」ではないということです.
研修医や消防士さんの挿管実習でよく聞くのが,

こんなにマスク換気が難しいとは思わなかったです〜
という感想です.
バッグバルブマスクは外気を取り込むため,気道確保が不十分でも押せてしまい,換気できていると錯覚しがちです.
一方,麻酔器の呼吸回路は気道が確保されていないとバッグが硬くなったり萎んだりして明確に異常がわかります.
♦️ マスク換気さえできれば慌てる必要はない 😮💨
適切なマスク換気ができていれば,挿管できないからといって慌てる必要はありません。
麻酔を中止したり,上級者を呼んだり,別の挿管器具を準備したりと余裕を持った対応が可能です.
👉 最も危険なのは CVCI(cannot ventilate, cannot intubate),
無理に挿管を繰り返すことは避けましょう.
♦️ 『超重要な』術前の気道評価


全身麻酔では,術前に気道確保困難のリスク評価が必須です.麻酔科医は毎日やっています.
日本麻酔科学会「気道管理ガイドライン2014」では,『マスク換気・喉頭展開とも困難となる危険因子12項目』を示されています⤵️
- Mallampati分類Ⅲ・Ⅳ
- 頚部放射線後/頚部腫瘤
- 男性
- 短い甲状頤間距離
- 歯牙の存在
- BMI ≥30kg/m²
- 46歳以上
- アゴひげ
- 太い首
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
- 頚椎の不安定性や可動制限
- 下顎の前方移動制限
🔗 日本麻酔科学会『気道管理ガイドライン2014』7ページ参照(リンク先は日本麻酔科学会HP)
👉 3項目以内に比べ,7項目以上ではリスクが 約18倍 に上昇するとされています(参考値).
その他の危険因子としては,以下のものなどがあります.
- 歯の異常(動揺歯、突出前歯、総義歯)
- 小顎症
- 熱傷・外傷・腫瘍による解剖学的変形
ただし,危険因子が見当たらなかったのに,予想外に難しい患者さんもいるので,要注意です!(まぁ,ビデオ喉頭鏡の普及により,以前より格段に安心度は上昇しましたが😊)
📝 まとめ
- マスク換気困難と挿管困難は別物.必ずしも一致しない.
- マスク換気ができれば安全に次の手段を考えられる.
- 最も危険なのはCVCI.術前評価と準備が鍵.
- 日本麻酔科学会ガイドライン2014の12項目を参考に,複数該当時は慎重に.
- ビデオ喉頭鏡は超有用.
📚 References & Links
- 日本麻酔科学会. 気道管理ガイドライン2014.
- Apfelbaum JL, Hagberg CA, Caplan RA, et al. Practice guidelines for management of the difficult airway: An updated report by the ASA Task Force on Management of the Difficult Airway. Anesthesiology. 2013;118(2):251-270.
- Frerk C, Mitchell VS, McNarry AF, et al. Difficult Airway Society 2015 guidelines for management of unanticipated difficult intubation in adults. BJA. 2015;115(6):827-848.
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