♦️ 死腔って何?
死腔(dead space).少年漫画の設定で出てきそうな物騒な名前ではありますが・・😅笑.
死腔とは「正常な換気が行われていない領域」を指します.具体的には「ガスの出入りはあるが,ガス交換のための血流を欠く領域」のことです.いくら酸素が入ってきてもそれを受け取る血流がないと何の意味もないですよね?
逆に,血流はあるけれどもガスが入ってこない領域のことを「シャント(短絡)」と言います.シャントに関してはまた今度👋

♦️ 死腔には種類がある.
表題の通り,死腔には種類があります.といっても難しい話ではありません.要は次の通りです.
『生理学的死腔』= 『解剖学的死腔』+『肺胞死腔』
健常な状態では肺胞死腔はほとんどないとされているので,通常の状態で死腔といえば解剖学的死腔のことだと思って大丈夫です👍.
♦️ それでは解剖学的死腔とは・・?
「解剖学的=生理学的」と言われるくらい,健常者では両者はほぼ同じ値になります(ただし,病的に肺胞死腔が増えた場合には一致しなくなります).つまり解剖学的死腔は誰でも普通に持っていて,別に病気ではありません.
それでは口や鼻から空気が入ってきて,肺の末端である肺胞までの道を考えてみましょう.ガス交換が行われるのはどこですか?・・・・・そう,肺胞(+呼吸細気管支〜)ですよね?つまり,そこまではただ空気が行ったり来たりするだけの「ただの管」です.その「ただの管」を小難しく『解剖学的死腔』と呼んでいるだけのことなのです😊.
♦️ 死腔の量はだいたい決まってる.
難しくなかったですね.この死腔の量は試験でも問われることがありますが,普通の体格の成人でおおよそ “〜150mL” となっています.口腔〜肺胞手前までの量って実はそれくらいしかないんですね.
ちなみに解剖学的死腔は小児から成人へと,体の成長に伴って絶対量は増加していきますが,割合はほとんど変化しないとされています.
一応推定計算式があります.
解剖学的死腔の量(mL)=体重(kg)×2.2
この値は身長,体重,体格,年齢(成長期)によって変動するためあくまで目安です.150mLというのは欧米成人男性を基準とした目安とされており,日本人女性にとってはやや多めかもしれません.ボーアの式を用いる方法などもありますが,条件もありますので,とりあえず「体重のおおよそ2倍ちょっと程度」と覚えておきましょう.
♦️ あと少しだけ・・・死腔換気率(VD/VT)
死腔の量がだいたい同じということは,1回換気量に占める割合もほぼ同じということです.成人の1回換気量がだいたい500mLとするとおよそ30%.だいたいこの数値に収まる(20〜35%)くらいで,この割合のことを『死腔換気率(VD/VT)』と呼びます.
VD(Dは通常小さめに書かれる)のDは英語の死腔(dead space)の頭文字,VはVolume,TはTidalの略です.
下記に示すような病的な状態になりこの比率が高まるということは,適切に酸素を取りこめていないということですから,酸素供給効率が悪化します(低酸素血症).
♦️ それでは,病的とされる『肺胞死腔』とは・・・・
肺胞死腔は,本来ガス交換が適切に行われるはずの肺胞で,血流を欠く(または適切な血流量を下回っている)状態を指します.
代表的な疾患は以下です:
- 肺血栓塞栓症:血栓により肺動脈が閉塞されて血流が途絶 → 換気されても利用できない酸素が残る.
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD):肺の正常な構造が破壊され,換気血流比の不均衡が生じることで,換気されても十分なガス交換ができない肺胞が増える(V/Q不均衡が主体で、その中で“死腔様領域”が増える)※今後COPDについての記事で詳述
麻酔科領域でこの病的な肺胞死腔が増加しているかどうかは,PaCO₂(動脈血二酸化炭素分圧)とPETCO₂(呼気終末二酸化炭素分圧)の差を見ることで推定できます.この差が大きい場合には肺胞死腔が増加していることが示唆されます(通常はこの差は3〜5mmHg程度).
肺血栓塞栓症が生じたときはそれどころではないかもしれませんが,今度COPD患者さんの手術があり,動脈ラインをとるときには,普通の患者さんと比べてみるとよくわかるかもしれませんね👍.
♦️ 用語は食わず嫌いせずに
どうでしたか?特に看護師さんでちょっと小難しい生理学用語に著しいアレルギー反応を呈する方がいますが(笑),実はそれほど難しいことを言っているわけではないことも多々あります.ほんまにややこしい分野もありますが😅.
医学用語だけではなく,ものの名前の意味やその語源など(特にギリシャ語やラテン語由来の名前など)を知ることで,その周辺分野にまで理解が広がることはよくあります.ぜひ気軽に調べてみたりすることをオススメします.いまはAIという力強い味方がいるので🤗
📝 まとめ(Take home points)
- 死腔 = 換気はあるが血流がない領域.
- 生理学的死腔 = 解剖学的死腔+肺胞死腔.
- 成人の解剖学的死腔はおよそ150mL(体重×2.2mLが目安).
- 死腔換気率(VD/VT)は通常20〜35%.
- PaCO₂–PETCO₂差(通常3〜5mmHg)が拡大していれば肺胞死腔増加を示唆.
- 肺胞死腔が増大する疾患の代表は,肺血栓塞栓症やCOPD
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呼吸生理に限らず,生理学系は難しいものが多いのですが,これらは比較的読みやすいです😊👍
🔷 ウエスト呼吸生理学入門:正常肺編,疾患肺編 第2版

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