🩸 Dダイマーで“血栓”はどこまでわかる?——DVTのスクリーニング,周術期の変動,的中率についてのポイント解説☝️😊

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♦️ はじめに

さらりーまん

術後のDダイマーが高くなってるけど,これって全部“血栓!”って思っていいかな?

まっすー

Dダイマーは“陰性なら安心”だけど“陽性=すぐに血栓と判断”じゃないっていう認識です

なっちゃん

じゃぁ下肢静脈エコーとか,場合によって造影CT撮ったりというのは誰にいつやればいいですか?

さらりーまん

じゃあ今日は,Dダイマーの意味,周術期にどう動くか,スクリーニングについて簡単にまとめておこうか

♦️ そもそもDダイマー(D-dimer)って何?

🔷 みんな名前は知ってるけれど・・・

 Dダイマーは術前の血栓症のスクリーニングにも使われているので,名前は知っている人が多いのですが,ではそれって一体何?と聞くと「そう言えばなんですかね🤔」と言われることが多い気がします😅.

 Dダイマーについては,Xでも簡単に書きましたが,フィブリンや血小板によって血栓が出来て(凝固),プラスミンにより分解されたとき(線溶)にできる欠片=血栓が作られていた名残,のような物質です.

 Dダイマーは健常な人でも微量は存在しますが,ある程度以上の値を超えているということは,血栓が実際に作られていて,分解されている」ことを意味します(それが血栓症という病的なものかどうかは別問題).

  • Dダイマーはフィブリン分解産物で,血栓形成・線溶の“進行中サイン”を反映します.
  • 感度が高く特異度が低い陰性的中率が高い)ため,低〜中等度の疑いのときに“除外”に使うのが原則です.手術,外傷,高齢,炎症,悪性腫瘍などで偽陽性が増えることを覚えておきましょう.

♦️ 基準値・年齢調整・単位についての注意点⚠️

Dダイマーはどんな人でも少しは出ています.そのため,「どこまで(どこから)を“異常”とみなすか」には目安(カットオフ値)があります。

🔷 基本の目安

 多くの施設では「0.5〜1μg/mL(=500〜1000 ng/mL)未満」を正常(陰性)の目安としています.つまり,0.5〜1.0を超えたら“少し高い”という感じです.
 日本では下記のDDUが多く採用されており,0.5μg/mLをカットオフ値として採用しているところが多いようです.

🔷 高齢になると少し上がりやすい

 年をとると,炎症や血管の変化などでDダイマーが自然に高くなる傾向があります
そのため、若い人と同じ基準で見ると,「偽陽性(=実際は血栓がないのに高く見える)」が増えてしまいます.

 そこで「年齢調整」をすることがあります.
 例えば50歳以上の人では,カットオフ=年齢 × 10 ng/mL(FEUの場合)という“年齢に合わせた目安”を使うことで,予測精度を上げることができるといわれています.

  • 60歳なら → 600 ng/mL(=0.60 μg/mL)
  • 70歳なら → 700 ng/mL(=0.70 μg/mL)

このように、少しゆるめの基準にすることで,「本当に危ない人」だけを絞り込めるようになります.

🔷 単位の違いにも注意

 先ほどしれっとFEUと書きましたが,検査室や国によって「FEU」と「DDU」という単位が混在しています
数字の見た目は似ていますが,FEU(fibrinogen equivalent units)の方が約2倍高く出る傾向があります.特に欧米ではFEUが一般的です.
 施設でどちらを使っているかは,検査報告書やマニュアルで確認しておきましょう.

  • 標準の目安:多くの施設で 0.50〜1μg/mL(=500〜1000ng/mL)未満 を陰性の目安としています.
  • 年齢調整(50歳以上)年齢×10 ng/mL(FEU) をカットオフにして偽陽性を減らす方法もあり.
    例)70歳→700 ng/mL(=0.70 μg/mL)
  • 単位に注意FEUDDU があり,FEUのほうが数値が約2倍になりがち.施設の単位を確認.

「だいたい0.5,年を取れば“年齢×10”,単位は確認!」

♦️ 感度が高いけど,特異度が低いって聞きましたけど・・・?🤔

 Dダイマーは感度は高いけれど特異度が低い検査です.「陰性ならまず安心」だけど,「陽性だからといってすぐに問題がある」とは言えません.
 ちなみに,感度 95–98%・特異度 40–60%程度(StatPearls 2025)とされています.

🔷 感度が高いということは・・・

 つまり,もし血栓形成・分解が進行している場合には,かなりの高い確率でDダイマーが上昇しますが(陽性と判定される), Dダイマーは他の要因でも上昇する(術後・炎症・高齢・悪性腫瘍など)ため,上がっているからといってそう(血栓症が生じている)とは限らないということです.
 でも逆に,上がってないときは,血栓症の可能性はかなり低いよ!ということが言えます.これを「陰性的中率が高い」とも言います.

💡たとえば:
術後で炎症反応も高い人が「Dダイマー10 μg/mL」でも、即VTE確定ではありません。
逆にまったく症状のない人でDダイマーが正常なら、血栓症の可能性は極めて低いと判断できます。

 こういった特徴を持つ検査は,とりあえず可能性がある場合はほとんどひっかかるので,「スクリーニング検査」として有用になります(見逃しが少ない).もし,判断に迷うような場合は,下肢静脈エコーや造影CT,MRI検査等の検査を行います

Dダイマーは陰性ならまず大丈夫.陽性は“炎症・手術・高齢”でも上がるので必要に応じて追加検査を.

🔷 補足

 近年の研究では,患者の「ありそう度(臨床確率)」に応じてDダイマーのカットオフを変える方法が安全で効率的とされています。
(例:Wellsスコア低リスクなら<1000 ng/mLで除外、中等度なら<500 ng/mLで除外)
この考え方によって、不必要なエコー検査を半分近く減らしても安全性を保てることが示されています.

  • Dダイマー高値=“体のどこかで血が固まりかけたサイン”
  • でも,必ずしも静脈血栓塞栓症(VTE)とは限らない
  • 数字だけで判断せず,症状とリスクを合わせて読むのがコツ.

♦️ さっき周術期はDダイマーが“よく上がる”って聞いたけど・・?🤔

 前述の通り,周術期は炎症・組織損傷・可動性低下などで,誰でもDダイマーが生理的に上がりやすいため,“陽性=即VTE(静脈血栓塞栓症)”ではありません

 近年,複数領域で共通して,術後3日目(POD3)の値が最も意味を持つことが示されています.以下はその報告の例です.

🔷 例1:肝胆膵(HBP)手術

  • 術後3日(POD3)のDダイマーがDVTを最もよく予測(AUC 0.762)
  • しかもPOD3値は独立した危険因子
  • 術前にDダイマーが高かった人は、術後も上がりやすい傾向.
    (対象178例、DVT発生率11.8%、全員が下肢エコーでスクリーニング)

👉 POD3が一番“血栓シグナル”を反映していたという結果.

🔷 例2:高エネルギー外傷(胸腰椎骨折)

  • POD3のDダイマーが血栓動態(増大・不変・溶解)と強く関係.
  • 手術が長い・出血が多いほど血栓が大きくなる傾向.

👉 外傷・整形領域では、POD3での上昇は“リスク上昇を反映”している可能性あり.

🔷  例3:脳腫瘍手術

  • Dダイマーを測ることで,無症候のVTE検出率が1.7%→22.6%へアップ
  • さらに,術中にIPC(間欠的空気圧迫)を使うとVTE 4.4%まで減少.
  • この研究ではPOD3にDダイマーを測定し,2 mg/L以上なら下肢エコーというシンプルなアルゴリズムを採用.

👉 POD3のDダイマー+USの組み合わせが、潜在的VTEを拾い上げるのに最も効率的だった。

  • 術後は経時変化で見る(いつ上がったか)のが鉄則(特にPOD3がポイント).
  • 1回の「高い・低い」で判断せず,トレンド+症状+リスク+画像で評価.
  • POD3上昇+リスク因子ありなら,USを積極的に考える.

 

♦️ DVTを疑ったときの考え方 📝✅

🔷 まずは「どのくらいの可能性かな?🤔」を見積もる(=臨床確率)✅

 DVT(深部静脈血栓症)を疑うとき,いきなりいろんな検査をするのではなく,まずこの人、本当にDVTっぽいの?という“見込み(検査前確率)”を判断します.入院時等にチェックシート等を用いてスクリーニングが行われていることが多いと思います.

 スクリーニングに多く使われているのが,Wellsスコア(ウェルズスコア).これはカナダの医師フィリップ・ウェルズが考案した、DVTの「ありそう度」を点数化したチェックリストです.

  • 片脚の腫れや圧痛、手術や長期臥床の既往など → +1点
  • 他の診断(蜂窩織炎など)のほうがもっとありそう → −2点
    合計点で「DVTありそう(likely)」か「なさそう(unlikely)」に分けます.

👉 細かな項目は実際のリストを参照してください(Google検索)

✅ ざっくり:“ありそう”なら2点以上、“なさそう”なら1点以下。

🔷 次に「Dダイマー」で除外できるかを確認する(ふるいにかける).

ここでNICEガイドライン(NG158, 2023更新)の出番です👇

  • “ありそう”群(Wells 2点以上)
     → まず下肢静脈エコー(US)を4時間以内に.結果が陰性ならDダイマーも測定.
  • “なさそう”群(Wells 1点以下)
     → Dダイマー検査を先に行い,陰性ならDVTはほぼ除外できます.

 Dダイマーは「抗凝固療法を始める前に」行い,4時間以内の結果が理想とされています.もしDダイマーが陽性なのにエコーで血栓が見つからない場合は,6〜8日後に再エコーを推奨しています.

🔷 補足:「確率でカットオフを動かす」(4D研究)

カナダの大規模研究(4D study, BMJ 2022)では,“DVTのありそう度”に応じてDダイマーの基準値(カットオフ)を変える戦略を検証しました。

  • Wells 低リスク:Dダイマー <1000 ng/mL(1μg/mL) なら除外
  • Wells 中等度リスク<500 ng/mL(0.5μg/mL)なら除外

この方法で、下肢エコーの実施を約47%削減でき,しかも3か月以内のVTE再発率はわずか0.6%と安全でした .

🔷 ここまでのまとめ

  • Wellsで見積もる → Dダイマーでふるいにかける → エコーで確定する.この“3ステップ診断”が,今の標準ルートです.
  • DVTを疑ったら,まず“ありそう度”をWellsスコアで見積もります.
  • “なさそう”ならDダイマー陰性で終了,“ありそう”ならエコーへ.
  • 最近は,前確率に応じてDダイマーのカットオフを変えるやり方(低リスクなら1000、中等度なら500)も安全に使えることがわかっています.




📝 まとめ:Take Home Points

  • Dダイマー=血栓が“できて壊れた”サイン
  • 陰性なら安心,陽性は文脈で(術後・炎症・高齢・がんでも上がる).
  • 基準値はだいたい0.550歳以上は年齢×10単位(FEU/DDU)確認
  • 周術期はPOD3を基準に経時変化で
  • 診断は 「臨床確率 → Dダイマー → エコー」 の3ステップが基本.
  • 前確率でカットオフを調整する戦略は,検査を減らしつつ安全性を保てる.

📚 References & Further reading

  • NICE. Venous thromboembolic diseases: diagnosis, management and thrombophilia testing (NG158),Last updated 2023.診断フロー,Dダイマーの使い方,US再検のタイミングを参照.
  • Kearon C, et al. BMJ 2022;376:e067378.High preoperative D-dimer increases the risk of venous thromboembolism after gynecological tumor surgeries: a meta-analysis of cohort studies 臨床確率に応じたDダイマー閾値でUS使用を約47%削減,3か月有害事象0.6%.
  • Sakamoto T, et al. Surgery Today 2023.Evaluation of perioperative D-dimer concentration for predicting postoperative deep vein thrombosis following hepatobiliary-pancreatic surgery HBP手術でPOD3 DダイマーがDVTの独立予測因子(AUC 0.762).
  • Zimmer K, et al. Acta Neurochir 2024.Influence of postoperative D-dimer evaluation and intraoperative use of intermittent pneumatic vein compression (IPC) on detection and development of perioperative venous thromboembolism in brain tumor surgery POD3 Dダイマー導入で血栓検出↑,術中IPCでVTE↓
  • Kumagai G, et al. J Spinal Cord Med 2020.D-dimer monitoring combined with ultrasonography improves screening for asymptomatic venous thromboembolism in acute spinal cord injury 脊髄損傷でDダイマー+US併用が無症候VTE検出率↑
  • Li H, et al. Sci Reports 2025.Perioperative ultrasound screening of lower extremity veins is effective in the prevention of fatal pulmonary embolism in orthopedic patients 整形入院で周術期USが致死的PEを減らし得ると報告(費用対効果の議論も紹介).
  • Meng Z, et al. Res Pract Thromb Haemost 2025婦人科腫瘍手術の術前Dダイマー高値で術後VTEリスク↑(連続変数でRR上昇,二値でもRR 2.58).
  • StatPearls. D-Dimer Test(2025更新)高感度・低特異度年齢調整偽陽性要因を総説.

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