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♦️ Introduction
つい先日,米国心臓協会(AHA)が2025年版「心肺蘇生および救急心血管治療ガイドライン」を公表しました😃 最新のエビデンスを反映した,重要な改訂内容が含まれています.
詳細は必ず公式サイト(eccguidelines.heart.org.)の原文と日本語ハイライトを参照してください!
多くの内容が更新,または新しく改訂されていますが,本記事では2020年版からの新しい変更点のうち,手術室・PACU・ICUで日々の診療に直接影響する要点を紹介します😊
周術期の突発的な心停止は稀(特に予定手術では)ですが,常に備えと対応の質は問われます.2025年版の更新内容を正しく把握しておきましょう!
🔗 救命プロセスの概念統一
2025年版の大きな変更として,従来は成人院内・院外,小児院内・院外でそれぞれ異なっていた「救命の連鎖」の考え方が,すべての年齢・すべての場面に共通する統一されたプロセス概念へと進化しました.
初期認識から蘇生処置の実施,そして心停止後ケア,さらには回復期支援まで,一連の流れがシームレスに連携することが重視されています.各段階での具体的なアクションについては,公式ガイドラインで詳細に記載されていますのでご確認ください.
💡 質の高いCPR:何が変わった🤔? 基本原則の再確認と更新
🔷 基本要素:深さ・テンポ・完全なリコイル(圧迫状態からの戻し)
基本事項に変更はありません.
質の高い胸骨圧迫の原則に大きな変更はありませんが,いくつかの要素が明確化されています.
圧迫の質を決める要素として,適切なテンポ(分間100回台前半から中盤を目安),十分な圧迫深度(成人では5 cm程度以上を確保しつつ過度な圧迫は避ける),毎回の完全なリコイル(胸郭を完全に戻し寄りかからない),そして中断の最小化(可能な限り短時間で)が引き続き重視されています.
小児では胸部前後径に応じた深度調整が必要です.これらの基本原則は周術期の緊急対応でも変わりません👍
⚠️ 小児蘇生における重要な変更点
🔹 新生児・乳児の圧迫手技
新生児・乳児蘇生での大きな変更として,従来推奨されていた2本指法が推奨から外れ,両母指で胸郭を囲み込む手技が第一選択となりました.救助者が一人で胸郭を囲めない場合には、片手の手掌基部を用います.
🔹 新生児の圧迫部位に関する新知見
新生児に胸骨圧迫を行う際の推奨部位が更新されました.胸骨下方の3分の1程度の位置での圧迫が妥当とされています.これは,より中央での圧迫が肝損傷リスクと関連しないこと,および心臓の解剖学的位置に基づく知見によるものです.
🔹 圧迫者の交代タイミング
新生児の蘇生処置では,同一の医療者が圧迫を継続した場合,数分程度で圧迫の質が低下する可能性が示されています.そのため,定期的な圧迫者の交代が推奨され,心拍数評価のタイミングなどで素早く交代することが妥当とされました.
🔹 除細動と衣服の扱いについて
女性患者が一般市民による除細動を受けにくい理由の一つとして,胸部露出への懸念が指摘されています(SNS等,社会的にも議論になりましたね・・・).
2025年版では,パッドを適切に貼付するために下着の位置を調整することが推奨され,完全な除去に固執して時間を浪費しないよう明確化されました.
🏥 院内での実務: 通常,全身へのアクセス確保のため衣服を除去しますが,要点は衣服の問題で除細動を遅らせないことです.院内ではほとんど問題になりませんが,屋外や市街地では不用意な衣服除去がセンシティブな問題となり得ます(もちろん生命優先ですが).
🫁 気道と換気:酸素化の優先
🚑 外傷患者の気道確保
頸椎損傷が疑われる外傷患者の気道確保について,重要な条件が追加されました☝️
従来は「下顎挙上のみ」が推奨されていましたが,2025年版では下顎挙上(必要に応じて経口・経鼻エアウェイ併用)で気道が確保できない場合,頭部後屈顎先挙上を行うべきとされています.
臨床的な考え方☝️: 低酸素性脳障害は予後に直結する確実な重大事象です.一方で,潜在的な脊髄損傷の悪化は理論上のリスクに留まります(生じないかもしれない).初期手技で気道が開通しない場合には,酸素化を優先する臨床判断をガイドラインが明確に支持しています(神経学的損傷を懸念するあまり、遷延性意識障害や生命喪失に至っては本末転倒ですし).
👉 実践のポイント: 必要に応じてためらわず行動することが重要です.判断根拠は記録に残しておきます.下顎挙上で不十分なら,ためらわず頭部後屈顎先挙上へ移行します.
🫁 呼吸停止時の換気戦略
脈拍はあるが呼吸が不十分な患者(手術室ではオピオイド投与後,筋弛緩薬の残存,深い鎮静などで遭遇します)には,おおむね6秒間隔での換気(分間10回程度)が推奨されています.
胸郭の挙上が確認できる程度の一回換気量とし,過度な換気量や頻回な換気は避けることが改めて強調されています.特に新しい概念ではないのですが,適切な換気管理の重要性が再確認されました.
🚨 窒息と特殊な状況
🔷 気道異物閉塞への対応更新
反応のある成人・小児の重度気道異物閉塞への対応アルゴリズムが更新されました.
背部叩打と腹部突き上げ(または乳児では胸部突き上げ)を組み合わせた手法が推奨されています.これは乳児での対応との整合性を図ったものです.具体的な実施回数や詳細な手順については,公式ガイドラインおよび各施設のプロトコルをご確認ください.
患者が反応を失った場合は,直ちに胸骨圧迫を含むCPRへ移行します.人工呼吸の前には必ず口腔内の異物を目視確認します.
🔷 機械的CPR装置:その役割と限界
日常的な使用は推奨されないという立場が示されています.複数の大規模ランダム化比較試験において,質の高い用手的胸骨圧迫を上回る生存率改善は示されていないようです🤔
現時点では,以下のような特定の状況での使用が検討されます.
- カテーテル室など最終治療への長距離搬送
- 救急車搬送中
- CT撮影など特定の検査中
- 長時間蘇生や少人数での救助者疲労軽減
⚠️ 注意: Head-up CPRは2025年時点で臨床試験外での使用は推奨されていません.
🎯 心停止後ケアの最適化
🫀 血行動態管理:MAP目標と機械的補助
成人では平均動脈圧(MAP)65 mmHg程度を目安とすることが多く,小児では年齢に応じた収縮期血圧とMAPの基準が設けられています.
従来は成人で収縮期血圧とMAPの両方が用いられていましたが,主要な臨床試験の結果を踏まえ,MAPに焦点が当てられました.重要なのは低血圧の回避であり,個々の患者状態に応じた調整が必要です.
また,心原性ショックを伴う心停止症例では,一時的な機械的循環補助(VA-ECMO等)を検討してもよいとされました.
動脈ライン留置下の小児CPRでは,拡張期血圧を乳児で25 mmHg程度以上,小児で30 mmHg程度以上に維持し,冠灌流を確保することが推奨されています.
🩻 診断的な検査について
自己心拍再開(ROSC)後に,心停止の原因や蘇生処置による合併症を調べるため,CT撮影や心エコーなどの画像検査を実施することが妥当とされました.これは日常臨床でも一般的に行われていることですが,ガイドラインとして明文化されました.
🌡️ 体温管理の標準化
昏睡状態で生存した患者では,32〜37℃台の範囲での体温管理を少なくとも36時間程度継続することが標準とされています.これには治療的低体温と積極的な平温維持(発熱予防)の両方が含まれます.
👉 従来の「少なくとも24時間」という表現より明確で,具体的な最低継続時間が示されました。
🧠 神経予後予測:多角的評価が必須
単一の指標に依存してはいけません🙅.ROSC後,通常は少なくとも72時間経過し,鎮静を中止した後に以下を組み合わせて評価します:
- 臨床所見(対光反射、角膜反射、運動反応)
- 脳波(burst-suppression:群発抑止やてんかん重積などの有無)
- バイオマーカー(神経特異的エノラーゼ,新たに追加されたニューロフィラメント軽鎖)
- 画像検査(CTで浮腫,MRIでびまん性低酸素虚血性障害の確認)
72時間以内の脳波で痙攣性の放電がないことは,他の良好所見と併せることで,良好な予後の示唆になり得ます.
また,脳波で痙攣活動を伴わない,非てんかん性ミオクローヌスは抗てんかん薬で治療すべきではないとされています.鎮静による不利益が利益を上回る可能性があるためです.
📚 教育・訓練・質改善
🔷 CPRフィードバック装置:クラスI推奨へ
圧迫の深さ・テンポ・リコイルにリアルタイムフィードバックを行うことができる装置が,医療従事者・一般市民向け,すべてのCPR訓練でクラスI(強い推奨)となりました.
訓練の質向上において,客観的なフィードバックが重要視されています.
🔷 バーチャルリアリティ:適用の見極め
VRの教育的活用について、明確な指針が示されました.
適切な使用場面:アルゴリズムや概念の学習には妥当
推奨されない使用場面:胸骨圧迫,気道管理などの実際の身体技能の習得には,従来の実技練習を置き換えるべきではない.
技術の進歩は歓迎されますが,適用範囲を見極めることが重要です.それにしても最近の技術の進歩はAIを含めほんとにすさまじい・・😳
📝 まとめ:Take Home Message
🔑 Key Points
- 救命の連鎖が統一された
- CPR手技: おおむね毎分100〜120回前後のテンポ,成人では5〜6cm程度の十分な深さ,毎回の完全なリコイルと,できるだけ短い中断時間を意識する(年齢別の詳細な数値目標は必ずAHA公式ガイドラインを参照).乳児は両母指囲み込み法(2本指法は非推奨に)
- 気道管理: 外傷では酸素化を優先.下顎挙上で不十分なら頭部後屈顎先挙上.
- 窒息対応の更新: 反応のある成人・小児では,背部叩打と腹部突き上げ(乳児では胸部突き上げを交互に行うアルゴリズムへと変更された).具体的な回数や詳細手順はAHA公式ガイドラインおよび各施設プロトコルを参照.
- 心停止後の目標: MAP 65 mmHg程度以上を目標に,32〜37℃台での体温管理を36時間以上継続
- 神経予後予測: 多角的評価が原則.単一指標に依存しない
- 訓練の標準: CPRフィードバック装置がクラスI推奨
著作権・免責事項
- 出典:© 2025 American Heart Association, Inc.
- 本記事は,American Heart Association「2025 Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care」に基づく教育的な解説・紹介記事です.
- 原典:
- 公式ガイドライン: https://eccguidelines.heart.org
- 日本語ハイライト版もAHA公式サイトで入手可能
- 免責:
- 本記事の情報は医学的助言や治療の代替ではありません.
- 実際の診療は,最新のガイドライン,患者個別の状況,および担当医の判断に基づいて行ってください.
- 日本国内での実践については,日本蘇生協議会(JRC)ガイドラインおよび各施設のプロトコルもご確認ください.
- 本記事はAHAによる公式な承認を受けたものではなく,独立した教育資料として作成されています.記載に明らかな問題がある場合には即対応いたします.
📚 References & Further reading
- American Heart Association. 2025 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation. 2025;152(suppl 2).
- AHA 2025 ハイライト: CPR および ECC のガイドライン [日本語版]. American Heart Association; 2025.
- 詳細は eccguidelines.heart.org を必ずご覧ください.
