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♦️ はじめに

セボとデス,うちの手術室に両方ありますけど,使い分けってどうしてるんですか??
という,質問をいただきました.
今回は「デスフルラン」と「セボフルラン」という,手術でよく使う吸入麻酔薬の違いと,現場でどう使い分けているかを,簡単にまとめました.


♦️ まず結論を先に言います😊
学術的な話の前に,単純に麻酔科医の好き嫌い,という点もあるのですが・・😅.基本的にはその好みも,以下のことを考慮していることが多いです👍
- 導入・覚醒を速くしたいとき
- → デスフルラン.ただし急に濃度を上げると刺激で患者さんが咳をしたり,循環が反応しやすいので要注意.でもセボも,昔の吸入麻酔薬と比べると十分早い.
- マスクで吸入導入したい,小児や気道刺激を避けたいとき
- → セボフルラン.導入が穏やかで扱いやすいです.デスは気道刺激性があるので緩徐導入では使用しない.
- 環境面の配慮が必要なとき
- → セボ優先(デスは温室効果が大きめ.まぁ実際は影響は微々たるもの).
- 低流量麻酔は両方可能ですが,薬剤ごとに注意点があります(後述).
♦️ かんたん比較
☝️ はじめは数字」は覚えなくてOK.意味だけ掴んでください.
🔷 デスフルランのポイント
- MAC(必要濃度)は高めだけれど,
- 血液に溶けにくい(=体にたまりにくい).
- そのため導入も覚醒も速い.
- 代謝はほとんどされません(臓器障害リスクは非常に低い).
- ただし高濃度で気道や循環を刺激することがある.
🔷 セボフルランのポイント
- MACはデスより低く,
- 気道刺激が少ないためマスク導入に向きます.
- 代謝はデスよりやや多めで,
- 低流量時に注意すべき副産物(compoundA)の問題が歴史的に議論されています(実臨床での影響は限定的とする報告もあり,おそらくほとんど問題にならないと考えられますが,ラベル上の注意は守る).
🔷 細かく比較
項目 | デスフルラン(Desflurane) | セボフルラン(Sevoflurane) | ワンポイント |
---|---|---|---|
MAC(成人・40歳目安) | 約 6.0〜6.5% | 約 2.0〜2.1% | %だけで判断せず,年齢補正したeMACで見る. |
血液/ガス分配係数(溶解度) | 0.42(極めて低い) | 0.69(低い) | デスは体にたまりにくく,導入/覚醒が速い. |
代謝率 | ほぼ0%(<0.02%) | 約3% | デスは臓器代謝が極めて少ない. |
導入/覚醒速度 | 非常に速い | 速いがデスより遅い | 早期覚醒を優先するならデスが有利. |
気道刺激性 | あり(高濃度で咳・喉頭反射の可能性) | ほとんどなし | マスク導入・小児はセボが扱いやすい. |
低流量麻酔時の注意 | CO発生のリスク(乾燥×強塩基吸収剤) | Compound Aの注意(ラベルに基づく流量規定) | 吸収剤の管理とFGF基準を遵守. |
気化器・装置 | 専用の加温・加圧型気化器が必要な場合が多い | 一般的な気化器で使用可 | 機器仕様を確認して運用を統一. |
環境負荷(GWP100) | 約 2,540 | 約 130 | デスは温室効果が大きく,施設方針を確認. |
適応の目安 | 早期覚醒を重視する成人・肥満・長時間手術 | 小児・マスク導入・気道反応性が高い患者 | 臨床状況と施設方針で選択を最適化. |
♦️ どんな場面でどちらを選ぶ?
☝️ 吸入導入が必要になる場合(マスク導入,小児など)



セボフルランが選択されます.気道刺激が少ないので,マスクでの導入がスムーズです.
☝️ 早い覚醒が望ましい場合(肥満,高齢,日帰り手術など)



デスフルランが有利なことが多いです.手術後の目覚めや抜管までの時間が短くなる傾向があります(セボでも問題ないですけど・・)
☝️ 長時間手術や深い麻酔が必要なとき



どちらでも使えますが,デスは体に蓄積しにくいので,長時間でも“切れ”がよいという利点があります.
☝️ 環境面や施設方針が厳しい場合



セボまたはTIVA(静脈麻酔)を検討.デスは温室効果(GWP)が高めなので,施設によっては使用を制限する方針のところもあります(特に海外).
📝 まとめ(Take-home points)
- 導入や覚醒の速さが重要 → デス.ただし急増は禁物.
- マスク導入・小児 → セボ.気道に優しい.
- 低流量は有益だが薬剤ごとの注意点(セボ:Compound A、デス:CO)を守ること.
- 一応環境面も判断材料.施設方針に合わせて選択します(日本ではまだまだ).
🔗 Related articles
📚 References & Further reading
- StatPearls — “Desflurane”(総説/教科書的まとめ)
- 血液/ガス係数、MAC、代謝率などの基本データがまとまっています。初心者〜臨床者の短時間確認に最適。
- StatPearls — “Anesthetic Gases”(吸入麻酔薬全般の概説;セボ・デスの比較あり)
- 各吸入薬の比較表(血/ガス、MACなど)や気化器の基礎が整理されています。臨床的な比較を行う際の便利なまとめ。
- Wissing H. et al., 2001 — Carbon monoxide production from desflurane, enflurane, … (PubMed)
- 乾燥吸収剤条件下でのCO生成を実験的に示した代表的論文。デスでのCO発生量が特に高いことを報告。
- Coppens MJ. et al., 2006 — Mechanisms of CO production (Association of Anaesthetists / review)
- 吸収剤の乾燥条件と生成機序に関するレビュー。臨床上の予防策(吸収剤管理やFGF運用)について理解を深めるのに有用。
- ASA statement — “Statement on the Use of Low Gas Flows for Sevoflurane” (2023)
- 学会見解として低流量でのセボ使用に関する運用上の整理や推奨がまとまっており、
- NHS England guidance — “Desflurane decommissioning and clinical use” (2024)
- 公的な組織がデスの段階的廃止を進める背景と実務(限定使用の条件など)を示しています。
- NOAHRM / Health campaign article — “UK healthcare leads the phase-out of desflurane” (summary)
- GWPに基づく政策的背景の短い要約(NHS動向の紹介)。
- Recent reviews/meta-analyses on recovery times (desflurane vs sevoflurane) — e.g., Hu et al., BJAnesthesia (2024) / other RCTメタ解析
- 肥満や日帰り手術など特定条件での覚醒・抜管時間の比較エビデンスがまとまったレビュー。
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