📕 切ってるから痛いのは当たり前😖?術後の痛みを我慢してはいけない理由🤔

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♦️ はじめに

病棟での出来事.大きな開腹手術の術後1日目.患者さんはオピオイドを投与されているにもかかわらず,痛みは10段階中7と訴えています⚡️.深呼吸も離床も痛くて十分できていません😣.これを放置することは,単なる不快感や我慢の問題ではなく,防げる合併症を起こしてしまうリスクをはらんでいます

コントロールされていない急性疼痛は,局所的な不快感にとどまりません.これは全身的な影響を及ぼす,生理学的ストレスです.疼痛を効果的に管理することは,患者さんに楽になってもらうだけでなく,全身性合併症を予防し,入院期間を短縮し,長期的な障害を避けるために不可欠です☝️.

♦️ 心血管系と呼吸器系への影響

激しい痛みは交感神経系の活動の急上昇を引き起こします.これは回復すべき患者さんにとって危険な,本格的な「闘争・逃走反応」です.

🫀 心血管系への影響

この交感神経系の亢進は,心拍数,血圧,血管抵抗を上昇させます.これらの変化が合わさることで,心臓は本来よりもはるかに大きな負担を強いられます.

若くて元気な患者さんであれば大きな問題にならなくても,冠動脈疾患のある患者さんでは,この追加の負担が心筋への酸素供給を減少させ,不整脈を誘発したり,さらには心筋梗塞を引き起こしたりする可能性があります.
実際,不十分な鎮痛がハイリスク手術患者における心合併症の増加と関連していることを示すデータもあります.

🫁 呼吸器系への影響

創部痛により,浅い呼吸になったり,咳を我慢したりすることがありますよね.しかし,この痛みを避けるための防御行動は肺の完全な拡張を妨げ,無気肺形成や分泌物の貯留を引き起こします.

一回換気量の減少と咯痰排出機能の低下は,酸素化の悪化だけでなく,感染(肺炎)のリスクを急激に上昇させます

♦️ 免疫系と内分泌系の機能障害

疼痛は快適さや呼吸だけでなく,ホルモンバランスと免疫機能にも連鎖的な影響を及ぼします.同じ交感神経系の亢進が視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を活性化し,コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌が増加します.

これが以下のような影響を及ぼします.前述の事項もふまえ,術後疼痛を放置することは百害あって一利なしということがわかりますね😓

🛡️ 免疫抑制

高コルチゾール血症は免疫系を抑制し,創傷治癒を遅延させます.その結果,手術部位感染(SSI)の発生率が上昇します.
コントロール不良の疼痛は感染率を最大50%増加させる可能性があるとの報告もあります😫.

🔹 代謝への影響

タンパク質の分解とインスリン抵抗性を促進し(高血糖になりやすい),組織修復を遅らせ,回復期間が延長する可能性があります.

🔹 消化管機能

疼痛とストレスは消化管運動も低下させ,術後イレウス(麻痺性イレウス)を起こしやすくなります.そのため,経口摂取が遅れ,入院期間の延長を招く可能性があります.
より重症になると,遷延するイレウスにより誤嚥リスクが高まり,肺炎リスクが上昇します.

⚡️ 急性疼痛から慢性疼痛への移行

術後痛は急性期のものだけだと思いがちです.通常はその通りなのですが,十分にコントロールされていない急性疼痛は,慢性疼痛へと進展する可能性があります😖.

慢性術後疼痛(CPSP)は手術患者の約10~20%に影響を及ぼすとされ,数か月または数年間持続することがあります.

最大の予測因子の1つに,術後最初の48~72時間に患者さんが経験する疼痛の程度があります.複数の研究で,この初期の疼痛強度が後に慢性疼痛が発症するかどうかに強く影響することが報告されています.

その原因は中枢性感作とされます.組織が治癒した後でも,神経系が疼痛信号を増幅し続けるためです.

💡 ポイント:術後最初の24~72時間で疼痛を積極的にコントロールします.これは快適さのためだけではなく,脊髄と脳が「痛みを記憶してしまう」変化を防ぎ,疼痛経路が「オン」の状態で固定されるのを防ぐためです

☝️解決策:積極的なマルチモーダル鎮痛

以上のリスクを考えると,オピオイドのみに頼ることは不十分です.ASA,APS,ASRAの主要なガイドラインは,積極的なマルチモーダル鎮痛を標準治療として強調しています.

具体的には,以下のように複数の角度(機序)から同時に疼痛をターゲットにします.

  • NSAIDsは末梢の炎症を軽減し,アセトアミノフェンは中枢性の鎮痛作用を発揮します.
  • ガバペンチノイド(プレガバリンやミロガバリン)は神経の感作を調節します
  • 局所麻酔(神経ブロック,硬膜外麻酔)は疼痛信号を発生源で遮断します
  • ケタミン静注はオピオイド耐性患者における中枢性感作の予防に役立ちます.

🇯🇵 日本の状況

  • マルチモーダル鎮痛は日本でも広く実践されていますが,一部の薬剤(術後疼痛や慢性疼痛に対するケタミン静注など)はまだ適応外使用と見なされる場合があります.施設のプロトコルや適応基準に従ってください.
  • ガバペンチノイド(ガバペンチン,プレガバリン)の術前予防投与は,日本では適応外使用となります.プレガバリンは神経障害性疼痛に対して保険適用がありますが,術後疼痛予防目的での使用は,施設の倫理委員会における承認や適応外使用の手続きが必要な場合があります.また,患者さんへの十分な説明と同意が必要です.

✅ 利点

マルチモーダル戦略は,オピオイド使用量を約30~40%削減しながら,良好な疼痛緩和を行うことができるとされています.オピオイドが少ないということは,呼吸抑制,鎮静,悪心,イレウス等の副作用が減少し,入院期間が短縮されて全体的な回復が速くなることにつながります👍



📝 まとめ:Take Home Messages

術後疼痛は単なる症状ではなく,そのストレスは心臓,肺,免疫系に大きな影響を与えます.マルチモーダル戦略で積極的に管理することが,合併症と慢性疼痛を予防するために不可欠です.

また,痛いのにものすごく”我慢強い”患者さんや,看護師さんも忙しいから遠慮してしまう患者さんもいらっしゃるので,事前に「痛みを我慢する必要がないこと,むしろ痛いとしっかりと言ってもらうことが大事」ということも伝えておくとよいかもしれません.

🔑 Key Points

  • 高い有病率:患者さんの約75~80%が中等度から重度の術後疼痛を経験するため,疼痛評価と積極的な管理が周術期ケアの重要な部分.近年,疼痛管理の重要性への認識が高まり,改善傾向にあります.
  • 慢性疼痛のリスク:最初の48~72時間の強い疼痛は,手術患者の10~20%に影響を及ぼすCPSPの最大の予測因子.
  • 全身性心血管系への害:疼痛誘発性の交感神経系活性化は心拍数と血圧を上昇させ,心疾患患者における虚血のリスクを高めます.
  • 呼吸器系合併症:浅い呼吸と咳嗽努力の低下は無気肺と肺炎を引き起こします.
  • 標準治療:マルチモーダル鎮痛(非オピオイド薬,局所ブロック,鎮痛補助薬)は,コントロールを改善しながらオピオイド使用を約3分の1削減します(ただし適応に注意)

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