📘【想定問題】気管切除・形成術

症例設定
【患者】
- 58歳男性.170cm,65kg(BMI22.5)
【現病歴】
- 2か月前から徐々に増悪する吸気性喘鳴と呼吸困難を認めた.
- 頸胸部CTおよび気管支鏡検査で,CT上,第7~8気管軟骨付近に2.0×1.5cmの腫瘤を認めた.病変は声門下約5cm,気管分岐部より約6cm近位に位置し,気管内腔断面積の約75%を閉塞している.
- 生検で腺様嚢胞癌と診断され,気管4リング,約2.5cmを切除して端々吻合する気管切除・形成術が予定された.
【既往歴】
- 高血圧症(5年前からアムロジピン内服)
- 脂質異常症(3年前からロスバスタチン内服)
- 甲状腺機能低下症(7年前からレボチロキシン内服)
【社会歴】
- 喫煙歴:10本/日×30年(現在も継続) ・
- 飲酒:ビール350ml/日
- ADL:階段昇降時中等度呼吸困難,平地歩行可
【服用中薬剤】
- アムロジピン 5mg 1回/日
- ロスバスタチン 2.5mg 1回/日
- レボチロキシン 75μg 1回/日
【主な検査所見・バイタルサインなど】
バイタルサイン
- 血圧 135/82 mmHg,脈拍 72回/分・整,体温 36.4℃
- SpO₂ 95%(室内気),呼吸数 18回/分
血液検査
- 血算:Hb 14.2 g/dL,Ht 42.1%,WBC 5,800/μL,Plt 22.5万/μL
- 生化学:TP 7.2 g/dL,Alb 4.0 g/dL,T-Bil 0.8 mg/dL
- 腎機能:BUN 15 mg/dL,Cr 0.82 mg/dL,eGFR 73 mL/min/1.73m²
- 電解質:Na 142 mEq/L,K 4.1 mEq/L,Cl 105 mEq/L
- 甲状腺機能:TSH 2.4 μIU/mL,FT4 1.2 ng/dL
- 凝固:PT-INR 1.03,APTT 31秒
動脈血ガス分析(室内気)
- pH 7.41,PaO₂ 78 mmHg,PaCO₂ 38 mmHg,HCO₃⁻ 23 mEq/L,BE -0.5 mEq/L
呼吸機能検査
- VC 3.50 L(%VC 90%),FEV₁ 2.80 L(%FEV₁ 85%),FEV₁/FVC 80%
- フローボリューム曲線:固定性上気道閉塞パターン
- 最大吸気圧(MIP):-75 cmH₂O,最大呼気圧(MEP):110 cmH₂O
心機能評価
- 安静時12誘導心電図:洞調律,70回/分,異常なし
- 経胸壁心エコー:左室駆出率 62%,壁運動異常なし,弁膜症なし
その他の検査
- 頸胸部CT:腫瘍の位置,病変長,最狭窄部,声門・気管分岐部との距離を確認できる.明らかな大血管浸潤はない.
- 気管支鏡検査:表面平滑な腫瘍が内腔断面積の約75%を閉塞し,周囲粘膜への進展を認める.腫瘍への接触により出血や腫瘍片による閉塞を来す可能性がある.
- 3D気管再構築画像:腫瘍の位置と範囲が明確化,切除予定気管長2.5cm
- 気道評価:Mallampati分類 Class II,頸部伸展良好,開口3横指
Q1. 術前気道評価で重要な所見と,予測される気道管理上の問題点について説明してください.
- 症状,CT,気管支鏡を中心に,狭窄の位置・程度,病変長,腫瘍の脆弱性,細径チューブが通過可能かを評価します.
- 本症例では安静時にも吸気性喘鳴があり,高度の固定性気管狭窄があります.通常の喉頭展開は困難でないと予測されますが,問題は声門より遠位の気管内狭窄です.
- 鎮静や麻酔導入に伴う呼吸駆動の消失,分泌物,出血,ファイバーやチューブによる腫瘍損傷によって残存内腔が完全閉塞する可能性があります.また,腫瘍より近位にチューブを留置すると,狭窄部を介して換気しなければならず,十分な換気が得られない可能性があります.
🔍 追加で聞かれたら
- 仰臥位で症状が悪化しないか,最も呼吸しやすい体位を確認します.
- 嗄声,嚥下障害,血痰,喀痰排出能,反回神経障害の有無を確認します.
- FEV₁やFEV₁/FVCが保たれていても,高度の中枢気道狭窄を否定できません.
- 固定性閉塞では吸気・呼気両相が平坦化します.FEF50/FIF50などの定量指標も補助になりますが,重症度判断にはCTと気管支鏡を優先します.
- 喫煙者には直ちに禁煙を指導します.可能であれば術前4週間以上を目標としますが,期間が短くても禁煙を開始する意義があります.
Q2. 術前に外科医・手術室スタッフと協議しておく事項と,準備する物品について説明してください.
- 腫瘍の位置,切除長,気管切離部位,吻合方法,頸部伸展時の気道変化を確認します.
- 麻酔導入時に経口チューブを腫瘍の近位へ留置するか,狭窄部を越えて遠位へ進めるかを,CT・気管支鏡所見と腫瘍の出血性を基に決めます.本症例では,腫瘍への接触を避け,近位留置で換気可能なことを確認する計画とします.
- 気管切離後は術野挿管によるcross-field ventilationを基本とし,術野チューブの径,挿入長,固定法,回路接続,経口チューブへ戻すタイミングと合図を共有します.
- 換気不能時の代替手段として,HFJV,硬性気管支鏡,病変遠位の外科的気道確保,ECMOの導入可否と担当者を確認します.ECMOの事前カニュレーションを行う客観的な狭窄率の基準はないため,症状,狭窄形態,救済に要する時間,施設体制から個別に判断します.
- 本症例では事前カニュレーションは行わず,導入可能な連絡体制を確認します.
🔍 追加で聞かれたら
🔵 準備する物品は以下です.
- 内径5.0~6.5mm程度のカフ付き細径気管チューブ複数
- 術野挿管用の滅菌スパイラルチューブと滅菌回路延長
- 気管支ファイバー
- ビデオ喉頭鏡
- 硬性気管支鏡
- HFJV装置とカテーテル
- 困難気道カート
- 外科的気道確保器具
- TIVA用の静脈麻酔薬投与系
- 十分な静脈路と観血的動脈圧ライン
反回神経モニタリングを使用する場合は,筋弛緩薬の使用時期と深度についても協議します.
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