📘【想定問題】僧帽弁形成術(MICS)

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症例設定

【患者】

  • 80歳女性.152cm,66kg(BMI28.5)

【現病歴】

  • 6か月前から労作時呼吸困難と下腿浮腫を認めるようになり,最近は軽労作でも息切れを自覚している.心臓超音波検査で,僧帽弁後尖P2領域の逸脱による重度僧帽弁閉鎖不全症と診断された.心不全症状はNYHA III度であり,右小開胸による低侵襲心臓手術(MICS)での僧帽弁形成術が予定された.

【既往歴】

  • 高血圧症
  • 2型糖尿病
  • 慢性心房細動
  • 慢性腎臓病(CKD G3b)
  • 一過性脳虚血発作(2年前)

【服用中薬剤】

  • ビソプロロール 2.5mg 1日1回
  • アムロジピン 5mg 1日1回
  • カンデサルタン 4mg 1日1回
  • メトホルミン 500mg 1日2回
  • アピキサバン 2.5mg 1日2回
  • フロセミド 20mg 1日1回
【主な検査データ・バイタルサインなど】

血液検査

  • Hb 11.2 g/dL,Plt 18.5万/μL,WBC 6800/μL
  • PT-INR 1.8,APTT 42秒
  • BUN 28 mg/dL,Cr 1.6 mg/dL,eGFR 32 mL/min/1.73m²,
  • Na 138 mEq/L,K 4.3 mEq/L,Cl 105 mEq/L,
  • Glu 132 mg/dL,HbA1c 6.8%,
  • BNP 320 pg/mL
  • 動脈血ガス(室内気):pH 7.38,PaO2 78 mmHg,PaCO2 43 mmHg,HCO3⁻ 24 mEq/L,BE -0.5

呼吸機能検査

  • %VC 78%,FEV1.0% 76%

画像・心機能評価

  • 胸部X線:CTR 60%,肺うっ血所見あり,胸水なし
  • 心エコー:左室駆出率(LVEF)48%,左室拡張末期径(LVDd)58mm,左房径 46mm,重度MR(逆流率 45%),後尖P2領域の逸脱,左室拡大,左房拡大
  • 冠動脈造影:有意狭窄なし
  • 頸動脈超音波:両側軽度プラーク形成あり,有意狭窄なし
  • 下肢血管エコー:両側大腿動静脈に有意狭窄なし(MICSアプローチのための大腿動静脈評価)
  • 術前CT:胸腹部大動脈から腸骨・大腿動脈のアクセス経路に,高度石灰化,解離,有意狭窄なし

特記すべき身体所見

  • 心尖部に全収縮期雑音
  • 両側下腿に軽度浮腫あり
  • Mallampati分類II度
  • 開口・頸部伸展制限なし
  • 左上第二大臼歯に動揺あり

搬入時バイタルサイン

  • ECG:心房細動,HR 78/分
  • NIBP:132/78 mmHg
  • SpO₂:96%(O2 5L/分マスク)
  • 体温:36.2℃
Q1. 本症例の術前リスク評価で重視すべき点を挙げ,MICSの利点と特有のリスクを説明してください.

🔵 リスク評価

  • 重度MRによる心不全と左室機能を評価します.重度MRではLVEFが心筋収縮能を過大評価することがあり,本例のLVEF 48%は明らかな左室機能低下を示します.人工心肺離脱困難や術後低心拍出量症候群に注意します.
  • 高齢,CKD,糖尿病による術後AKI,感染,せん妄のリスクもあります.
  • また,心房細動とTIA既往があり,アピキサバン休薬中の血栓塞栓症にも注意します.BMI 28.5だけで困難気道とは判断しませんが,無気肺や分離肺換気中の低酸素血症を起こしやすい可能性があります.

🔵 MICSについて

  • MICSでは胸骨正中切開を回避できるため,創部侵襲や疼痛の軽減,早期離床,回復期間の短縮などが期待できます.
  • 一方,片肺換気,狭い術野,大腿動静脈カニュレーション,逆行性送血,手術・人工心肺時間の延長,緊急コンバージョンへの対応が必要です.
  • 血管損傷,下肢虚血,大動脈解離,脳灌流障害,脱気不良などにも注意します.
🔍 追加で聞かれたら
  • 抗凝固管理:Cockcroft–Gault式による推定CrClは約29mL/minです.高出血リスク開心術と腎機能低下を踏まえ,施設プロトコールに従って5日前から休薬しています.DOACに対するルーチンのヘパリンブリッジは行いません.
  • 腎保護:過度の低血圧・低灌流,腎毒性薬剤,造影剤曝露の重複を避けます.
  • アクセス評価:胸腹部大動脈から腸骨・大腿動脈まで,血管径,石灰化,狭窄,解離,粥状硬化を確認します.
  • MICSの患者選択:胸郭形態,既往胸部手術,大動脈遮断方法,呼吸機能,緊急時の正中切開移行の可否も確認します.
補足・解説
  • アピキサバンは,80歳以上,体重60kg以下,血清クレアチニン1.5mg/dL以上のうち2項目以上に該当する場合,2.5mg 1日2回へ減量します.
  • PT-INRやAPTTは,アピキサバンの抗凝固作用を定量する指標にはなりません.休薬期間は,手術の出血リスク,薬剤,最終内服時刻,CrClに応じて個別に決定します.

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