📘【想定問題】緊急帝王切開

症例設定
【患者】
- 34歳女性,158 cm/68 kg(非妊娠時 50 kg,BMI 27.2),G2P1,O型 Rh(+)
【現病歴】
- 前回妊娠では妊娠高血圧症候群のため,妊娠38週で帝王切開術が施行された.今回の妊娠では妊娠32週頃から血圧上昇と蛋白尿を認め,妊娠高血圧腎症と診断され,ニフェジピンCRの内服が開始された.
- 2日前から頭痛,右上腹部痛,全身倦怠感,悪心を認めていたが我慢していた.本日朝より症状が増悪し,嘔吐も出現したため産科外来を受診した.
- 受診時の血圧は184/110mmHg,尿蛋白は3+であり,血小板減少,肝酵素上昇,溶血を疑う所見を認めたため,産科ICUへ緊急入院となった.
- ニカルジピン持続静注と,硫酸マグネシウム4gを20分以上かけて負荷投与後,1g/hの持続静注が開始された.現在,入院から約12時間が経過している.
【既往歴】
- 前回妊娠時のHDP(計画的帝切で母児ともに合併症なく退院),他特記事項なし
【産科歴】
- G2P1(前回 妊娠38週・計画的帝王切開)
【服用中/投与中薬剤】
- ニフェジピンCR 40 mg 1日1回(入院後はニカルジピン持続静注 1〜2 mg/h に変更)
- 硫酸マグネシウム持続静注(負荷 4g/20分 → 維持 2g/h,現在も継続中)
【主な検査所見・バイタルサイン】
バイタルサイン
- 入院時:BP 184/110 mmHg → 降圧治療開始後の現在 174/105 mmHg
- HR 110 /分,RR 22 /分,SpO₂ 96%(room air),体温 37.2℃
採血データなど
- WBC 14,500 /μL, Hb 10.5 g/dL, Ht 30.2%, 血小板 55,000 /μL
- T-Bil 4.8 mg/dL(間接ビリルビン 3.2 mg/dL)AST 1200 IU/L,ALT 950 IU/L, LDH 1500 IU/L
- BUN 22 mg/dL,Cr 1.2 mg/dL(妊婦としては高値)
- Na 138 mEq/L,K 4.0 mEq/L,Cl 102 mEq/L,Mg 4.2 mEq/L(治療域)
- PT-INR 1.3, APTT 42秒, フィブリノゲン 180 mg/dL, FDP 18 μg/mL, D-dimer 6.5 μg/mL
- 尿検査:蛋白(3+),潜血(+)
- 末梢血像:破砕赤血球(+),ハプトグロビン低下
画像所見
- 胸部X線:両側下肺野にうっすらと浸潤影(軽度)
- 心電図:洞性頻脈,その他に異常所見なし
- 胎児超音波:推定体重2000g,羊水量正常,胎位は頭位
- 胎児心拍数陣痛図:基線細変動は保たれているが,時折変動一過性徐脈を認める
身体所見・診察所見など
- 気道評価:Mallampati分類 Class II,開口制限なし,頸部伸展制限なし
- 顔面浮腫 (+),眼瞼結膜浮腫 (+),口腔内・舌の浮腫 (+)
- 下肢に著明な浮腫,右上腹部に強い圧痛
- 神経学的所見:意識清明,深部腱反射保たれる,視覚異常なし
⏩【経過】
- 患者は右上腹部痛,頭痛,悪心を訴えています.意識は清明です.
Q1. 症状と検査所見から何を疑いますか.根拠と鑑別診断を述べてください.
- 妊娠高血圧腎症を背景としたHELLP症候群を強く疑います.
- 根拠は,溶血を示唆する間接ビリルビン・LDH上昇と破砕赤血球,著明なAST・ALT上昇,血小板5.5万/μLへの低下があり,Hemolysis,Elevated Liver enzymes,Low Platelet countの三徴を満たすためです.
- さらに,PT-INR・APTT延長とフィブリノゲン低下があり,消費性凝固障害および産科DICの併発・進行に注意します.ただし,これらの検査値だけでDICを断定せず,基礎疾患,出血症状,臨床所見を含めて産科DICスコアで評価します.
- 鑑別には急性妊娠脂肪肝,TTP,妊娠関連非典型溶血性尿毒症症候群,急性肝炎などがあります.
🔍 追加で聞かれたら
- 鑑別には急性妊娠脂肪肝,TTP,妊娠関連非典型溶血性尿毒症症候群,急性肝炎などがあります.
- 急性妊娠脂肪肝では,低血糖,凝固障害,高アンモニア血症,腎機能障害などが前面に出ることがあります.
- TTPや妊娠関連非典型溶血性尿毒症症候群では,神経症状,腎障害,分娩後も遷延する溶血・血小板減少などに注意します.
- 右上腹部痛が増悪する場合は,肝被膜下血腫や肝破裂も疑い,母体を安定化させたうえで超音波検査やCTを検討します.
補足・解説
- HELLP症候群は,溶血,肝機能障害,血小板減少を同時に認め,他の偶発合併症によらない病態です.フィブリノゲン180mg/dLは危機的出血宣言の単独基準である150mg/dL未満には達していませんが,妊娠中としては低値であり,推移を厳重に確認します.
Q2. 本症例の降圧方針と,使用する降圧薬について説明してください.
- 収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上が反復しており,母体脳出血・子癇を予防するため,速やかに降圧治療を開始します.
- まず重症高血圧域から離脱させることを目標とし,その後は140〜150/90〜100mmHg程度を一つの目安としつつ,母体症状と胎児心拍をみながら個別に調整します.正常血圧まで急激に低下させることは避けます.
- 本症例では,調節性の高いニカルジピン持続静注を使用します.
🔍 追加で聞かれたら
- 急性期の静注薬としてヒドララジンも選択肢です.
- 維持療法には,徐放性ニフェジピン,ラベタロール内服,メチルドパなどを用います.
- ニトログリセリンは,肺水腫を伴う場合の選択肢です.
- 急激な降圧は子宮胎盤血流を低下させ,胎児機能不全を悪化させる可能性があるため,胎児心拍数を監視します.
補足・解説
- 国内ガイドラインでは,重症高血圧を反復して認める場合は速やかな治療開始が推奨されていますが,単一の最終目標血圧は規定されていません.口頭試問では,「まず160/110mmHg未満とし,過降圧を避けて個別調整する」と答えるのが安全です.(外勤先では事前に確認しておきましょう☝️).
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