📘【想定問題】人工股関節全置換術(THA)

症例設定

【患者】

  • 85歳女性.152cm,45kg(BMI19.5)

【現病歴】

  • 数年前から徐々に左股関節痛が出現し,3か月前から増悪して歩行困難となった.左変形性股関節症および大腿骨頭壊死と診断され,左人工股関節全置換術が予定された.

【既往歴】

  • 高血圧症(20年前から)
  • 骨粗鬆症(10年前から)
  • 軽度認知機能低下(MMSE 22/30)
  • 2年前に転倒し右橈骨遠位端骨折(手術)

【服用中薬剤】

  • アムロジピン 5mg 1回/日
  • テルミサルタン 40mg 1回/日
  • エルデカルシトール 0.75μg 1回/日
  • デノスマブ 60mg 6ヶ月毎(最終投与は3ヶ月前)
  • アセトアミノフェン 500mg 3回/日
【主な術前検査データ】

主要検査データ

  • 血液検査:Hb 9.2 g/dL,Plt 18.5万/μL,WBC 5600/μL
  • 生化学:BUN 22 mg/dL,Cr 0.92 mg/dL(eGFR 45 mL/min/1.73m²),Na 138 mEq/L,K 4.3 mEq/L,Cl 102 mEq/L,Ca 8.7 mg/dL,Alb 3.6 g/dL,AST 22 U/L,ALT 18 U/L
  • 凝固:PT-INR 1.02,APTT 32秒
  • 心電図:洞調律,左室肥大所見
  • 胸部X線:CTR 64%,肺野に明らかな異常なし

心エコー

  • 左室駆出率(LVEF):60%
  • 左室壁肥厚:心室中隔厚13mm,後壁厚12mmで軽度肥厚あり
  • 左室拡張能:E/A比 0.8,E/e’ 12であり
  • 左房径(LAD):40mmで左房拡大を認める
  • 弁膜症所見:明らかな弁膜症なし
  • 心膜液貯留なし

画像所見

  • 左股関節X線およびMRIにて進行した変形性股関節症と大腿骨頭壊死の所見

バイタルサイン等身体所見

  • 呼吸音:清,両側下肺野で軽度減弱
  • 心音:整,心雑音なし
  • 気道評価:Mallampati分類 II度,開口3横指,頸部伸展制限なし
  • 握力:右13kg,左15kg(年齢平均に比して低下)
  • 左股関節:屈曲・伸展で疼痛あり,可動域制限あり
  • 歩行:杖歩行,著明な跛行
  • 血圧 150/85 mmHg,心拍数 82/分・整,SpO₂ 95%(室内気)

【予定術式】

  • 左股関節全置換術(THA):骨セメント使用予定
Q1. この患者の術前評価で特に注意すべき点と,考えられる周術期合併症を説明してください.
  • まず,高齢,握力低下,歩行障害からフレイルまたはプレフレイルを疑います.ただし,歩行障害は股関節疾患の影響を受けるため,疼痛増悪前の活動性,体重減少,疲労感,歩行速度を本人・家族から確認します.
  • MMSE 22点であり,術後せん妄,ADL低下,離床遅延のリスクがあります.Hb 9.2g/dLの貧血については,予定手術であるため原因を評価し,鉄欠乏など治療可能な原因があれば術前に補正します.
  • 高血圧,左室肥大,左房拡大,拡張機能障害を示唆する所見があり,頻脈,低血圧,急激な前負荷低下,過剰輸液に注意します.eGFR 45mL/分/1.73m²はCKD G3aに相当し,
  • 腎機能に応じた薬剤投与とAKI予防が必要です.
  • セメント使用THAでは,BCIS,出血,人工関節周囲骨折,VTE,感染,AKI,術後せん妄に備えます.
🔍 追加で聞かれたら
  • 改訂J-CHSでは,女性の握力18kg未満は筋力低下に該当しますが,1項目だけではフレイルとは診断しません.
  • J-CHSは体重減少,握力低下,疲労感,歩行速度低下,身体活動低下の5項目で評価し,3項目以上をフレイル,1~2項目をプレフレイルとします.
  • CFSを併用する場合は,現在の疼痛による制限ではなく,症状増悪前の平常時の機能・依存度を評価します.
  • 心エコー所見のみからHFpEFや左室充満圧上昇を確定しません.症状,左房容積,TR速度,ナトリウム利尿ペプチドなどを統合して判断します.
  • Ca 8.7mg/dL,Alb 3.6g/dLから算出した補正Caは約9.1mg/dLであり,現時点で明らかな低Ca血症ではありません.ただし,デノスマブ使用中であるため,周術期のCaと腎機能を再確認し,異常や症状があればイオン化Ca,P,Mgなどを追加します.
補足・解説
  • 本症例では握力低下は明らかですが,歩行速度や身体活動は股関節痛により低下している可能性があるため,疼痛増悪前の状態を確認せずにフレイルと確定しません.改訂J-CHSでは5項目中3項目以上をフレイル,1~2項目をプレフレイルとします.
  • プラリアの添付文書は,投与開始前の補正Ca確認と投与後の定期的なCa測定を求めています.本症例では最終投与から3か月が経過し,活性型ビタミンDを内服し,補正Caも保たれているため,低Ca血症を主要テーマとはしませんが,周術期の変動には注意します.

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