📘【想定問題】大腿骨人工骨頭置換術

症例設定

【患者】

  • 82歳女性.152cm,50kg(BMI21.6)

【現病歴】

  • 昨日,自宅で転倒し,左大腿骨頸部骨折と診断され緊急入院となった.人工骨頭置換術が予定されている.
  • 2年前の脊椎X線検査で環軸椎亜脱臼を指摘されているが,これまで明らかな神経症状は認めていない.L2~5に圧迫骨折と変形性脊椎症がある.

【既往歴】

  • 5年前に下壁梗塞でPCI歴があり(ステント留置なし).
  • 関節リウマチ(20年前に指摘).手指・肘関節・足関節の変形と可動域制限が進行している.
  • 軽度認知症(HDS-R 22点/30点).受傷前のADLはほぼ自立しており,同居の娘と二人暮らし.

【服用中薬剤】

  • バイアスピリン 100mg 1回/日(周術期も継続)
  • プレドニゾロン 5mg 1回/日(朝食後)
  • メトトレキサート 8mg 1回/週
  • エルデカルシトール 0.75μg 1回/日
  • ファモチジン 20mg 1回/日
  • 折れた骨の痛みに対してアセトアミノフェン 500mg 頓用で使用
【主な検査所見・バイタルサインなど】

バイタルサイン

  • 血圧: 140/76 mmHg
  • 脈拍: 74回/分(整)
  • 体温: 36.5℃
  • 呼吸数: 16回/分
  • SpO₂: 97%(室内気)

採血データ

  • WBC: 7,400 /μL, RBC: 3.50 × 10^6 /μL, Hb: 10.5 g/dL, Ht: 31.5%, 血小板: 18.0 × 10^4 /μL
  • TP: 6.3 g/dL, Alb: 3.3 g/dL
  • AST: 23 IU/L, ALT: 19 IU/L
  • BUN: 22 mg/dL, Cr: 1.0 mg/dL, eGFR: 43 mL/min/1.73m²
  • Na: 141 mEq/L, K: 4.1 mEq/L, Cl: 105 mEq/L
  • Glu: 118 mg/dL
  • BNP: 92 pg/mL
  • CRP: 1.8 mg/dL
  • PT-INR: 1.12, APTT: 33秒

動脈血ガス分析(室内気):

  • pH: 7.42
  • PaO₂: 85 mmHg
  • PaCO₂: 39 mmHg
  • HCO₃⁻: 25 mEq/L
  • BE: 0.5 mEq/L
  • Lac: 1.0 mmol/L

画像検査など

  • 胸部X線: CTR 54%.肺野に明らかな浸潤影なし.軽度心拡大あり.
  • 頸椎X線: 環軸椎亜脱臼あり(前方atlantodental interval 5.5mm).頸椎全体に変形性変化.
  • 腰椎X線: L2〜5にかけて圧迫骨折.変形性脊椎症による骨棘形成著明.
  • 左股関節X線: Garden分類 type III の左大腿骨頸部骨折.
  • 心電図: 洞調律,HR 74/分.下壁誘導(II, III, aVF)にQ波あり.
  • 心エコー: 左室駆出率(EF)45%.下壁の軽度壁運動低下.明らかな弁膜症なし.

身体所見

  • 気道評価: Mallampati分類 II度.開口制限なし(3横指).頸部伸展は軽度制限あり(後屈25°程度).
  • 心音: 整,明らかな心雑音なし.
  • 呼吸音: 両側清,ラ音なし.
  • 関節所見: 両手指のスワンネック変形,尺側偏位あり.両肘・膝関節の可動域制限あり.
  • 神経学的所見: 頸部を動かしても明らかな神経症状の出現なし.両下肢の筋力低下なし.
  • その他: 安静時の左股関節部痛あり(NRS 5/10).
Q1. の患者の術前評価と麻酔リスク評価について,重要なポイントを挙げてください.
  • 最も重要なのは,関節リウマチに伴う環軸椎不安定性と気道管理リスクです.頸部運動による神経症状,既存の頸椎画像,開口・顎関節可動域に加え,嗄声,嚥下障害,吸気性喘鳴など輪状披裂関節病変を示唆する症状を確認します.
  • 次に,陳旧性心筋梗塞と左室駆出率45%があり,低血圧,頻脈,貧血による心筋酸素需給不均衡に注意します.ただし,現在は胸痛,心不全,重篤な不整脈などの活動性心疾患を示す所見がなく,追加検査が管理を変えないのであれば,股関節骨折手術の延期は不必要です.
  • そのほか,Hb 10.5g/dLの軽度貧血,eGFR 43mL/min/1.73m²の腎機能低下,低アルブミン血症,高齢,軽度認知症,疼痛,臥床に伴うせん妄,VTE,褥瘡のリスクを評価します.
  • プレドニゾロンは中断せず,投与期間,過去の高用量投与歴,周術期の内服可否を確認します.HPA軸抑制を否定できない場合には,全身または区域麻酔による手術侵襲に応じて,施設プロトコルに沿ったステロイド補充を行います.
🔍 追加で聞かれたら
  • 関節変形と可動域制限があるため,移乗,側臥位,術中固定時の疼痛,神経圧迫,皮膚損傷を予防します.
  • 骨折痛,脱水,電解質異常,治療可能な心不全,不整脈,虚血を速やかに是正し,早期手術につなげる必要があります.
  • 原因不明の遷延性低血圧が生じた場合は,出血,心原性・血管拡張性ショックなどを評価するとともに,副腎クリーゼも考えます.

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