📘【想定問題】甲状腺全摘術

症例設定

【患者】

  • 55歳女性.160cm,95kg(BMI37.1)

【現病歴】

  • 1〜2年前から前頸部腫脹を自覚していた.最近になり嗄声と嚥下困難感と呼吸困難感が出現し,当院1~2年前から前頸部腫脹を自覚していた.最近になって嗄声,嚥下困難感,呼吸困難感が出現し,当院耳鼻咽喉科を受診した.精査の結果,右葉7cm,左葉5cmの甲状腺腫と診断され,甲状腺全摘術が予定された.

【既往歴】

  • 高血圧(10年前から):内服治療中で安定しているが,時折収縮期血圧160mmHg以上
  • 中等度閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI 22/時):5年前に診断され,nasal-CPAP使用中
  • 喫煙歴:20本/日×30年(入院6週間前から禁煙)

【服用中薬剤】

  • アムロジピン 5mg 1日1回
  • ロサルタン 50mg 1日1回
  • ラベプラゾール 10mg 1日1回
【主な検査所見とバイタルサインなど】

バイタルサイン

  • 血圧:150/95 mmHg
  • 心拍数:80 bpm
  • SpO₂:95%(室内気)
  • 呼吸数:18回/分
  • 体温:36.5℃

血液生化学検査

  • WBC 6,500/μL,Hb 13.2g/dL,Plt 24.5万/μL
  • AST 28 U/L,ALT 32 U/L,LDH 220 U/L
  • BUN 16mg/dL,Cr 0.8mg/dL,eGFR 65mL/min/1.73m²
  • Na 139mEq/L,K 4.1mEq/L,Cl 103mEq/L, Ca 9.2mg/dL
  • 血糖 102mg/dL,HbA1c 5.8%
  • TSH 3.2μIU/mL,FT3 2.8pg/mL,FT4 1.2ng/dL(正常範囲内)

心電図

  • 洞調律,HR 78/分,左室肥大の所見あり

呼吸機能検査

  • %VC:65%
  • FEV1%:72%
  • FEV1:1.58L
  • %FEV1:68%
  • 混合性換気障害パターン

動脈血ガス分析(room air)

  • pH 7.38
  • PaO₂ 75mmHg
  • PaCO₂ 46mmHg
  • HCO3- 24mEq/L
  • BE -0.5mEq/L
  • A-aDO₂ 30mmHg

画像所見

  • 頸部CT
    • 右葉7cm,左葉5cmの甲状腺腫
    • 気管は右方へ15mm偏位
    • 最小気管内腔径12mm
    • 気管周囲への圧排と浸潤なし
    • 内部は不均一な造影効果あり
  • 胸部X線
    • CTR 52%
    • 肺野に明らかな浸潤影なし
    • 気管偏位あり
    • 縦隔拡大なし
Q1. 術前評価における麻酔管理上の問題点と対応策を説明してください.
  • 最大の問題は困難気道です.甲状腺腫による気管偏位と狭小化に加え,嗄声,呼吸困難感,高度肥満,OSA,Mallampati分類III,頸部後屈制限があります.通常導入後にマスク換気・気管挿管の両方が困難になる可能性を考え,意識下気管支ファイバー挿管を第一候補とします.
  • 嗄声があるため,術前に喉頭内視鏡で声帯運動を直接評価し,既存の反回神経麻痺がないか確認します.また,CTで気管狭窄の部位,程度,長さと,前頸部の解剖を確認します.
  • 高度肥満とOSAにより無呼吸の許容時間が短く,術後も上気道閉塞,残存筋弛緩,鎮静薬・オピオイドによる呼吸抑制のリスクがあります.頭高位で十分に前酸素化し,オピオイド節減,完全な筋弛緩回復,術後CPAPと継続的な呼吸モニタリングを実施します.
  • 甲状腺手術後には,頸部血腫,喉頭浮腫,反回神経麻痺による気道閉塞があり得るため,抜管方法と術後緊急対応を術前からチームで共有します.
🔍 追加で聞かれたら
  • 嗄声:既存の反回神経麻痺の有無を術前に確認し,術後所見と比較します.術前の声帯運動評価は甲状腺手術において重要です.
  • 喫煙歴:禁煙を継続し,喀痰量,喘鳴,呼吸器感染の有無を確認します.
  • その他の術後合併症:副甲状腺障害による低カルシウム血症にも注意します.
  • 反回神経モニタリング:術者・施設の方針により考慮します(ない施設もあり)

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