📘【想定問題】甲状腺全摘術

症例設定
【患者・予定手術】
- 52歳女性.158cm,72kg(BMI28.8)
- 甲状腺全摘術(反回神経モニタリングあり)
【現病歴】
- 3年前にバセドウ病と診断され,内科的治療を受けていた.甲状腺機能のコントロールが不十分であり,右葉に4.0cm大の腫瘤を認めた.穿刺吸引細胞診で悪性が疑われ,反回神経モニタリング甲状腺全摘術が予定された.
【既往歴】
- バセドウ病(3年前〜)
- 高血圧症(5年前〜)
- 気管支喘息(小児期から,現在は安定)
【服用中薬剤】
- チアマゾール 15mg/日
- プロプラノロール 30mg/日
- アムロジピン 5mg/日
- モンテルカスト 10mg/日
【主な検査所見・バイタルサイン】
バイタルサイン:
- 血圧 142/88 mmHg
- 心拍数 96回/分
- SpO₂ 98%(室内気)
- 体温 36.8℃
- 呼吸数 16回/分
血液検査:
- Hb 12.1 g/dL, Plt 21.8×10⁴/μL, WBC 7800/μL
- AST 28 IU/L, ALT 32 IU/L
- Cr 0.72 mg/dL, eGFR 75 mL/min/1.73m²
- Na 138 mEq/L, K 4.1 mEq/L, Cl 103 mEq/L, Ca 9.0 mg/dL
- FT3 4.8 pg/mL(基準値:2.3-4.0), FT4 1.9 ng/dL(基準値:0.9-1.7), TSH 0.02 μIU/mL(基準値:0.5-5.0)
心電図:洞性頻脈,HR 94/分
胸部X線:特記すべき異常なし,CTR 50%
頸部CT:右葉に4.0×3.5cm大の腫瘤あり,気管偏位あり(右側から1.2cm),気管径は最小部で11mm
喉頭ファイバー所見:声帯運動正常,気道腫脹なし
気道評価:クラスⅡ,開口制限なし,頸部伸展制限なし・可動域良好,仰臥位で軽度呼吸困難あり,嗄声なし,嚥下困難なし 甲状腺腫大により頸部前面が膨隆,仰臥位で軽度の呼吸困難を訴える(長時間になると増悪の傾向)
Q1. この患者のバセドウ病の術前管理について,重要な評価項目と対応を説明してください.
- FT3・FT4高値,TSH抑制,頻脈があり,甲状腺機能亢進症のコントロールは不十分です.予定手術は原則として延期し,抗甲状腺薬を調整してeuthyroid化を図ります.
- ただし,気道圧迫症状や腫瘍学的な緊急性のため,延期による不利益が大きい場合は,内分泌内科,外科,麻酔科で緊急性と周術期リスクについて協議します.
- 延期困難な場合は,抗甲状腺薬の継続・調整,心拍数管理,短期の無機ヨウ素投与などにより,可能な限り甲状腺中毒症を改善させます.
- 気管支喘息患者に非選択的β遮断薬であるプロプラノロールが処方されているため,喘息の活動性と気管支痙攣歴を確認し,処方意図と安全性を再評価します.活動性喘息や気管支痙攣があれば,中止を考慮します.
🔍 追加で聞かれたら
- 動悸,発熱,体重減少,振戦,発汗,下痢などの甲状腺中毒症状を確認します.
- 心房細動,心不全,胸痛,労作時呼吸困難の有無を確認します.
- 抗甲状腺薬の服薬状況と中断歴を確認します.
- 抗甲状腺薬による無顆粒球症を疑う発熱・咽頭痛,肝障害を確認します.
- 心電図,電解質,肝機能を確認し,心不全が疑われれば心エコーを行います.
- 無機ヨウ素の製剤,投与量,投与期間は内分泌内科と協議します.
- TSHは甲状腺機能改善後もしばらく抑制されるため,FT3・FT4と臨床症状を中心に評価します.
補足・解説
- 予定手術は,抗甲状腺薬と必要に応じた無機ヨウ素によりeuthyroid化してから行うことが基本です.非euthyroidのまま行う場合は例外的状況であり,集中治療を含む対応が必要になることがあります.
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