📘【想定問題】胸腔鏡補助下左上葉切除術

症例初期設定

【患者】

  • 65歳男性.170cm,62kg(BMI21.4)

【現病歴】

  • 6か月前から咳嗽と少量の血痰を認めていた.2か月前の胸部CTで左上葉に3.5 cm大の腫瘤影を指摘され,気管支鏡検査で肺腺癌と診断された.PET-CTで明らかな遠隔転移を認めず,胸腔鏡補助下左上葉切除術が予定された.術中所見によっては開胸へ移行する可能性がある.

【既往歴】

  • 20本/日×45年の喫煙歴(1年前に禁煙)
  • 中等度COPD(GOLD分類2): FEV1 65%予測値
  • 高血圧症: アムロジピン5mg内服中,コントロール良好
  • 糖尿病: メトホルミン500mg 2×内服中,HbA1c 6.8%

【服用中薬剤】

  • アムロジピン 5mg 1×朝食後
  • メトホルミン 500mg 2×朝夕食後
  • ブデソニド/ホルモテロール吸入剤 160/4.5μg 2吸入 2×
  • チオトロピウム吸入剤 2.5μg 1×
【主な検査所見・身体所見】

【バイタルサイン】

  • 血圧 138/78 mmHg,心拍数 78/分,SpO2 94% (室内気),体温 36.5℃

【検査データ】

  • 血液学:Hb 13.5 g/dL,WBC 6800/μL,Plt 23.5万/μL
  • 生化学:BUN 18 mg/dL,Cr 0.85 mg/dL,AST 22 U/L,ALT 18 U/L,Na 140 mEq/L,K 4.2 mEq/L,Cl 105 mEq/L,血糖 132 mg/dL
  • 凝固:PT-INR 1.02,APTT 30秒
  • 動脈血ガス(室内気):pH 7.42,PaO₂ 78 mmHg,PaCO₂ 42 mmHg,HCO₃⁻ 26 mEq/L,BE +1.8
  • 肺機能検査:VC 3.22L(91%予測値),FEV1 1.95L(65%予測値),FEV1/FVC 61%
  • 心電図:洞調律,特記すべき異常なし
  • 心エコー:EF 60%,左室肥大軽度,弁膜症なし

【画像所見】

  • 胸部CT:左上葉に3.5×3.2 cmの不整形腫瘤を認める.腫瘤は左上葉気管支近傍に位置するが,左主気管支の内腔は保たれている.明らかな縦隔リンパ節腫大はない.
  • 肺換気血流シンチグラフィー: 右肺/左肺 = 55/45の分布

【特記すべき身体所見】

  • 呼吸音: 両側呼気時wheeze軽度
  • 左上肺野で呼吸音減弱
  • Mallampati分類 II度,頸部伸展制限なし
Q1. この患者の術前肺機能評価と必要な対策を述べてください.
  • 中等度の閉塞性換気障害を認めます.左上葉を全19区域中5区域として計算すると,予測術後FEV₁は約1.44 L,予測値の約48%です.これは低リスク域ではなく,中等度の呼吸器合併症リスクに相当します.
  • ただし,FEV₁だけで切除可能性は決定できません.DLCOを測定して予測術後DLCOを算出し,日常生活での運動耐容能を確認します.運動能力が低い場合や判断が不明確な場合は,階段昇降,シャトルウォーク,心肺運動負荷試験を追加します.
  • 術前には呼吸器感染やCOPD増悪がないことを確認し,吸入薬を継続します.
  • 吸入手技を確認し,呼吸訓練,排痰指導,十分な術後鎮痛,早期離床を計画します.
🔍 追加で聞かれたら
  • 予測術後FEV₁は,次のように計算します.
    • ppoFEV₁=1.95×(1−5/19)≒1.44 L
    • %ppoFEV₁=65×(14/19)≒48%
  • 肺血流シンチグラフィーは右肺55%,左肺45%までしか示しておらず,左上葉固有の灌流比は測定されていません.そのため,左右比から左上葉の灌流寄与を厳密に算出せず,この症例では区域数法を用います.
補足・解説
  • 2025年ERS / ESTSガイドラインでは,肺癌手術候補者で術前DLCO測定が強く推奨されています.ppoFEV₁とppoDLCOは,60%以上を正常,40〜59%を中等度リスク,40%未満を高リスクに分類しています.本症例のppoFEV₁は約48%であり,手術不能と即断する値ではありませんが,低リスクとはいえず,DLCOと運動能力を含めた総合評価が必要です.
Q2. 本症例の周術期血糖管理について説明してください.
  • メトホルミンは予定手術前から休薬し,少なくとも術当日は投与しません.具体的な最終内服時期は,施設基準に従います.
  • 術前,術中,術後に血糖値を測定し,100〜180 mg/dLを目標に管理します.180 mg/dL以上の高血糖が持続する場合は,短時間作用型インスリンの補正投与または持続静注を行います.インスリン使用時は低血糖と低カリウム血症に注意します.
  • 本症例はメトホルミン単剤で血糖コントロールも良好であるため,一定量の糖液を定型的に持続投与する必要はありません.血糖値,絶食時間,インスリン投与量に応じて糖投与を個別に調整します.
  • 術後は経口摂取が再開し,腎機能,循環動態,酸素化が安定していることを確認してからメトホルミンを再開します.
🔍 追加で聞かれたら
  • 絶食中は血糖値を定期的に測定し,必要に応じてインスリンで管理します.
補足・解説
  • 周術期血糖目標について,ADA 2026は手術前・手術中・手術後を通して100〜180 mg/dLを推奨しています.140〜180 mg/dLは,主として重症・ICU患者に治療を開始した後の目標です.

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