📘【想定問題】右肺全摘術

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症例設定

【患者】

  • 72歳男性.168cm,58kg(BMI20.5)

【現病歴】

  • 3か月前からの労作時呼吸困難と血痰を主訴に受診.胸部CT検査で右肺上葉に8.5cm大の腫瘤を認め,気管支鏡検査で肺腺癌と診断された.腫瘍は右主気管支まで浸潤し,右肺全摘術が予定された.PET-CTでは明らかな遠隔転移を認めなかった.

【既往歴】

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD):20年前に診断
  • 現在GOLD分類Stage II
  • 冠動脈疾患:5年前に右冠動脈に薬剤溶出性ステント留置
  • 高血圧症:15年前から治療中
  • 発作性心房細動:7年前に診断,現在は洞調律維持
  • 2型糖尿病:10年前から治療中

【社会歴】

  • 喫煙歴:20本/日×45年(5年前に禁煙)
  • 飲酒:ビール350ml/日
  • 職業:元建設会社事務職(粉塵曝露歴あり)

【服用中薬剤】

  • アスピリン 100mg 1回/日(術前7日前に中止)
  • アムロジピン 5mg 1回/日
  • テルミサルタン 40mg 1回/日
  • メトホルミン 500mg 2回/日
  • チオトロピウム吸入 1回/日
  • サルメテロール/フルチカゾン配合吸入薬 朝晩2回/日
【主な検査所見バイタルサインなど】

術前バイタルサイン

  • 血圧 148/88 mmHg,脈拍 78回/分・整,体温 36.5℃
  • SpO₂ 94%(室内気),呼吸数 18回/分

血液検査

  • 血算:Hb 12.8 g/dL,Ht 38.4%,WBC 6,800/μL,Plt 22.5万/μL
  • 生化学:TP 6.8 g/dL,Alb 3.6 g/dL,T-Bil 0.8 mg/dL
  • 腎機能:BUN 18 mg/dL,Cr 0.98 mg/dL,eGFR 58 mL/min/1.73m²
  • 電解質:Na 139 mEq/L,K 4.2 mEq/L,Cl 103 mEq/L
  • 血糖:空腹時 128 mg/dL,HbA1c 6.8%
  • 凝固:PT-INR 1.05,APTT 32秒,Fibrinogen 285 mg/dL
  • BNP 78 pg/mL

動脈血ガス分析(室内気)

  • pH 7.40,PaO₂ 68 mmHg,PaCO₂ 42 mmHg,HCO₃⁻ 25 mEq/L,BE 0.5 mEq/L

呼吸機能検査

  • VC 2.50 L(%VC 78%),FEV₁ 1.50 L(%FEV₁ 62%),FEV₁/FVC 60%
  • 予測術後FEV₁(ppo-FEV₁):0.82 L(予測術後%FEV₁ 34%)
  • 肺血流シンチグラフィ:右肺/全肺血流比 = 45/100

心機能評価

  • 安静時12誘導心電図:洞調律,78回/分,左室肥大所見
  • 経胸壁心エコー:左室駆出率 55%,右室機能正常,軽度左室肥大,弁膜症なし
  • 両室拡張能軽度低下,推定肺動脈収縮期圧 38 mmHg
  • 冠動脈造影CT:ステント部位に再狭窄なし,他の冠動脈に有意狭窄なし

その他の検査

  • 胸部X線:右上肺野に腫瘤影,軽度肺気腫所見
  • 胸部CT:右上葉に8.5cm大の腫瘤,右主気管支浸潤あり,縦隔リンパ節腫大あり
  • 気道評価:Mallampati分類 Class II,頸部伸展制限なし,開口3横指
Q1. 本症例の術前評価において,肺切除術の周術期リスクを評価するために重要な検査結果(上記)を挙げ,各検査結果の持つ臨床的意義について説明してください.

肺機能検査

  • 予測術後FEV₁(ppo-FEV₁)0.82L(予測術後%FEV₁ 34%)は高リスクに分類されます.
  • ppo-FEV₁が予測値の40%未満の場合は,術後呼吸器合併症と死亡率が有意に上昇するとされています.
  • 本症例では術後の換気不全のリスクが高く,術後人工呼吸管理や集中治療が必要とされる可能性があります.

肺血流シンチグラフィ

  • 本患者では右肺/全肺血流比=45/100です.
  • 肺全摘後は肺血管床の急激な減少により肺高血圧症発症リスクが高くなります.
  • 残存肺(左肺)への血流増加による肺うっ血と肺水腫のリスク評価や術後の経時的な検査が重要です.

心機能検査

  • 左室駆出率は55%と比較的保たれていますが,推定肺動脈収縮期圧38mmHgとやや上昇しており,両室拡張能低下と合わせて右心系への負荷に対する代償能が低下していると考えられます.
  • 肺動脈圧≧35mmHgは術後肺水腫や右心不全の独立危険因子であるとされています.
Q2. 本症例の麻酔に関して,どのようなモニタリングが必要と考えられますか?理由とともに説明してください(標準モニターは除く).

観血的動脈圧測定

  • 肺血管床減少による血行動態変動,術中の大量出血リスク,術後の呼吸・循環動態の急変に対応するため必要.分離肺換気中や全摘後の酸素化・換気状態の評価も.

中心静脈圧モニタリング:

  • 輸液管理,術後肺水腫予防・評価に必要.
  • 肺血管床減少による右心負荷の評価にも有用.
  • ppo-FEV₁が極めて低く,肺高血圧症と右心不全リスクがあるため,肺動脈圧の直接モニタリングが推奨される場合もあります.

経食道心エコー(TEE):

  • 心室機能評価,肺動脈圧推定,循環血液量評価に有用.
  • 特に一側肺換気時や全摘後の右心機能評価,

BIS:

  • TIVAで行う場合は使用.

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