📘 先天性食道閉鎖(気管食道瘻)【読んで学ぶシリーズ】

📘 専門医試験対策目次blognote

内容

はじめに(ふたりの会話)

まっすー

専門医試験でも出てましたよね〜食道閉鎖

さらりーまん

出てたね.瘻孔の部位で呼吸管理が変わったりするから試験にも出しやすいよね.

まっすー

ややこいです

さらりーまん

でも,どの施設でも必ず経験できるわけではないから,経験できない人は経験できないままかもね.じゃぁ基本から.分類の名前とどのタイプが一番多い?

まっすー

Gross分類で,タイプとしてはA〜Eの5つ.C型が一番多くて全体の8〜9割だったと思います.上部食道が盲端になってて,下部食道が気管と交通してるんですよね.

さらりーまん

そう.同じCでも孔の位置はずれがいろいろあるけどね.瘻孔を持たない純粋型(A型)や,上部食道だけ気管とつながるB型,上下両方につながるD型,食道の連続はあるけどH型瘻孔だけあるE型なんかがあるね.筆記試験はともかく,口頭試問ではまれな型よりも普通にCが出ると思うけどね.

まっすー

別のが出たら責任とってくださいね.
診断は出生後すぐですよね?口や鼻から泡沫状の唾液が出てきて哺乳がうまくできない,とか.出生直後から泡みたいによだれが出てきたり,ミルクを飲ませても嚥下できず吐いたり.唾液が気管に入ったり、胃液が瘻孔を通じて気道に逆流したりして誤嚥性肺炎を起こすこともあるんですよね.

さらりーまん

そうそう.口からチューブが胃に入らないことで確定するね.産科からも“胎児期に羊水過多だった”という情報があれば怪しい.出生後は6~8Frくらいのカテーテルを鼻や口から挿入してみて,レントゲンで食道の盲端で先がくるっと反転する『coil-upサイン』が見える​.
あと,胸部レントゲンで胃にガスがあるかないかで瘻孔の有無も推測できるね.胃に空気が見えれば下部食道が気管とつながっているタイプ(瘻孔あり)とわかるし,全くガスが無ければ純粋型(瘻孔なし)の可能性が高い.診断がついたら初期対応は?

まっすー

ポイントは誤嚥予防と全身状態の管理ですよね.まず哺乳は中止,食道上部の盲端にカテーテルを留置して持続的に吸引して溜まる唾液をどんどん吸い出します.体位は少し頭を高く(30〜40°挙上)して,右側を下にしたうつ伏せ位(腹臥位)にします.こうすることと胃内容が瘻孔を通って気道に逆流しにくくなります.

さらりーまん

意外と知ってるやん.その後は新生児期に早期手術を計画する.呼吸状態にもよるけど,診断がついたらできるだけ早く手術してあげたい疾患だ​ね.もし極端に未熟児だったり重度の肺炎があったり他の奇形の影響で状態が悪かったりしたら,無理せず一時的に胃瘻を作って栄養を確保しておいて,少し落ち着いてから根治手術を行う場合もあるけどね(二期的手術).

まっすー

手術は胸を開けて瘻孔を閉じて食道をつなぐ…でしたっけ.

さらりーまん

そう.基本は右胸の開胸(最近は胸腔鏡下手術も施設によってはやるけど)で,まず気管と食道の間の瘻孔をしっかり二カ所で結紮して,上の食道と下の食道の端どうしを吻合する.ほとんどの症例はこれで一期的に吻合できて終了だけど,もし距離が長すぎて届かない場合は二期的手術になる​ね.その場合は成長を待ってから食道同士をつなぐか,場合によっては胃や大腸を用いた食道再建を検討するんだ.

まっすー

胃瘻は術前に作る場合があるって聞きましたけど…C型でもまず胃瘻を造設してから全身麻酔導入することもあるんですか?

さらりーまん

そうだね.施設や状態にもよるけど,C型でも麻酔導入前に局所麻酔下で胃瘻を作ることもある​.特に胃がパンパンに張ってると換気もうまくいかないしね.胃瘻でガス抜きしておくと麻酔管理が楽になる.

まっすー

麻酔管理のキモはやっぱり挿管と術中の換気ですよね

さらりーまん

そうそう.挿管チューブの位置と換気方法.瘻孔に空気を送ってしまうと胃が膨れちゃうし,換気もできなくなる.
まずは麻酔導入だけど,マスク換気でバンバン陽圧かけると瘻孔から空気が漏れてしまうから,できれば自発呼吸を温存して穏やかに導入するか,必要最小限の圧で換気する.筋弛緩は挿管チューブ先端が適切な位置に入ってから効かせる.

まっすー

挿管はできるだけ瘻孔より先にチューブ先端を進めるんですよね.気管支ファイバーで確認しながら,チューブが瘻孔の開口部を越えて気管分岐部のすぐ上あたりに位置するように.もし瘻孔が気管分岐部付近とか、主気管支のすぐ近くにあるなら片肺挿管も検討するって読んだことがあります.右より左の気管支挿管にする,とか​

さらりーまん

そう.右胸開胸の手術だから左の主気管支に挿管して左肺だけ換気するのも一つの手​.でも新生児だから片肺換気になると肺高血圧になって卵円孔で右左シャントが起きたりして酸素化が悪化するリスクもある.だからなるべく両肺換気でいきたいけど,どうしても瘻孔との位置関係で難しければ一時的に左肺のみで換気することもあるね.

まっすー

瘻孔が大きいと,挿管時にチューブがそっちに迷入するリスクもありますよね?

さらりーまん

ありうるね.だからチューブが声門を通過したら,ファイバーで位置を確認しつつ進める.あと,Fogartyカテーテルを瘻孔に挿入して瘻孔をブロックするって方法も報告されている​.これは外科医と相談だけど,胃瘻がある場合,一時的にカテーテルで瘻孔を塞いでおけば,胃へのガス流入を防いで換気が楽になる場合がある.また,挿管後に細いFogartyを入れて塞いだり,ガイドワイヤーを瘻孔から胃内に挿入,それを通して脱気する方法なども報告されてるよ.

まっすー

換気自体の注意は他には?

さらりーまん

さっきもちょっと言ったけど,瘻孔閉鎖前まではできるだけ低い気道内圧で換気するのが鉄則​.圧が高いとすぐ瘻孔からリークするからね.できればピーク圧15 cmH₂O以下とか,小さな換気量で頻回換気するなど工夫してもいいかもね.手術開始後は早めに外科が瘻孔を閉じてくれるこおが多いから,それまで我慢.瘻孔が閉じちゃえば通常の陽圧換気ができるようになるよ.

まっすー

術中のモニタリングで何か追加すべきものはありますか?一応動脈ラインとかとったほうがいいですか?

さらりーまん

全身状態次第だけど,手術時間もそれほど長くないし合併心奇形とかなければ無しでやる施設もあるよ.ただ,心疾患があったり血圧不安定なら動脈ラインをとることもあるね.あと新生児では体温も下がりやすいから保温はしっかりと.

まっすー

SpO₂プローブはpre-ductalとpost-ductalで2箇所つけておくと,肺高血圧でのシャントが分かっていいですよね.

さらりーまん

それもいいね.
無事に瘻孔閉鎖と食道吻合が終わったら,術後は吻合部への負荷を考えて,術あまり暴れさせたくないし呼吸も安静に保ちたいね.施設によっては吻合部の緊張が強いケースでは,数日間深めの鎮静で,場合によっては筋弛緩をかけて人工呼吸管理することもあるみたいだね.

まっすー

そうなんですね

さらりーまん

かなり緊張が強い場合に限るけどね.頸を少し屈曲位にして吻合部の張力を緩和したり,鎮静で動かさないように管理したりする​.普通は状態が安定してれば早期に覚醒させて抜管するけど,術後数日はNICUでしっかり管理が必要.無気肺や肺炎,気胸なんかの肺合併症も起こりことがあるし,吻合部からのリーク(縫合不全)もありうるからね.

まっすー

縫合不全が起きても胸腔ドレーンで軽快することが多いみたいですね.ただ瘻孔が再発してしまったらまた治療が必要になるんですよね.術後の疼痛管理はどうします?

さらりーまん

最近は超音波ガイド下の傍脊椎ブロックとかもあるけど,新生児だと術後は鎮静も兼ねてフェンタニル(とミダゾラム)の持続投与をすることもあるね.痛みと興奮で泣いて暴れると吻合部にストレスがかかるから.

まっすー

いろいろ話すとやっぱ大変そう.

さらりーまん

ま,今度症例があったらがんばって

基本的な病態と分類

 先天性食道閉鎖症は,胎生5〜7週頃の気管と食道の分離過程の異常により食道の連続性が途絶えてしまう先天奇形で,多くの場合は気管との間に異常な交通(気管食道瘻, TEF)を伴います.出生約3,000〜5,000人に1人の頻度で発生し​,しばしば他の先天異常(心疾患,鎖肛,腎・骨異常など:VACTERL連合やCHARGE症候群)を合併します.
 臨床的・外科的にはGross分類と呼ばれる以下の5つの型に分類されます​.​どの型においても誤嚥の予防が重要です.

【参照】先天性食道閉鎖のGross分類(Google画像検索.

🔷 A型(純粋食道閉鎖型):5〜10%

 気管との交通(瘻孔)を伴わず、上部食道と下部食道が途切れた状態​です.上下食道の間隔が長いことが多く,新生児期に一期的吻合が困難な場合も多いです.胃瘻を造設し,経管栄養で成長を待ち,後日根治手術(食道吻合術や胃・腸を用いた再建術)を行います​. 

🔷 B型(近位瘻孔型):極稀(1%未満)

 上部食道が気管と交通し,下部食道が盲端となる型です.唾液が近位瘻孔を通じて気道に流入しやすいため,出生直後から呼吸状態が悪化します.胃瘻造設と並行して上部食道と気管の異常交通を早急に切離する必要があります.
 A型同様に上下食道の距離が長い例が多く,遅れての食道再建を要することがあります.

🔷 C型(遠位瘻孔型):約85〜90%(最多.ほとんどこれ)

 上部食道が盲端,下部食道が気管と交通する典型的な食道閉鎖症で,新生児食道閉鎖症のほとんどを占めます.上下食道間の距離が症例によって異なり,距離が短ければ出生早期(生後1〜2日以内)に気管食道瘻の結紮と食道端々吻合による根治術が行われます.長ければ前述の通り,先に胃瘻を増設し二期的に根治術を行います.

🔷 D型(両側瘻孔型):極稀(1%未満)

 上部食道・下部食道の双方が気管と交通しています.やはり呼吸状態が悪化しやすく,基本的にはB型に準じた対応(上部瘻孔の早期閉鎖、胃瘻造設、遅期再建)が行われます.

🔷 E型(H型瘻孔):約5%

 食道は連続しており食道閉鎖は伴わないませんが,気管と食道の間に瘻孔が存在するタイプです(いわゆるH型瘻孔)​.新生児期に見つかることは少なく(盲端ではないため一見分からない),哺乳時の嚥下障害や反復する気道感染で乳児期以降に発見されることがあります​.
 治療は原則的に瘻孔の外科的閉鎖で,頸部アプローチで瘻孔を結紮・切離します​.なおH型瘻孔は再発しやすいことが知られています​.

まっすー

とりあえず色んな型があることを知った前提で,Cを覚えておけばいいですね

さらりーまん

そうだね.麻酔科でC型以外について細かく何型がこうこう,と聞かれることはないだろうしね.ただし,BとDで誤嚥が早期に起きて呼吸状態が悪くなるということは知っててもいいね.

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