🤔 産科出血で使うショックインデックス(SI)とは?|計算式と「1・1.5」の意味

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♦️ はじめに

「SIが1を超えてきました」

産科出血への対応指針に出てくる,ショックインデックス(Shock Index:SI).

心拍数と血圧から計算でき,出血時の循環評価に用いられる指標です.[1]

ただ,計算できることと,その数字を使えることは少し違います.

「SIが1なら,何mLくらい出血している?」

「1未満なら,まだ大丈夫?」

今回は,SIの計算式と,産科で出てくる「1・1.5」という数字の意味を整理します.

※SI自体は産科だけに限らず使いますが,産科の場合は数値の解釈が通常と異なります


🔹 SIの計算式は?

計算式はシンプルです😊.

SI=心拍数(回/分)÷収縮期血圧(mmHg)

分母は収縮期血圧です.平均血圧や拡張期血圧ではありません.[1]

例えば,計算例としては次のようになります.

心拍数収縮期血圧SI
80/分120 mmHg約0.67
100/分100 mmHg1.0
120/分80 mmHg1.5

心拍数と収縮期血圧の数値が同じならSIは1.心拍数の数値が上回れば,SIも1を超えるので,目安はつけやすいですね.ただし,上の表は計算例であり,「0.67なら安全」という判定表ではありません.


🔹 産科で「SI 1」「SI 1.5」が出てくる理由

2022年の「産科危機的出血への対応指針」では,産科出血の経過でSIが1に達した場合,輸血準備を進め,一次施設では高次施設への搬送も考慮することが示されています.[1]

つまり,SI 1は,出血への対応や連携を強める重要な目安です.

さらに,SI 1.5以上は,「産科危機的出血」を宣言する指標の一つです.宣言後は,指揮系統のもとで輸血・止血などの対応を進めます.[1]

ただし,SI 1.5だけが宣言の条件ではありません.持続出血に伴う臓器灌流の異常や,凝固障害に関する別の条件もあります.SIが1.5になるまで,危機的出血ではないと判断してよいわけではありません.[1]


🔹 SIから,出血量はどのくらいと推定できる?

同じ2022年指針には,妊婦の推定出血量の目安として,次の記載があります.[1]あくまで概算です.SIから出血量を逆算するための換算表ではありません.

  • SI 1 : 約 1,500 mL
  • SI 2 : 約 2.500 mL

ここは試験でも覚えておきたい数字ですが,SIを使えば出血量が正確に測れる,という意味ではありません.

そもそもSIの計算式に入っているのは,心拍数と収縮期血圧です.出血量そのものを計測しているわけではありません

麻酔薬や循環作動薬を使用した場合は,これらの数値に影響を与えるため,「SIが1だから,実際の出血量も必ず1,500 mL」と確定させたり,SIだけから輸血量を決めたりせず,測定した出血量と患者さんの状態や投薬状況を合わせて評価します.[1,2]


🔹 帝王切開の「1,000 mL・2,000 mL」とは別の話

ここは少し混ざりやすいところです.

先ほどの「SI 1なら約1,500 mL」は,SIから推測する出血量の目安でした.

一方,2025年の医療安全提言第21号では,帝王切開で出血量1,000 mL以上に持続出血を伴う場合を,初期対応を強化する警告ラインとして扱っています.[2]

また,帝王切開で出血量2,000 mL以上,またはSI 1以上となり,さらに出血が持続する場合には,集学的治療へ移行するとしています.これは,複数の診療科や輸血部門などと連携して対応を引き上げる,という話です.[2]

つまり,

「SIから推定される出血量」と,「対応を引き上げるための出血量基準」は,別のものです.

帝王切開1,000 mLとSI 1,帝王切開2,000 mLとSI 1.5が,それぞれ一対一に対応するわけではありません.

なお,2025年提言は死亡事例分析に基づく再発防止提言であり,2022年の学会指針をそのまま改訂した文書ではありません.[2]


🔹 SIが1未満なら,安心してよい?

SIが1未満という理由だけでは,安心できません.

例えば,妊娠高血圧症候群で元の血圧が高い場合には,出血していてもSIが1以上になりにくいことがあります.子宮内反症などで迷走神経反射による徐脈を伴う場合も,SIだけでは危険を捉えにくくなります.2025年提言では,こうした限界が注意点として示されています.[2]

また,2022年指針は,外から見える出血が少なくても,腹腔内や後腹膜に出血している場合があることを指摘しています.見えている出血量だけでも,SIだけでも判断しないことが必要です.[1]

出血の持続と増加速度,血圧・心拍数の推移,意識,末梢循環,尿量,凝固所見などと合わせて評価します.[1,2]


🔹 反対に,SIが上がれば必ず出血のせい?

これも,SIだけでは決まりません.

WHOの2025年ガイドラインは,帝王切開中には出血量の評価が難しいことに加えて,臨床所見の変化が麻酔に由来する場合があると指摘しています.[3](NCBI)

したがって,術中のSI上昇を見たら,出血状況とともに,麻酔や投与薬剤,実施中の循環補助の内容なども確認します.ただし,「麻酔の影響だろう」と決めつけて出血の評価を省くのも違います.[3](NCBI)

SIは,原因を確定する答えではなく,元の心拍数・血圧と,そのときの状況を見直すための情報として使います.

SIが高い=必ず出血性ショック,SIが低い=全く出血なし,のどちらでもないことは留意しておきましょう😊☝️


🔹 数字にまとめても,元の情報は捨てない

計算上,心拍数100/分・収縮期血圧100 mmHgでも,心拍数80/分・収縮期血圧80 mmHgでも,SIは同じ1です.

でも,元の血圧も心拍数も違います.

「SIは1です」とまとめるのは便利ですが,それだけでは患者さんの状態を十分に伝えられません.心拍数と血圧の実測値,その変化,出血が続いているかも一緒に確認・共有します.経時的なバイタルサインと出血量の評価は,2025年提言でも重視されています.[2]


📖 症例では,どう判断する?

SIの意味を知ったうえで,実際に出血が続く患者さんを前にしたら,いつ対応を引き上げるのか.麻酔法や輸血手順は,どの条件で変えるのか.

「麻酔の分岐点」では,次の記事で症例を通して考えています.

帝王切開中の出血,どこで「危機管理」へ切り替える?


♦️ まとめ

🔑 Key Points

  • SIは,心拍数÷収縮期血圧で計算します.
  • 産科では,SI 1は対応を強める目安,SI 1.5は産科危機的出血宣言の判断材料の一つとして重要です.ただし,出血量の正確な換算式でも,単独で安全を保証する数字でもありません.[1,2]
  • 「SIが1未満だから,もう少し待てる」ではなく,出血が続いていないか,循環が悪化していないかを一緒に見る.数字を覚えることと,その数字まで待つことは別です.
  • 計算は簡単なので,その次の読み方まで覚えておきたいところですね😊

📚 References & Further reading

  • 日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本周産期・新生児医学会,日本麻酔科学会,日本輸血・細胞治療学会,日本IVR学会.
  • 産科危機的出血への対応指針2022.2022年1月改訂.pp.1–2.
    日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター.
  • 医療事故の再発防止に向けた提言 第21号:産科危機的出血に係る妊産婦死亡事例の分析.2025年10月.提言1–3,コラム2.
  • World Health Organization. Consolidated guidelines for the prevention, diagnosis and treatment of postpartum haemorrhage. 2025. Recommendations 21–22 and remarks. (NCBI)

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