🤔 術中にEtCO₂が急低下したら?〜換気と循環から考えるカプノグラムの読み方

♦️ はじめに
手術中,EtCO₂の数字が急に下がった😫.
実臨床でも試験でも「空気塞栓?肺塞栓?」が頭をよぎることがあります.
ただ,EtCO₂が下がる理由はそれだけではありません.カプノグラムは呼吸のモニターですが,肺へ運ばれてくる血液の変化も値に表れます.
今回は,EtCO₂が急低下したときに,その数字をどう読むかを簡単に整理します.
♦️ EtCO₂は,動脈血のCO₂をそのまま表示しているわけではない
EtCO₂は,呼気の終わりに測定される二酸化炭素分圧です.この値は,換気の状態に加えて,血液が肺へ運んでくるCO₂の量や,肺内の血流の分布にも左右されます.測定系(回路・サンプリング)の状態にも影響されます.
心拍出量が減ると,肺へ流れる血液が減り,肺に運ばれるCO₂も減ります.すると,換気が同じでもEtCO₂が下がることがあります.換気条件を一定にした手術患者でも,心拍出量の低下とEtCO₂の低下が関連していました.[Shibutaniら,1994]
この場合は換気を変えていないので,換気量の増加が原因ではありません.EtCO₂の値だけを見て,過換気になった,あるいはPaCO₂が下がったとは判断できません.
♦️ 数字だけでなく,波形と周囲の情報を見る
EtCO₂が急に変わったら,まずカプノグラムの波形を見ます.波形そのものが消えたのか,形を保ったまま値が下がったのか.
波形が消失した場合は,患者さんの換気と循環をすぐに評価しながら,チューブ,回路の接続,サンプリング系を点検します(回路が外れていれば当然何も出ません😅). ただし,機械の問題と決めつけて,患者さんの状態の確認を後回しにしてはいけません.
波形が残っている場合も,実測換気量,気道内圧,チューブや回路,サンプリング系に変化がないか見直します.
換気条件や測定系に明らかな変化がなく,血圧も下がっているなら,肺へ届く血流が減っていないかを疑います.出血による循環血液量の減少,心拍出量の低下,肺血栓塞栓症や空気・ガス塞栓などを考えます.直前にどんな手術操作があったかも,見逃してはいけません(特に坐位や頭高位の脳外科手術).
たとえば,人工呼吸中の重症肺血栓塞栓症患者12例を調べた研究では,血栓溶解療法中に再塞栓を生じた2例でEtCO₂が突然低下したと報告されています.[Wiegandら,2000]
♦️ PaCO₂との「差」が広がったら?
動脈血ガスのPaCO₂とEtCO₂は,ふだんから完全には一致しません(通常は相関して動くが,数mmHgの差がある).両者の差が広がったときは,換気されているのに血流が少ない部分がないか,換気と血流のバランスを考える手がかりになります.
成人12例の研究では,薬剤を用いて意図的に血圧を下げると,PaCO₂も低下しましたが,EtCO₂の低下のほうが大きく,両者の差が広がりました.ただし,出血性ショックを調べた研究ではありません.また,この差だけで塞栓症を確定できるわけではありません.[Aliら,2002]
血液ガスと比較するときは,採血した時点と,EtCO₂を読んだ時点も揃えておきたいところです(血ガスの紙や麻酔記録データにメモしておきましょう).急変前のPaCO₂と急変後のEtCO₂を並べても,その差を正しく解釈できません.
♦️ まとめ
EtCO₂の急低下は,換気・測定系の異常でも,循環や肺血流の変化でも起こり得ます.波形と患者さんの状態を一緒に見て,PaCO₂との差や直前の出来事も手がかりにします.数字だけで原因を一つに決めず,何が変わったのかを確かめます.
カプノメトリ・カプノグラムなどの用語は,こちらの記事で整理しています.
症例では,EtCO₂が下がる前から低血圧が続いていたら,いつ別の原因も探し始めるか. その判断は「麻酔の分岐点」で扱っています.👇

📚 References & Further reading
- Shibutani K, et al. Do changes in end-tidal PCO₂ quantitatively reflect changes in cardiac output? Anesth Analg. 1994;79:829–833.
- Wiegand UK, et al. Effectiveness of end-tidal carbon dioxide tension for monitoring thrombolytic therapy in acute pulmonary embolism. Crit Care Med. 2000;28:3588–3592.
- Ali SS, et al. The relationship between end tidal carbon dioxide and arterial carbon dioxide during controlled hypotensive anaesthesia. Med Princ Pract. 2002;11:35–37.