無痛分娩の母体評価
Q. 無痛分娩前の母体評価に関して,正しいものを全て選べ.
正解:① ③ ④
① 無痛分娩では緊急帝王切開に移行する可能性があるため,気道評価は必須である. → 正しい
無痛分娩中の異常で帝王切開に移行することもあるため,気道評価は必須です!.また,妊婦は非妊娠時に比べてMallampati分類が1〜2段階上がる場合があり,特に妊娠高血圧症候群では喉頭や咽頭の粘膜に浮腫が生じていることがあります.
② 妊娠高血圧症候群患者では,血小板数5万/μL以上あれば硬膜外麻酔は安全に施行できる. → 誤り
最近の国際コンセンサスでは,血小板数が7万/μL以上であれば硬膜外麻酔後の硬膜外血腫のリスクは極めて低いとされています.5万/μL未満の重度の血小板減少では硬膜外麻酔は避けるべきです.
③ 健康な産婦に対しては,ASAガイドラインではルーチンの血液検査が必須とはされていない. → 正しい
ASAのガイドラインでは,健康な産婦に対してはルーチンの検査(血液検査など)を必須とせず,リスクに応じて個別に判断することが推奨されています.
④ 妊娠高血圧症候群では,硬膜外麻酔により疼痛を和らげ血圧上昇を抑制するメリットがある. → 正しい
重度の高血圧妊婦では陣痛や痛みによりさらに血圧が上昇し脳出血の危険があります.硬膜外無痛分娩により痛みが緩和されると血圧上昇が抑制され安定する利点があります.
⑤ 無痛分娩中は分娩室で行うため,モニタリングは省略可能である. → 誤り
無痛分娩でもモニタリングは必須です.硬膜外麻酔を開始する際に心電計やパルスオキシメーターを装着し,局所麻酔薬注入後は頻回に血圧測定を行い母体のバイタルを観察します.無痛分娩だからといってモニタを省略するのはNGです!
Q. 無痛分娩と帝王切開の母体評価の比較に関して,正しいものを全て選べ.
正解:① ④
① 無痛分娩では適度な清澄水(お茶,スポーツドリンク等含む)の摂取は容認されることが多い. → 正しい
無痛分娩では適度な清澄水(お茶,スポーツドリンク等含む)の摂取は容認されることが多いです.帝王切開では通常術前6~8時間の固形物摂取禁止・2時間前からの飲水禁止が行われます.
② 無痛分娩では手術ではなく痛みの緩和が目的のため,静脈ルート確保は任意である. → 誤り
無痛分娩開始前には確実な静脈ルートの確保を行う必要があります.多くの無痛分娩マニュアルで「硬膜外鎮痛開始前に確実に点滴ルートを取り,必要に応じて輸液を開始しておく」と明記されています.
③ 帝王切開では一定の麻酔レベル・範囲(一般に胸髄レベルまでの十分な麻酔)を短時間で得る必要があるが,無痛分娩ではより広範囲の麻酔効果が必要である. → 誤り
無痛分娩では必要最小限の麻酔効果で陣痛の痛みを和らげつつ,分娩の進行に合わせて効果を調節する柔軟性が求められます.
④ 高リスク妊娠(重症妊娠高血圧や多胎など)や麻酔リスク(気道確保困難の可能性,肥満など)がある場合は,早めに硬膜外カテーテルを留置することも検討される. → 正しい
このような症例では,帝王切開になった際に全身麻酔を回避できるよう,早めに硬膜外カテーテルを留置することも検討されます.
⑤ 無痛分娩では分娩後の出血リスクが高いため,ルーチンで輸血準備をすることが推奨されている. → 誤り
無痛分娩では通常分娩に準じた出血(経膣分娩の平均出血量は数百mL程度)のため,リスクが高くない限りルーチンで輸血準備をする必要はありません.一方で帝王切開では,胎盤異常(前置胎盤や癒着胎盤),多胎妊娠,巨大児や子宮筋腫合併など,分娩時出血量が増えるリスクがある場合には,事前に交差適合試験を行い血液製剤を確保しておきます.
Q. 妊娠高血圧症候群患者の無痛分娩に関して,正しいものを全て選べ.
正解:② ③ ⑤
① 妊娠高血圧症候群患者では,収縮期血圧140mmHg未満を降圧目標とする. → 誤り
妊娠高血圧症候群患者では,高血圧は収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上を治療開始の基準とし,降圧目標は140〜160/90〜110mmHg程度です.これより低くすると子宮胎盤血流が低下する可能性があるため注意が必要になります.
② HELLP症候群が疑う所見がある場合には,硬膜外穿刺前に血小板数の確認が必須である. → 正しい
妊娠高血圧症候群,特にHELLP症候群(溶血・肝酵素上昇・血小板減少)発症リスクがある場合は血小板数・肝機能・凝固系の検査が特に重要です.特に血小板数は硬膜外麻酔施行の可否を左右するため,急激な減少が見られる場合は禁忌となり得ます.
③ 妊娠高血圧腎症で腎機能低下があっても,硬膜外麻酔での管理であれば薬物代謝・排泄の問題はほとんど生じない. → 正しい
妊娠高血圧腎症と呼ばれるように,重症例では腎機能低下(尿量減少や血中クレアチニン上昇)が見られます.腎機能低下時は一部麻酔薬の代謝・排泄遅延も考えられますが,硬膜外麻酔薬で行うことができればほとんど問題にはなりません.
④ 妊娠高血圧症候群患者では,硬膜外麻酔による交感神経遮断で急激な血圧上昇が生じる可能性があるため,降圧薬の準備が必要である. → 誤り
妊娠高血圧症候群患者では,硬膜外麻酔の交感神経遮断により,急激な血圧低下が生じる可能性があります,陣痛や痛みによる血圧上昇時の降圧薬の準備も必要ですが,昇圧薬の準備も必要です(両方必要).
⑤ コントロールが比較的良好な妊娠高血圧症候群患者の硬膜外麻酔においては,入院時に10万/μL以上あった血小板が72時間以内に急激に減少することはまれである. → 正しい
エビデンスでは,入院時に10万/μL以上あった血小板が72時間以内に10万未満に急降下するケースは稀とされています.しかし,HELLP症候群の患者では急激な低下が起こり得るため,HELLP症候群を疑う患者では6時間毎に血小板を再検するなど,頻回な血小板数のモニタリングも推奨されています.
Q. 無痛分娩の国際的ガイドラインや文献に関して,正しいものを全て選べ.
正解:② ③ ④
① ASAのガイドラインでは,無痛分娩前に全ての妊婦に対してルーチンの交差適合試験を行うことが推奨されている. → 誤り
ASAガイドラインでは,健康で出血リスクの低い妊婦にルーチンで交差適合試験を行う必要はないとされています.ただし,胎盤異常など出血が予想される場合や施設の方針に応じて行うべきとされています.
② SOAPや国際コンセンサスによれば,血小板数が7万/μL以上あれば産科麻酔における硬膜外血腫のリスクは極めて低いとされている. → 正しい
2021年にSOAPやASRA(区域麻酔学会)などから合同で発表されています.産科患者の血小板減少時の硬膜外麻酔に関するコンセンサスによれば,血小板数が7万/μL以上あれば,産科麻酔における硬膜外血腫のリスクは極めて低いことが示唆されています.でもなんか,8万〜10万以上は欲しいな・・.
③ 日本産科麻酔学会では,無痛分娩を行う施設において麻酔科医または研修を修了した産科医が迅速に対応できることが強調されている. → 正しい
日本産科麻酔学会や日本麻酔科学会の提言では,無痛分娩を行う施設では麻酔科医または研修を修了した産科医が迅速に対応できること,十分なスタッフ数で管理することが強調されています.
④ COVID-19感染妊婦の帝王切開では,全身麻酔より区域麻酔(脊麻やCSE)を優先することが国際的に提言されている. → 正しい
COVID-19下の推奨において,症状のある感染妊婦の帝王切開は全身麻酔よりも区域麻酔(脊麻やCSE)を優先することが提言されています.
⑤ 日本麻酔科学会から産科麻酔に特化したガイドラインが近年発表されている. → 誤り
日本産科麻酔学会の「周産期・産科麻酔教育ガイドライン」(2023年)はありますが,今のところ,日本麻酔科学会からは特化したものは出ていません.
Q. 無痛分娩前の母体評価と帝王切開前の母体評価の違いに関して,正しいものを全て選べ.
正解:① ③ ④
① 無痛分娩では麻酔科医やスタッフの待機体制が必要であり,24時間いつでも対応できるオンコール体制が不可欠である. → 正しい
無痛分娩では麻酔科医やスタッフの待機体制が整っている必要があります.無痛分娩は緊急帝王切開と同様,24時間いつでも発生し得るため,適切なオンコール体制の整備が不可欠です.
② 高リスク妊娠(重症妊娠高血圧や多胎など)では,硬膜外麻酔は避け全身麻酔による帝王切開が基本となる. → 誤り
妊娠高血圧の妊婦に無痛分娩を提供すること自体は,痛みによる血圧上昇を抑え母体・胎児に有益であるため適応があれば積極的に行うべきとされています.ASAガイドラインや国内の見解でも,重症高血圧妊婦で明らかな凝固異常がなければ早期に硬膜外鎮痛を開始し,万一の帝王切開にも対応できるようにしておくことが推奨されています.
③ 無痛分娩では硬膜外麻酔手技に伴う出血リスク(硬膜外血腫)への備えが重要であるのに対し,帝王切開では術中出血への備えが重要である. → 正しい
無痛分娩では硬膜外麻酔手技に伴う出血リスク(硬膜外血腫)への備えが重要で(出血量は通常の分娩と同様のため),帝王切開では術中出血への備えが重要である(産科危機的出血).もっとも,リスクが高くない患者の無痛分娩で硬膜外血腫を生じることはほとんどありません.
④ 無痛分娩中に麻酔域は分娩の進行に合わせて柔軟に調節する必要があるが,帝王切開麻酔では一定の麻酔レベル・範囲を短時間で得る必要がある. → 正しい
記載の通り.帝王切開ではT4〜5が必要ですが,無痛分娩の場合は進行に合わせてL1〜S領域が求められます.
⑤ 帝王切開と無痛分娩では妊婦の気道評価の重要性に違いがある. → 誤り
無痛分娩でも帝王切開でも気道評価は同様に重要です.無痛分娩中の異常で帝王切開に移行することもあるため,気道評価は必須です.妊婦は非妊娠時に比べて気道確保困難のリスクが上昇します.
以下追加していきます.