☢️ 確定的影響,確率的影響・・どう違う?

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はじめに

 放射線防護について読んでいると必ず目にする言葉,確率的影響と確定的影響.何となく想像はつくようできちんと説明しろと言われれば曖昧で,試験の問題はとりあえず解けるようになったけど,という人をよく見かけます😅

この記事では以下の用語について簡単に説明していきます.

  • 確定的影響(1度のダメージ量がポイント)
  • 確率的影響(一定期間の累積のダメージ量がポイント)
  • 実効線量(確率的影響: 癌化リスクの指標)
  • 等価線量(確率的影響: 癌化リスクの指標)

♦️ 確定的影響(少々なら低リスク)

 人体が放射線にさらされると細胞の奥深くのDNAが傷つけられてしまいます.でもさすが人体,少々の傷であればすぐに修復するか,傷んだ細胞を廃棄します(細胞死プログラムが働きます.アポトーシスと呼ばれます).

 でも少々でなく強い一撃が加わると修復が追いつかず,多くの細胞が死んでしまい,組織の損傷や臓器の障害が発生する可能性があります.例えば生殖器が障害を受ければ不妊の原因になりますし,水晶体であれば白内障の原因になり得ます.皮膚障害や造血障害なども代表的です.

 この許容範囲とそれを超える範囲の境界を『閾値(いきち,または,しきいち)』と呼びます.閾値を超えた場合にはその臓器に応じた障害が出ることが判明しているため,『確定的影響』と呼びます.

 また,その組織にどれだけの放射線が吸収されたかにより障害が生じるため,吸収線量の単位である Gy(グレイ) を用います.

 最後に例えると,子どもに何度叩かれてもダメージはほとんどありませんが(傷ついてもすぐ回復),ボクサーの強力なパンチを1発でも受けると大ダメージ,という感じでしょうか.

♦️ 確率的影響(累積でリスク上昇)

 先ほど,DNAが傷つけられても修復する機能があるとお話ししましたが,修復過程で時折部分的に失敗し,突然変異が生じることがあります.この突然変異が,将来的に癌の原因となったり,子孫への遺伝的な影響として現れる可能性 があります.

 不完全な修復があったからといって,それがすぐに癌になるわけではありませんが,被曝線量が累積することでそのリスクが増加します.ここで大事なポイントは,確率的影響には「閾値値がない(no threshold)」 とされていることです.つまり「少しでも被曝すればリスクはゼロではない」と考えられます.

 このため,これを『確率的影響(発症するかどうかは確率によるため)』と呼びます.つまり,確率的影響=癌化のリスクと把握しましょう.

 例えるなら,黒髭危機一髪のようなゲームで,ゲームが進むほど黒髭船長が飛び出す確率が上昇していくイメージです.しばらくは何事も起こらないかもしれませんが,ゲームが進むにつれて飛び出すリスクが高まるように,被曝が累積するほど癌になるリスクも高まっていきます.

♦️ 等価線量と実行線量(単位はSv)

 等価線量と実効線量は,上記の『確率的影響』を推定するために用いられます.一度に受けた量がどれくらいかではなく,ある期間にどれだけの放射線被曝があったかを加算していき,リスクを評価します(被曝量が増加していくとリスクも上がっていくのでしたね).

  • 等価線量 → 「各臓器・組織ごとの被曝量」
  • 実効線量 → 「全身全体のリスクを示す指標」

 具体的には,各臓器の被曝量(等価線量,単位:Sv)に,組織ごとに定められた「組織荷重係数(放射線による組織の損傷リスク)」を掛け算して,それを全部足したものが実効線量です(全ての係数を加算すると1.0になるように設定されています).

 なぜ組織ごとに係数が異なっているのかというと,放射線に影響を受けやすい組織とそうでない組織があるからです.例えば皮膚は放射線の影響を受けにくいですが,骨髄などは受けやすい組織です.

 職業被曝においては別記事でも述べたように,等価線量と実効線量ともに線量限度が設定されており,適切にモニタリングすることで,将来の癌化や遺伝的影響のリスクを低減させることができます.

📝 まとめ

  • 確定的影響:一度に強い放射線を浴びることで臓器障害が生じる.閾値が存在し,Gy(グレイ)で表される.代表例は不妊や白内障.
  • 確率的影響:放射線の累積により発症リスクが上昇する.閾値はなく,Sv(シーベルト)で表される.代表例は癌や遺伝的影響.
  • 等価線量:各臓器ごとの被曝量を評価する指標.単位はSv.
  • 実効線量:全身全体の被曝リスクを評価する指標.単位はSv.職業被曝のモニタリングなどに用いられる.

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