手術前の「自己血輸血」って何?メリット・デメリットを解説!

🔷 はじめに

 整形外科や産婦人科等がある病院では「自己血あります」という言葉を聞いたことがあると思います.
 この記事では,「自己血輸血」について,その基本からメリット,注意点まで分かりやすく解説します
 まず,一般的な「貯血式自己血輸血」について説明したあと,手術中に行われる「回収式自己血輸血」についてお話しします.

Contents

自己血輸血とは〜

🔷 そもそも「自己血輸血」とは? なぜ必要なの?

 上記の通り,自己血輸血とは,手術などの際に自分自身の血液を輸血する方法です。事前に献血のように自分の血液を採って保存しておく「貯血式」と,手術中に出た血液をきれいにして体内に戻す「回収式」の2種類が主流です(他にもありますが,割愛).

 他人の血液(同種血)を輸血する「献血」という仕組みがあるのに,なぜわざわざ自分の血液を使うのでしょうか?その最大の理由は,「もともと自分のものが,一番安全だから」です.

🔷 自己血輸血の2大メリット

供血由来の感染症や免疫反応のリスクをゼロにできる

 献血でいただいた血液(供血)は厳重な検査が行われ,安全性は非常に高いです.しかし,未知のウイルスによる感染症のリスクや,アレルギー反応といった免疫反応による副作用の可能性を完全にゼロにすることはできません

 その点,自己血輸血はもともと自分の血液ですから,TRALI(輸血関連急性肺傷害)も含め,これらのリスクを根本的に回避できます.また,不規則抗体による問題もありません.もっとも,採血時の微生物の混入による汚染を起こさない様に注意することや,適切に保存すること(4〜6℃で35日間)が重要です.

限りある医療資源「献血」を節約できる

 輸血用の血液は,善意の献血によって支えられています.いつでも無限に使えるわけではありません.特に少子高齢化や近年の社会情勢により,献血者は減少傾向にあります.また,コロナ禍の際には,輸血用血液の不足が報じられたことがあります.

 手術での出血が予想される場合に自己血を利用することは,本当に献血による血液を必要としている患者さんのために,限りある資源を節約するという点でも非常に重要です.

貯血式自己血輸血と回収式自己血輸血

🔷 【方法1】貯血式自己血輸血|事前にためておくスタイル

手術の日程が決まっていて,貯血のための時間が十分な場合に行われる,最も一般的な方法です.緊急手術の場合は、採血する時間がないため行えません.

🤔 どんな手術が対象?

一般的に,手術中の出血量が循環血液量の15%以上(およそ500〜1000mL)と予想される場合に行われます.

どんな手術?
  • 整形外科:人工関節置換術、脊椎手術など
  • 婦人科:子宮筋腫の手術など
  • 心臓血管外科泌尿器科(前立腺手術)など

🤔 誰でもできるの?

  • 貧血がないことヘモグロビン値が11.0g/dL以上が目安)が条件です.貧血の方が採血すると,さらに貧血が悪化してしまうためです.
  • 他の禁忌としては,全身性の感染症やそれが疑われる場合です.全身状態に問題がなければ特に年齢制限はありません.
  • RhD陰性など,珍しい血液型や不規則抗体を持っている患者さんにおいては特に推奨されます(緊急に輸血が必要になった場合にすぐに用意できないリスクがある).

🤔 いつ、どのくらい採るの?

  • 手術の2〜3週間ほど前から,週に1回程度のペースで採血します.
  • 1回に採る量は400mLが一般的で,通常400〜800ml程度貯血することが多いです.必要に応じて繰り返し行い,最大1200〜1500mLもの貯血が可能とされています.
  • 採血後は貧血を防ぐために,鉄剤やが処方されることが多いです(場合によってはエリスロポエチンなどの造血剤も)

【注意点】 貯血した血液は冷蔵保存されるため、血液を固まりにくくする血小板の機能は失われています。あくまで赤血球を補充するためのもの,と理解しておきましょう.

【方法2】回収式自己血輸血|手術中の出血を再利用するスタイル

「セルセーバー」という医療機器の名前で知られています.手術中の出血を専用の機械で吸引し,きれいに洗浄して赤血球だけを取り出し,体内に戻す方法です.特に出血量が多くなりやすい手術で活躍します.

 一般的に,800〜1000mLあるいは循環血液量の20%程度が出血する際に適応となります.

どんな手術?
  • 整形外科(脊椎,TKAやTHAなど人工関節手術)
  • 心臓血管外科

🤔 回収した血液の特徴は?

  • 専用の機械で洗浄され,赤血球以外の成分(凝固因子や血小板など)は取り除かれます
  • そのため,この方法だけでは「血を止める力」を補うことはできません.
  • また,術中に使用しているカテコラミンや抗凝固薬は除去されていないため注意は必要です.

【その他の注意点】

  • がんの手術では,血液中に混じったがん細胞を完全に取り除くことが難しく,体内に戻すことで転移を広げてしまうリスクがあるため,原則として行われません.
  • ただし,命に関わるような大出血のリスクがある一部のがん手術では,利益が上回ると判断された場合に限り,白血球除去フィルターの使用や,ドイツでは放射線照射などの追加処置をした上で,慎重に使用されることがあります.

まとめ

メリット

  • 他人の血液を使わないため、感染症や免疫反応のリスクがない
  • 献血血液という限られた医療資源を節約できる

デメリット

  • 貯血式:採血による貧血,保存血の質低下,手術が延期になると無駄になることも・・
  • 回収式:凝固因子や血小板は戻せない,がん手術では使えない場合がある,専用機械が必要

方法別のポイント

  • 貯血式:出血が予想される予定手術向け,事前に採血して保存する
  • 回収式:出血が予想される手術で,術中に出た血液を洗浄して戻す

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