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麻酔科の術前評価には必ず記載されているASA-PS.電子カルテや手術室の管理システムにも記載欄があり,当然麻酔台帳にも入力が必須になっている術前評価の基本中の基本分類です.
♦️ そもそもASAって・・?
ASAはAmerican Society of Anesthesiologistsの略で,アメリカ麻酔科学会🇺🇸のことです.同学会が提唱したPS:Physical Status(身体の状態)のためASA-PSと呼ばれます.ちなみに日本麻酔科学会はJSA🇯🇵です.
♦️ 具体的に・・
ASA-PSは原則1〜6段階に分けられています.日常臨床でよく使うのは1〜5までで,6は脳死ドナー専用です.緊急手術の場合は数字の後ろに“E”(Emergency)をつけます.
ちなみに本家本元の表はこちらから.
🔷 ASA-PS1:元気だぜ!

基本的に持病もなく,一般的な健常人です(A normal healthy patient).一番安心して麻酔をかけられます.
🔷 ASA-PS2:持病あるけど基本元気だぜ!

軽度の全身疾患がありますけど,コントロールされており,それによって日常生活に制限はありません(A patient with mild systemic disease).
定期的に病院に通い,内服や生活習慣改善で状態が良い高血圧や糖尿病,病的でない肥満,呼吸器症状のない喫煙患者などがここに入ります.
基本的には,麻酔に関しても特に神経質にならずに済む患者です.
👉 実はこの「2」の範囲が広くて議論になるところ.たとえば「全く制限がなくほぼ健康に近い2」と「やや注意が必要な2」を分けて“2a / 2b”とする案が文献で提唱されたこともあります(Daabiss, 2011).公式分類には含まれませんが,臨床的にはニュアンスが伝わりやすくなるので参考になりますね.
施設ごとに具体例を示して評価者間の一致度を高める工夫をしている報告もあります.
🔷 ASA-PS3:持病のせいで困っている・・・

重度の全身疾患があり,日常生活に支障をきたすレベルの患者です(A patient with severe systemic disease).
PS2の持病がコントロール不良だったり,病的肥満,ペースメーカ植込み,高度肝機能障害,透析,虚血性心疾患や弁膜症による心機能低下などがここに当たります.糖尿病なら合併症(腎症・網膜症・神経障害など)を伴えばPS3です.
ぱっと見ではわからないことも多く,麻酔に関しても適切にポイントを把握して管理しないと,術中術後の合併症を生じてしまうリスクがあり,気を使いますね.
🔷 ASA-PS4:命が危険な状態です・・

「誰が見ても危ない」レベルです(A patient with severe systemic disease that is a constant threat to life).
最近の心筋梗塞,重症弁膜症,心不全,ショック,敗血症など.緊急CABGや絞扼性腸閉塞・消化管穿孔の緊急開腹などが典型例です.
術中のバイタル管理も大変になることが多いです.
🔷 ASA-PS5:手術しないと助かりませんが,手術しても厳しいかも・・

PS4がさらに悪化した状態です.大動脈瘤破裂,重症多発外傷,重症頭蓋内出血,ECMOを要する呼吸不全・循環不全,腸壊死を伴う絞扼性腸閉塞,重症肝不全や多臓器不全などが該当します.
生きるか死ぬかの手術,手術をしても助からない可能性が十分ある患者さんなので,手術も麻酔管理も手術室看護師さんも大変な症例です.
🔷 ASA-PS6:臓器移植ドナー(脳死患者)
脳死となり,臓器提供のために手術が行われる患者さんです(A declared brain-dead patient whose organs are being removed for donor purposes).
🔶 評価は人によって揺れることも・・
1か2,3か4は迷いにくいですが,2か3は麻酔科医によって評価が分かれることがよくあります(本当は統一見解があるといいんですけど・・).ある症例で2と書かれていても,過去のカルテでは3とされていたりします.
また「高齢で持病があっても元気なら2」とする人もいれば,「高齢なら予備能低下を考えて自動的に3」とする人もいます.施設ごとに具体例を示して評価者間の一致度を高める工夫をしている報告もあります.
ASA-PS自体は診療点数に直接影響するわけではありませんが,術前評価の必須項目として,手術チームがリスクを共有するための共通言語になっています.迷ったらより高めに設定して慎重を期す,という姿勢が一般的ですね🤗
📚 参考
- ASA-PS分類は,術前評価で必ず記載される「患者の全身状態を表す共通言語」.
- 1〜6段階(+E=緊急手術)に分類され,特に II と III の境界で評価が揺れやすい.
- ASA II:軽度の全身疾患(コントロール良好な高血圧や糖尿病,肥満など)
- ASA III:日常生活に支障をきたす重度の全身疾患(コントロール不良の持病,透析,虚血性心疾患など)
- ASA IV:生命の危険が常にある重症疾患(最近の心筋梗塞,重症弁膜症,敗血症など)
- ASA V:手術をしないと救命できないが,しても救命困難な状態(大動脈瘤破裂,重症多発外傷など)
- ASA VI:脳死患者(臓器提供ドナー)
- 評価は麻酔科医によって差が出やすく,施設ごとの具体例やASA公式例を使うと一致度が向上する.
- 迷うときは「より高めに設定して根拠を記載する」のが安全.
📚 References & Further reading
- American Society of Anesthesiologists. Statement on ASA Physical Status Classification System.👉 ASA公式ページ
- Daabiss M. American Society of Anaesthesiologists physical status classification. Indian J Anaesth. 2011;55(2):111–115.(ASA-PSの歴史的背景と臨床上のニュアンスについて解説)
- Sankar A, et al. Reliability of the American Society of Anesthesiologists physical status scale in clinical practice. Br J Anaesth. 2014;113(3):424–432.(ASA分類の評価者間信頼性は中等度にとどまることを示した研究)
- Abouleish AE, et al. Improving agreement of ASA physical status class by adding institutional-specific and ASA-approved examples. Perioperative Medicine. 2020;9:34.(ASA公式例+施設例を使うことで一致度が向上する質改善プロジェクト)
- Cleveland Clinic. ASA Physical Status Classification System.(患者向けのわかりやすい解説記事:ASA-PSは単独のリスク予測ツールではないことを強調)
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