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🔐47-4:肝右葉切除術

57歳の女性。身長154cm、体重58kg。肝癌に対して肝右葉切除術が予定された。血清ビリルビン2.2mg/dl、血小板10.3万/mm3、血清アルブミン2.9g/dl、PT-INR1.2、プロトロンビン時間95%、腹水なし、脳症なし、HCV抗体陽性であった。

0)この問題を解くために必要な知識

  • 肝機能評価について
  • 術後鎮痛について
  • 覚醒遅延の鑑別

 

1)術前評価と管理

①肝臓の術前評価について述べてください.
  • 肝機能障害や肝硬変があるような場合は背景疾患の把握(ウイルス性,アルコール性など)をし,ウイルス性では特に針刺し事故などに注意します.
  • 大まかな状態や予後を把握するために,一般的にはChild-Pugh分類が用いられます.
  • Child-Pugh分類は,脳症の有無,腹水の有無,血清総ビリルビン,血清アルブミン,PT%を元にスコア化して判断します.
  • 進行した肝障害では,貧血や凝固機能障害,脳症も起こすため,それらの血清学的な検査(NH3含)や,呼吸機能障害(肝肺症候群)や腎機能障害(肝腎症候群)を起こすため,血液ガスやスパイロメトリ,クレアチニンクリアランスなどの検査も必要です.
  • 肝硬変がある場合は食道静脈瘤,胃静脈瘤の評価が必要なため,内視鏡検査を行います.
  • その他肝機能検査では,排泄能検査を評価するためにICG試験(10%以下で正常,30%以上で肝硬変示唆,40%以上予後不良)を行ったり,凝固因子産生能の評価でHPT(ヘパプラスチンテスト)を行ったりします.

 

2)麻酔法および術中管理

①本症例で硬膜外麻酔の適応についてどのように考えますか.
  • 数値的には適応を満たしていると思われるが、肝硬変が進行している場合は、硬膜外腔の静脈が怒張して出血をきたしやすい可能性もあるため、適応的には境界であるかと思われる。
  • 施行したいとは思うが、穿刺が難しそうな場合は無理をせず中止する。

②全身麻酔管理中に注意する点について述べてください.
  • 肝門部処理〜肝臓切除中の出血に留意する。
  • アルブミンも低いため血管内容量が不足しがちである。細胞外液の無策な投与よりはアルブミン(施設によって初めからFFP)投与を行い、容量を保つ。CVPは4mmHg程度に維持するよう依頼があることが多い。
  • 筋弛緩薬の効果が遷延する可能性あり。筋弛緩モニターを使用。

 

3)術後疼痛管理

①術後鎮痛について説明してください.
  • 必要に応じて手術終了前〜終了時にかけてフルルビプロフェン(ロピオン),アセトアミノフェン静注液(アセリオ)フェンタニル1〜2A投与しておきます.
  • IV-PCAを行わない場合は,適宜NSAIDsやアセトアミノフェンを使用しておきます.術直前に挿肛することもあります.
  • IV-PCAを行う場合は薬液はフェンタニルを使用します.量はフェンタニル0.4〜0.6mgを生食100mlに溶解し,5ml/hで投与します.PCAフラッシュ(3ml)付きの持続投与ポンプや専用機器を用います.
  • IV-PCA装置を使用できる場合には, モルヒネの場合,持続投与なし(あるいは0〜2mg/時).ボーラス投与1〜2mg,ロックアウト時間6〜10分.フェンタニルの場合,持続投与なし(あるいは0〜60μg/時),ボーラス20〜50μg,ロックアウト時間5〜10分.などで使用します.
  • 手術によっては末梢神経ブロック単回投与,持続大腿神経ブロックや持続傍脊椎ブロック,持続腕神経叢ブロック(斜角筋間),持続腹直筋鞘ブロックを使用します(施設や麻酔科医により選択の差は大きいと思います).
  • 以上の手技を併用することもあります.

②PCA(patient-controlled analgesia)について説明してください.
  • 術後疼痛に対してベースとなる鎮痛投与に加え、傷みが強い場合に患者自身が鎮痛薬を追加投与する方法。
  • 過量投与を防ぐためにロックアウトタイムが設けられている。

③本症例の術後鎮痛を持続硬膜外ブロックにPCEAを用いて行う場合どのようにしますか具体的に述べてください。
  • 当院では3mlのPCAフラッシュキットのついた持続投与用のボトルを使用しています.
  • 薬液は0.25%ポプスカインとフェンタニルを使用します.フェンタニルはポプスカイン100mlあたり2〜6A(約2〜6μg/ml)を使用しますが,高齢者では若干減量しています.
  • 投与速度は術創や年齢に応じて3〜6ml/hのものを使用しています.

 

4)周術期危機管理

①術後覚醒遅延が生じました.考えられる原因を列挙してください.
  • さまざまな原因が考えられますが,大きく分けて麻酔自体が原因によるもの,呼吸・循環・代謝が患者が原因のもの,中枢神経系が原因のもの,手術自体の影響などがあります.
  • 麻酔要因としては,麻酔薬や筋弛緩薬の残存が最も考えられます.特に肝機能・腎機能障害や低心機能患者では相対的過量投与になりやすいです.まぁ多くの原因はこれです.
  • 患者が原因のものでは,肥満,高齢,低酸素血症,高二酸化炭素血症(CO2ナルコーシス),低血糖や異常高血糖,電解質異常(特に低Na血症),低体温などが挙げられます.
  • 中枢神経系では脳出血や脳梗塞,低張液過剰投与による脳浮腫などがありますが,脳神経外科手術や心臓外科手術(人工心肺を用いる)や頸動脈手術などでは注意が必要です.
  • 手術自体の影響としては,大量出血や大量輸血などで循環動態に大きな変動があった場合や,長時間にわたる困難な脳外科手術や心臓外科手術,肝切除術などがあります.