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46-1:開頭血腫除去術

70歳の女性。身長150cm、体重50kg。高血圧症で内服治療をしていた。夕食後、急に激しい頭痛と嘔吐を来たし来院した。来院時の血圧は210/110mmHgであった。頭部CT検査で左の被殻出血が認められ、緊急血腫除去術となった。

1)術前評価と管理

①この患者の術前状態における問題点を列挙してください.
  • 高齢
  • 高血圧(搬入時も高い血圧。脈拍の記載がないが、徐脈傾向であれば頭蓋内圧亢進が疑われる)
  • フルストマック

②術前管理の要点を挙げてください.
  • まずは血圧のコントロールが必要です.降圧薬(Ca拮抗薬など)を用いて収縮期圧を140mmHg程度に維持します.脳出血周囲の組織の脳血流自動調節能は障害されている可能性が高いため,血圧を下げ過ぎると虚血を生じる可能性があるためこの程度で維持します.
  • 意識レベルが低下しており,誤嚥・嘔吐の可能性がある場合,すでに呼吸状態が不安定,痙攣を起こしているような場合ではERで気道確保をしておきます.挿管時の血圧上昇には留意します.挿管後は手術室の準備ができるまで暗所で安静あるいは鎮静します.
  • H2拮抗薬やメトクロプラミドも投与しておきます.

 

2)麻酔法および術中管理

①麻酔管理の要点を列挙してください.
  • 血圧管理:虚血を防止するために脳灌流圧を保つ(脳灌流圧60-70mmHg程度)
  • 脳圧管理:軽度低二酸化炭素〜normocapniaに。過度の二酸化炭素分圧低下(PaCO2<30mmHg)は、出血周囲の虚血をもたらす。マンニトールなどの利尿薬を投与する。術野的に許されれば頭高位にすれば静脈還流が増加し、頭蓋内圧を下げることができる。

②麻酔法・モニターを選択してください.
  • 麻酔:気管挿管による全身麻酔。プロポフォール、レミフェンタニル(フェンタニル)によるTIVA。
  • 動脈ライン、中心静脈ライン、BISモニター使用

③脳圧を規定する因子を挙げてください.
  • 脳灌流圧(CPP)=平均動脈圧(MAP)ー 頭蓋内圧(ICP)

 

3)術後管理

①脳出血の術直後から数日間で発生しやすい神経学的合併症を挙げてください.
  • 再出血,血腫
  • けいれん発作
  • 脳梗塞
  • 神経原性肺水腫
  • たこつぼ型心筋症 など

②その症状と予防法を説明してください.
  • けいれん予防には抗てんかん薬を使用.
  • 出血,脳梗塞予防は血圧コントロール,安静
  • 脳血管攣縮の予防について聞いてきているような感じですよね・・?その観点で解答すると・・・
  • 症状としては意識レベル低下や片麻痺,失語などの脳梗塞症状を呈します.
  • 2022年から使用され始めたクラゾセンタン(ピヴラッツ)を術後に使用します.
  • 古典的には3H療法があり、Hypervolemia、Hypertension、Hemodilutionの頭文字をとったものですが,クラゾセンタンが使われ始めてからは過剰輸液になりやすいようで注意が必要です.過剰輸液になると脳浮腫や肺水腫のリスクがあります.
  • 他の薬物療法として塩酸ファスジルやオザグレルナトリウムなどを用いることがあります。

 

4)周術期危機管理

①術中、徐々にSpO2が低下してきた。 FIO20.5の動脈血ガス分析でpH7.38、PaO270mmHg、PaCO233mmHgであった。何を疑い、どのような対応を行いますか。
  • まずは酸素流量、濃度計、回路の外れ、チューブの屈曲など、見てすぐ分かるものを素早くチェック。
  • 以上に異常がなければ100%酸素で手動換気に。念のため自己膨張式バッグ(Ambuバッグ®)を準備。以下はほぼ同時進行で。
  • 抵抗なくバッグがしぼんで揉めないようなら、気管チューブのカフ漏れや、 上で気づかなかった回路の外れがある。
  • 抵抗があったり、呼気の戻りが悪ければ喘息発作や気管支痙攣、分泌物貯留などを疑う。聴診(Wheeze、分泌物による湿性ラ音)、吸引、気管支ファイバーなど分泌物やチューブの位置をチェック。
  • カプノグラムもチェック。閉塞性パターンを示していれば上記を疑う。波形が出ていなかったり、極端に低くなっているようなら、肺血流の減少(典型的には肺塞栓症)が疑われ緊急事態(血圧も低下していると思うが・・)
  • 以上に異常がない場合、肺水腫(この症例の場合は神経原性?)無気肺や気胸を疑う(呼吸音の左右差)。
  • 器械的トラブルや致命的な合併症(肺塞栓症など)がなければ、低換気や無気肺、肺水腫などを疑う。呼吸器設定を見直し、肺を再膨張させ、PEEPをかける(頭蓋内圧上昇に注意)