症例設定
【患者】
- 4歳男児、102cm、16.5kg.
【現病歴】
- 1歳時に発熱を契機に左尿管逆流症(VUR, Grade IV)と診断。抗生剤予防投与を継続していたが、直近1年間に3回の発熱性尿路感染症を認め、膀胱尿管新吻合術が予定された。
【既往歴】
- 35週6日、2,350g、帝王切開で出生(母体妊娠高血圧症候群のため)
- 食物アレルギー(鶏卵、牛乳)
- 1ヶ月程前に細気管支炎で受診歴あり.現在症状は見られない.
【主な検査所見・バイタルサインなど】
身体所見など
- 活気良好、体格栄養状態良好、身体発育標準(50パーセンタイル)
- 易興奮性あり、視診のみで啼泣
- 風邪症状なし
- 母親より「前回入院時に採血で大泣きし、その後看護師を見ると怖がるようになった」との情報あり
- Mallampati分類 ClassII、開口制限なし、頸部可動性良好
バイタルサイン
- 体温 36.5℃、HR 95/分、RR 22/分、SpO₂ 99%(room air)
血液検査
- Hb 12.0g/dL、WBC 7,800/μL、Plt 32.5万/μL
- TP 6.8g/dL、Alb 4.2g/dL、
- BUN 12mg/dL、Cr 0.4mg/dL、
- AST 25U/L、ALT 15U/L、
- Na 139mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 105mEq/L
画像検査など
- 排尿時膀胱尿道造影(VCUG):左Grade IV VUR、右尿管に逆流なし
- 腎シンチグラフィー:左腎瘢痕形成あり(分腎機能:右65%、左35%)
- 胸部X線:異常所見なし、CTR 48%
Q1. 本患児の術前評価において注意すべき点と、麻酔前投薬の選択について説明してください。
- 本症例では、易興奮性と医療従事者への恐怖心(看護師さんが恐ろしい悪魔に見えているのでしょう笑)、食物アレルギー歴がポイントになります。
- 前投薬は不安軽減のため,ミダゾラム0.3〜0.5mg/kg経口投与などが適応となります。
- 薬物を使用しない場合は、代替として術前の紙芝居やビデオ、親の同伴による麻酔導入なども考慮すべきです。
- 小児では前投薬を使用した場合も、保護者同伴で入室し、分離不安を軽減する配慮が大切です。
- 食物アレルギーについては交差反応の可能性(特に卵・大豆)を考慮し、プロポフォールは避けたほうが無難でしょう。
補足・解説
- 卵アレルギー患者におけるプロポフォール投与の安全性については議論があるものの、含有される卵黄レシチンによるアナフィラキシーのリスクは極めて低いとされています。
- しかし、より安全性を考慮し、特に本症例のように他の選択肢がある場合は避けるのが無難ではあります。
Q2. 4歳児に対する周術期における効果的なコミュニケーション戦略と、医療恐怖を持つ小児への対応について説明してください。
- 視線の高さを合わせる
- 簡潔で具体的な言葉を使用
- 選択肢を与える(「どっちの腕に点滴する?」)
- 遊びや気晴らしの活用
- 成功体験への称賛 などが効果的とされていますが,なかなかうまくいきません😅
医療恐怖を持つ小児(本症例該当)においては,
- ①事前のプレパレーション(人形・模型での説明、手術室見学)
- ②ディストラクション技法(好きなキャラクター、音楽、映像)
- ③段階的暴露(徐々に医療器具に慣れさせる)
- ④正のメタファー使用(「宇宙飛行士のマスク」など)
- ⑤親の同伴による麻酔導入(PPIA)が有効とされています。
- それに加えて,術前は適切な麻酔前投薬を検討し、麻酔導入までをスムーズに行えるように工夫します。特に緩徐導入ができないような場合の静脈路確保が必要な場合はなおさらです。
- 術後は十分な鎮痛とその評価を定期的に行い、非薬物的介入(親の存在、タッチング、気晴らし)も並行して実施します。各地のこども病院では,小児のあつかいのスペシャリスト的な方もいらっしゃいますので,術前から情報を共有して協力して対応しましょう(看護師、チャイルドライフスペシャリストなどによる一貫したアプローチが有効です)😊ワタシハニガテ
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