内容
- 巨大甲状腺腫瘍の術前評価:身体所見と画像検査
- 身体所見・診察
- 画像検査
- 全身状態と内分泌評価
- 巨大甲状腺腫瘍患者の気道確保戦略
- 意識下挿管
- 麻酔導入と換気
- 緊急気道確保(外科的気道確保)の準備
- 術中管理の注意点
- 術後合併症とその管理
- 反回神経麻痺
- 低カルシウム血症
- 術後出血・気道閉塞
- その他の合併症
はじめに

明日の巨大甲状腺腫瘍はんぱないんですけど



あぁ,確かに大きいね.気道の評価が超大事だけど,ちゃんとチェックした?



もちです.診察では努力様呼吸は見られなかったですけど,仰臥位になると少し呼吸困難ありました.喘鳴はなし.Mallampatiは3度.肥満はなし.顔面の浮腫はなし.



画像的には?



CTでは気道狭窄ありますね.左右の偏位はなし.最狭部は8mmくらいですね.大血管系への影響はなさそうです.



ほんで?挿管はどうする?



普通に導入するのはこわいので,フェンタニルちょこっとと口腔〜咽頭部の表面麻酔して意識下ファイバー挿管ですかね.あと体位は頭高位をとります.患者さんもその姿勢のほうが楽みたいなんで.



それが一番無難だね.明日の人はそれで大丈夫そうだけど,もっと酷い症例の場合はどうする?



ECMOスタンバイします.といってもそこまでする症例はまだ見たことないですけど.



まぁそう多くないけど,酷い甲状腺腫瘍の人とか,上大静脈症候群を起こしてる縦隔腫瘍でほんとに重症な場合はECMO回すこともある.
まぁ気道確保はそれでいいとして,甲状腺術後の合併症で大事なのは?



術後出血,反回神経麻痺,あとは低カルシウム血症とかですかね.



そう.術後出血は口頭試問でもよく問われるし,低カルシウム血症に伴う症状(Trousseau徴候)も最近出題された.反回神経麻痺は片側だと嗄声で済むけど,両側起こすと声門が閉じて危険なので,術中モニタリングと合わせて抜管前後でも観察が重要.



あしたは無事に終わることをいのります.あ,意識下挿管の時はちゃんと手伝ってくださいね.
巨大甲状腺腫瘍の術前評価:身体所見と画像検査
🔷 身体所見・診察
巨大甲状腺腫瘍患者では,術前に気道狭窄の症状・徴候を詳しく評価する必要があります.安静時や横になるときの呼吸困難の有無、努力呼吸の兆候、喘鳴の有無を確認します.一般に、気道径が高度に狭窄すると安静時にも吸気性喘鳴が生じ、これは高度な気道圧迫を示唆します.
嗄声や声質の変化もチェックします.嗄声は反回神経麻痺や腫瘍による声帯運動障害を示唆しうるため,術前から声帯麻痺がないか,耳鼻科での声帯評価(喉頭ファイバー検査)も考慮されます.
甲状腺腫瘍が上縦隔へ及ぶ場合は,縦隔腫瘍でも問題となり得る上大静脈症候群(顔面・頸部の静脈鬱滞、Pemberton徴候など)が生じることがあります.
🔷 画像検査
頸部〜縦隔のCTが極めて重要です.術前に必ず撮られているはずなので必ず確認すること!CTにより気管の偏位や狭窄の程度,最狭部の直径を評価します.気管径の健常時50%以上の狭窄や,絶対径5〜6mm以下の狭窄は重度であり、麻酔導入後に完全閉塞に至るリスクがあります.
実際,CTで気管径5.6mmと判明した症例では,安静時は喘鳴を認めなくても急激に呼吸状態が悪化し心停止に至った報告があります.
またCTで気道軟化(気管軟化症)の所見(長期圧迫による気管軟骨の扁平化)や,腫瘍の胸郭内進展(縦隔内甲状腺腫),周囲への浸潤の有無(気管・食道への浸潤、大血管への巻き付き)を把握します.
必要に応じて呼吸機能検査を行い,可変性または固定性の上気道閉塞パターンがないか確認します.特に吸気および呼気相両方で平坦化を示すフローボリューム曲線は気道の固定性狭窄を示唆し,大きな甲状腺腫瘍で観察されることがあります.
🔷 全身状態と内分泌の評価
術前に甲状腺機能を評価し,甲状腺機能亢進症(Basedow病など)に伴う巨大甲状腺腫であれば甲状腺機能を正常化させておくことが必須です.未治療の甲状腺機能亢進状態で手術を行うと甲状腺クリーゼを来す危険があるため,抗甲状腺薬や無機ヨード,β遮断薬でコントロールします.
また気道狭窄が疑われる患者では,仰臥位での麻酔前評価中にも呼吸状態が悪化し得るため,必要ならベッド上半身挙上位での酸素化を行うなど工夫します.
困難気道が予想されるため,患者ごとに最適な気道確保方法を術前にシミュレーションし,麻酔科・外科チームで共有しておきます.



何事も評価と準備ですね



そう.準備してても予想外にトラブることがあるから,起き得ることさえ準備してないのは論外だね.
巨大甲状腺腫瘍患者の気道確保戦略
巨大甲状腺腫瘍患者の麻酔導入では,自発呼吸を残した気道確保を行うことが安全です.特に,気道が著明に狭窄・変形している場合,通常の全身麻酔導入で筋弛緩薬を使用すると,気道筋緊張の消失により気道が完全閉塞し,CVCIに陥るリスクがあります.
実際、「巨大甲状腺腫による既知の気道狭窄がある場合、麻酔導入により完全閉塞が起こり得る」と報告されています.そのため,覚醒下挿管または自発呼吸を維持したままの挿管が推奨されます.多くは意識下気管支ファイバー挿管やビデオ喉頭鏡,もしくは両方を使用(オリエンテーションをつけるため,ファイバー先端をビデオ喉頭鏡で観察しながら)が選択されると思います.
🔷 意識下挿管
十分な表面麻酔と軽度鎮静・鎮痛下でのファイバー挿管は,困難気道確保のゴールドスタンダードとされています.
気道局所麻酔(キシロカインスプレーや,上顎神経ブロック,経鼻経咽頭の表面麻酔など)を行い,患者とコミュニケーションを取りつつ丁寧に挿管します.
ファイバー挿管が困難な場合には,ビデオ喉頭鏡を用いた覚醒下挿管や,必要に応じて経鼻的アプローチ(経鼻の方が気道確保しやすい姿勢を保てる場合もあります)も検討されます.
近年のASA困難気道アルゴリズムでも,困難気道が予見され換気困難のリスクがある場合は覚醒下挿管を積極的に考慮すべきと記載されています.挿管チューブの太さは狭窄径に合わせ,細目のチューブ(6.0~6.5mm径など)を準備します.挿管チューブは内部から気道をステントする役割を果たすため,狭窄部さえ通過できればその先の気道は確保しやすくなります.
良性の軟らかい甲状腺腫では,気道狭窄が画像上高度でもチューブで狭窄部を押し広げ挿入できるケースが多い一方,悪性甲状腺腫瘍で気道壁自体が硬く浸潤している場合,チューブで拡張することは困難です.画像所見や疾患の性状(良性結節性甲状腺腫や,浸潤性甲状腺癌など)も挿管戦略の判断材料となります.
🔷 麻酔導入と換気
気道の確実な確保までは自発呼吸を維持し,必要最小限の薬剤で導入します.静脈麻酔(少量ずつのプロポフォールやケタミン,ミダゾラム,デクスメデトミジン,鎮痛にフェンタニル少量など)で意識レベルを軽度低下させつつ,自発呼吸が止まらないよう注意します.
あるいはセボフルラン吸入による緩徐誘導も古典的ながら有用です.
気管挿管に成功し,狭窄部を通過すればその後の換気は比較的安定します.挿管チューブが通過しにくい場合は,より細径のチューブを用いたり,先端の形状の違うものを使用(パーカーチューブなど)します.
🔷 緊急気道確保(外科的気道確保)の準備
挿管困難かつマスク換気不良となった場合には,直ちに緊急の外科的気道確保(輪状甲状間膜切開・緊急気管切開)を行う必要があります.リスクが高い場合は術前に耳鼻科・外科チームと打ち合わせ,難しければ手術室での覚醒下気管切開も選択肢に入れます.
特に腫瘍が下方へ大きく伸展している場合,通常の輪状甲状間膜切開が困難な位置まで気管が圧迫されている可能性もあり,事前に気管切開の可能な部位を画像で確認します.ECMOの待機も最終の手段として報告されています.
気道確保不能が高率に予見される重度狭窄例では,局所麻酔下に大腿静脈動脈ラインを確保し,VV-ECMOを準備してから全身麻酔導入するケースもあります.しかし,ECMO導入自体にカニュレーション等の処置が必要なため,現実的には限られた状況での適応です。
🔷 術中管理の注意点
巨大甲状腺腫では反回神経モニタリング用の気管チューブ(電極付きチューブ.NIMチューブなど)の使用が推奨されます.これにより術者が電気刺激でRLNの位置確認を行えますが,正しく機能させるには挿管時に電極が声帯と接触するよう留意し,麻酔維持中は筋弛緩薬を追加しない,あるいは最小限に留める必要があります.
ちなみにNIMチューブの最も細いものは,内径5.0mm,外径6.5mmです.
手術体位は頸部伸展位(気道確保に有利)ですが,縦隔内延長がある例では,仰臥位で腫瘍が気道や大血管を更に圧迫しうるため,麻酔導入から挿管まで半坐位気味にするなど工夫します.導入後は換気圧のモニタリングが重要です
腫瘍圧迫で気管が細くなっていると,チューブ先端遠位が狭窄部を越えていても,狭窄部通過に高い気道内圧が必要な場合があります(特に悪性腫瘍で固い場合など).また片側主気管支の圧排による一側肺換気状態になれば,酸素化低下のリスクもあります.必要なら術中に気管支ファイバーで,チューブ先端位置や気道内状況を確認します.



困ったときの意識下ファイバー挿管はいいとして,挿管したのにチューブがつぶれて換気ができないとか,まじ勘弁ですね.



私は実際にそうなったことはないけどね.NIMチューブは比較的固いイメージがあるし.でもかなり細径になるとそういったリスクもあるのかな.ただ,換気に必要な圧は上昇するから腫瘍が取れるまでは難渋するかも・・
術後合併症とその管理
🔷 反回神経麻痺
発生頻度
甲状腺全摘術後の反回神経麻痺(RLN麻痺)は主要な合併症の一つです.報告により頻度のばらつきはありますが,一時的麻痺は約1.5〜14%とされ,経験豊富な施設では一時的麻痺が2〜5%,永久麻痺(6か月以上改善しないもの)は1〜2%未満に抑えられるようです.例えばある大規模研究では、一時的声帯麻痺3.2%、永久麻痺0.3%という結果でした.
麻痺は片側が大半ですが、まれに両側麻痺も起こりえます(報告では0.5%程度).両側麻痺では両側声帯の可動性が失われ,声門開大が不十分となるため重篤な気道閉塞を引き起こします.
※RLN:Recurrent laryngeal neuropathy or Recurrent laryngeal nerve
症状とその確認
片側反回神経麻痺では嗄声(声がかすれる),誤嚥傾向(水とかしんどい),呼吸困難(軽度)などが見られます.術後に患者の声出しを確認することは,反回神経機能評価の一手段です.
両側麻痺では激しい呼吸困難と吸気性喘鳴を呈し,緊急の気道確保が必要になります.麻酔科医は抜管前後に声帯の動きを確認することが望ましく,可能であれば抜管前に喉頭鏡で直視またはファイバー挿管チューブ越しに声帯を観察し,両側の動きをチェックします.
近年は術中に反回神経をモニターするため,麻酔導入時に特殊な電極付き挿管チューブ(NIMチューブ)を留置し,手術中に神経刺激で声帯筋応答(EMG波形)を記録する方法が広く用いられます(Xでアンケートを取ったところ,大半の施設でモニタリングが行われていました.私が麻酔科になったころはNIMチューブが出たか出てないかくらいで,まだ全然普及していませんでした).これにより術者は反回神経の機能温存確認ができますが,最終的な声帯運動は術後の臨床評価で判断します。
反回神経麻痺への対処
片側麻痺の場合,対側健常声帯による代償で時間とともに声は改善することが多く,数週間〜数か月で機能が回復(一時的麻痺)するケースがほとんどです.この間,必要に応じて耳鼻科での音声リハビリテーションや嚥下指導を行います.
永久麻痺が残った場合,声帯内転位への声帯内注入術や甲状軟骨形成術(声帯内転化)など,耳鼻科的治療で声音や誤嚥を改善させる方法があります.
一方,両側反回神経麻痺では気道確保が最優先です.術後早期に両側麻痺と判明した場合,再挿管して気道を確保し,気道浮腫が落ち着くまで挿管を継続するか,長期麻痺が予想される場合は気管切開を検討します.
幸い両側麻痺が一時的で,数日以内に片側でも動きが戻れば抜管も可能ですが,それまではICU管理下で慎重な経過観察が必要です.



私の知りあいのオペ看さんが頭頸部の手術を受けたときに,片側反回神経麻痺を起こしたことがあって,声はともかく,水を飲むのがつらいと言ってたことがある.



えー,しんどそう・・.



なかなか治らなくて,半年以上かかってようやく落ち着いた.つらそうだったね.
🔷 低カルシウム血症
原因と頻度
副甲状腺機能低下による低カルシウム血症も甲状腺全摘術後の代表的合併症です.手術で副甲状腺が誤摘出されたり,血流障害を起こすことで一時的にPTH(副甲状腺ホルモン)の分泌低下が生じ,術後数日以内に血清Ca値の低下をきたします.報告によって定義が異なるため発生率の幅は広いですが,一過性の低Ca血症は約20〜30%と結構高頻度であり,ほとんどは数日〜数週間で回復します.
永久的な副甲状腺機能低下症(6〜12か月以上補充療法が必要な場合)は1〜2%程度と報告されています.ある大規模メタ解析では,一過性低Ca血症の発生率中央値27%,永久性は1%と報告されました.
リスク因子として,甲状腺全摘+中央頸部郭清(リンパ節郭清を伴う場合),原疾患が甲状腺癌であること,手術操作時間の延長,術者の経験不足などが挙げられています.
症状と診断
術後低Ca血症は,典型的には術後1〜2日目から症状が出現します.軽症では口唇や指先の知覚異常(しびれ),重症になるとテタニー(筋収縮による痙攣)やけいれん発作,気道攣縮(喉頭痙攣)を生じることもあります.
臨床的には,血清総カルシウム値が8.0 mg/dL未満(2.0 mmol/L未満)程度で症状が出やすくなります.診察所見ではChvostek徴候(顔面神経叩打で顔面筋収縮)やTrousseau徴候(血圧計マンシェットで上腕圧迫し手の強直性痙攣を誘発)が陽性になることがあります.Trousseau徴候は63回の口頭試問でも出題されましたね.
術後は血清Ca値を定期測定し,低下が著明な場合や症状が出現した場合は速やかな対応が必要です.近年では術後早期(術直後数時間以内)のPTH値測定が有用とされ,術後PTHが著減している場合は低Ca血症を高率に来すため早期から補正を開始します.
予防と治療
甲状腺全摘術の終了時に副甲状腺が損傷・摘出された可能性が高い場合,術者判断で予防的に自家移植(摘出した副甲状腺を細切し胸鎖乳突筋内などに植え込む)を行うことがあります.カルシウム補充は症状の有無や重症度によります.軽度無症状なら経口カルシウム剤と活性型ビタミンD(カルシトリオールなど)内服で管理し,症状があれば静脈カルシウム投与(グルコン酸Caの緩徐投与)を行います.
一過性の副甲状腺機能低下は,術後2週間以内にPTH分泌が回復し始め,数か月で補充不要となる例が多いですが,永久性と判断された場合には内科での長期管理(Ca/VitD補充継続,定期的な尿路結石チェック等)が必要になります.まぁこの辺は麻酔科が直接関わることはないでしょうけど・・



試験でも出ましたけど,受験された先生方も術後出血が聞かれると思ってみたいで盲点だったみたいです.



そうみたいだね.「あれ?これなんだったけ?」ってなったみたい.しばらく出ないだろうけど,要注意だね.
🔷 術後出血と気道閉塞
頻度とタイミング
口頭試問では頻出ですが😅,甲状腺手術後の術後出血(頸部血腫形成)の頻度は低く,報告にもよりますが約0.1〜1%程度です.近年の大規模施設データでは0.3%前後ともされています.発生の半数以上は術後数時間以内(6時間以内)と早期に起こる傾向があります.
出血源は動脈性出血だけでなく静脈からの持続的出血もあり,小さな出血でも密閉された頸部手術創内に血液が貯留すると圧がかかり血腫が拡大します.
術後出血の病態
頸部は限られた空間のため,血腫が形成されると周囲組織を強く圧迫します.これにより気管が圧迫移動されて急速に呼吸困難・喘鳴を来す危険があります.また創部皮下出血の圧迫で頸部静脈の還流障害が起これば舌や咽頭粘膜の腫脹も招き,気道確保が一層困難になります.
患者は頸部の膨隆・緊満感、嚥下痛,呼吸苦を訴えることがあり,酸素飽和低下や頻呼吸,嚥下困難などの兆候が出現します.酸素飽和度が低下するころにはかなり症状が進んでいるので危険です.
術後出血が生じたら・・・
術後出血が疑われ,特に気道圧迫の兆候がある場合は時間との闘いです.評価に時間をかけず,ただちに創部の開放を行います.具体的には,ベッドサイドで直ちに創部の皮下縫合をすべて除去し,創を開放して血腫を排出させます.これにより気道への圧迫を減らし呼吸を確保します(実際は麻酔科じゃなくて外科医がすると思うけど・・・).
同時に外科医に緊急連絡し,可能ならその場で指圧止血しつつ,速やかに手術室へ戻して再開創・止血処置を行います.
創開放によりある程度呼吸が改善すればマスク酸素投与や気道確保準備をしながら搬送します.開放後も気道閉塞が強い場合や意識状態が悪化した場合,救命のため緊急再挿管または気管切開を現場で行うことも考慮します.この際,舌・咽頭のむくみにより挿管は困難を伴う可能性があるため,最初から太めの針による輪状膜穿刺・ジェット換気を含むあらゆる手段を検討します.
ここまでになる前に早期発見することが超重要で,実際には外科医も最も警戒している合併症のため病棟も報告は早いと思います.
術後出血の予防
術後出血のリスクを下げるために,術中のしつこいくらいの確実な止血と,必要に応じたドレーン留置が行われます.ただし近年の知見ではドレーン留置の有無と血腫発生率に有意差はないとの報告もあり,ドレーンありでも注意深い観察が必要です.
血圧管理も重要で,術後高血圧により出血リスクが上昇するため,鎮痛を十分に行い血圧安定を図ります.患者には咳嗽やいきみを最小限にするよう指導します.



やっぱり甲状腺術後合併症と言えばこれでしょ,って感じですけど,意外と実際の発生頻度は低いんですね.



まぁそうしょっちゅう起こっても困る😅.私は実際にあやしいから開けたのが1件,ガチのやつで急いで手術室に運ばれてきたのが1件あったね.幸い気道確保は難しくなかったけど.



くわばらくわばら



おまえいくつやねん.
🔷 その他の術後合併症・注意点
気管軟化症
長期間にわたり気管が巨大甲状腺腫瘍により圧迫されていた場合,気管軟骨が変形・軟化し,術後に気管が自力で開存できなくなる気管軟化症が問題となることがあります.
これは術中は無事に挿管・換気できても,抜管後に気道が虚脱してしまう状態です.幸い臨床的に深刻な気管軟化症は稀であり,多くの症例では一時的な気道虚脱は起こりません.
しかしリスクが疑われる場合(術前CTで気管が著明に扁平化していた,長年にわたり重度の圧迫があった等)は,予定抜管を見送り挿管チューブ留置を継続する方針も安全策として取られます.術後ICUに患者を入室させ,翌日以降に覚醒下での抜管トライアルを行う,あるいは気管支鏡下に抜管して気道内腔の虚脱状態を直視下に評価するといった方法が推奨されています.
実際に巨大甲状腺腫で長期気道圧迫があった症例でも,術者が気管の硬さを確認し問題ないと判断したケースでは,手術後に外的圧迫が除去されたことで換気力学が改善し,安全に抜管できたとの報告があります.一方で抜管後に呼吸困難となり再挿管を要した例も報告されており,気管軟化症のリスク評価と対策は怠らないようにします.
甲状腺クリーゼ
口頭試問でも出題があっています.甲状腺機能亢進症例では,手術侵襲により甲状腺クリーゼが誘発されることがあります.特にバセドウ病由来の巨大甲状腺腫などで術前に甲状腺モン過剰の場合,術中術後に高熱,頻脈,不整脈,血圧変動,意識障害,多臓器不全といった致死的状態に陥る危険があります.
従って前述の通り,術前に可能な限り甲状腺機能を正常化することが重要です.万一クリーゼが発生した場合,大量の抗甲状腺薬・無機ヨード・ステロイド・β遮断薬投与,体温管理,循環管理など集中的治療が必要となり,ICUにおける管理が必要となります.



クリーゼも出てましたね.



甲状腺薬投与と循環管理ね.想定問題でも出してるから確認しておいてね.
参考文献・資料
- Tan D, et al. Awake Fiberoptic Nasotracheal Intubation and Anesthetic Management of a Patient With a Compressed and Deviated Airway From a Massive Thyroid Goiter: A Case Report. Cureus. 2023;15(3):e*. (PMCID: PMC10036196)
- Pan Y, et al. Airway Management of Retrosternal Goiters in 22 Cases in a Tertiary Referral Center. Ther Clin Risk Manag. 2020;16:1267-1273. (PMCID: PMC7764631)
- 関西医科大学麻酔科学講座 「気管・気管支に狭窄のある患者の管理」 (Web記事)2018年.
- Zakaria HM, et al. Recurrent Laryngeal Nerve Injury in Thyroid Surgery. Oman Med J. 2011;26(1):34-38.
- Edafe O, et al. Incidence, prevalence and risk factors for post-surgical hypocalcaemia and hypoparathyroidism. Gland Surg. 2017;6(Suppl 1):S59-S68.
- Sharma PK. Complications of Thyroid Surgery (Medscape eMedicine). Updated 2022.
- 広津聡子ほか. 「巨大甲状腺腫のため心肺停止した患者の救命経験」 日本救急医学会雑誌 2019;36(2):173-177.