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44回

44-1:肝右葉切除術

70歳男性。身長163cm、体重55kg。C型肝炎による肝硬変のため、内科的に管理されていた。食道静脈瘤がある。肝右葉に径8cmの腫瘍が発見され、肝右葉切除術が予定された。血小板数6.5万/mm、血清アルブミン3.0g/dl、プロトロンビン時間20.4秒であった。

1)術前評価と管理

①この患者の術前状態における問題点を、列挙してください。
  • 肝硬変で凝固能異常、血小板減少、低アルブミン血症、食道静脈瘤(門脈圧亢進)がある。
  • 高齢

 

②術前に必要な検査を挙げ、肝機能評価法について説明してください。
  • 肝機能障害や肝硬変があるような場合は背景疾患の把握(ウイルス性,アルコール性など)をし,ウイルス性では特に針刺し事故などに注意します.
    大まかな状態や予後を把握するために,一般的にはChild-Pugh分類が用いられます.
  • Child-Pugh分類は,脳症の有無,腹水の有無,血清総ビリルビン,血清アルブミン,PT%を元にスコア化して判断します.
  • 進行した肝障害では,貧血や凝固機能障害,脳症も起こすため,それらの血清学的な検査(NH3含)や,呼吸機能障害(肝肺症候群)や腎機能障害(肝腎症候群)を起こすため,血液ガスやスパイロメトリ,クレアチニンクリアランスなどの検査も必要です.
  • 肝硬変がある場合は食道静脈瘤,胃静脈瘤の評価が必要なため,内視鏡検査を行います.
  • その他肝機能検査では,排泄能検査を評価するためにICG試験(10%以下で正常,30%以上で肝硬変示唆,40%以上予後不良)を行ったり,凝固因子産生能の評価でHPT(ヘパプラスチンテスト)を行ったりします.

 

2)麻酔法および術中管理

①麻酔法を選択し、その理由を説明してください。
  • 麻酔は気管挿管による全身麻酔単独
  • 凝固能低下と血小板減少があるため硬膜外麻酔は行わない。
  • 腹横筋膜面やブロックや腹直筋鞘ブロックは併用も考慮。

 

②麻酔導入の方法と使用する薬剤について、具体的に述べなさい。
  • 腹水が多量に認められる場合は、フルストマックと考え迅速導入を行う。
  • でなければ通常の急速導入で行う。
  • 薬剤はプロポフォール、ロクロニウム、レミフェンタニルで導入、維持はプロポフォール、レミフェンタニルによるTIVA。筋弛緩薬はTOFをモニターしながら適宜使用する。

 

3)術後管理

①術後鎮痛の方法を具体的に説明してください。
  • 硬膜外鎮痛
  • IV-PCA+末梢神経ブロック+NSAIDs

 

4)周術期危機管理

①肝静脈剥離中に、血圧の著明な低下、呼気終末二酸化炭素分圧の低下を認めました。どのように対応しますか?
  • 肝静脈剥離面から流入した空気による空気塞栓が最も疑わしい。
  • 手術は一旦中止.創部を被覆して左側臥位・頭低位(Durant体位).可能であればTEEで診断.
  • CVCを留置していれば吸引を試みる.