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52-1-1:脳動脈瘤クリッピング術

68歳の男性。中大脳動脈瘤からのくも膜下出血で緊急クリッピング術を行うことになった。GCS:E3V4M4。既往歴に高血圧、陳旧性心筋梗塞があり1年前に冠動脈ステント留置術を施行した。現在ワルファリン、ニコランジル、エナラプリル(ACE阻害剤)を内服中。喫煙歴は20歳から20本/日で発症当日まで喫煙していた。

0)この問題を解くために必要な知識

  • SAHの術前評価
  • 冠動脈ステントと待機手術の関係
  • ワルファリン拮抗
  • 術中脳圧管理について
  • 脳血管攣縮について

 

1)術前評価

①この患者の術前の問題点を4つ述べてください。
  • 高血圧
  • 陳旧性心筋梗塞で1年前に冠動脈ステントを留置(ステントの種類は不明)
  • 抗凝固療法中
  • 手術直前までの喫煙で肺合併症のリスク有

②通常の術前検査(血液検査、心電図、胸部エックス線)以外に担当麻酔科医として得ておきたい情報を4つ述べてください。
  • 日頃の活動度(NYHA、Hugh-Jones,4METs保たれているかなど)
  • 喀痰の量
  • 肺気腫の有無(胸部CT)
  • 最近の狭心発作などの既往の有無
  • 血圧のコントロール状況
  • 冠動脈ステントの種類、など

③冠動脈ステントの種類と一般的な待機手術の場合の推奨手術施行時期(推奨クラスⅠ)を述べてください(一部問題改変)。
  • POBA(plain old balloon angioplasty)後後の推奨手術施行時期は1か月以降です.
  • DCB(drug-coated balloon),BMS(bare metal stent)後の推奨手術施行時期は3か月以降です.
  • DES(drug eluting stent)留置後は6か月以降です(クラスⅠB).
  • ステント留置後1か月未満でのやむを得ない緊急手術においてはDAPTを継続して手術を行う必要があるため,術中の出血リスクが増大します.1か月以降の内服に関しては,通常アスピリンのみ継続して手術を行いますが,出血リスクが高いが血栓リスクが低い場合にはアスピリンを中止することもあります.患者の状態と手術のリスクを踏まえて決定する必要があります.詳しくは日本循環器学会の「2020JCSガイドライン」の図4(p36)(ダウンロード可能)も参照してください.

④凝固検査にてPT-INR 3.0(control:1.2)であった。手術の前に行うべき処置について述べてください。
  • 緊急手術などで拮抗が必要な場合はビタミンK(ケーツーN)やPCCs(プロトロンビン濃縮製剤:商品名ケイセントラ)、FFPを投与します。
  • ケーツーNによる十分な拮抗には4〜24時間かかると言われています。投与量は10〜20mgです。
  • FFPによる拮抗は10〜15ml/kgとされていますので、体重60kg程度であれば3〜4pac必要になります。
  • 米国のガイドラインではPCCsが第一選択とされている(投与量も少なくてすみ、血液型も関係なく、溶解の必要もないため最適とされている)ようですが、高価ですしやはりFFPがよく使用されているそうです。ま、PCCsは日本では適応外なんですけどね。
  • 筆記臨床問題ではワルファリン投与中患者の頭蓋内出血の拮抗薬として4因子含有乾燥濃縮ヒトプロトロンビン複合体が正解とされています(頭蓋内出血患者へのFFP投与で長期予後悪化の可能性).

 

2)術中管理

①麻酔の導入はどのような点に注意して行うか述べてください。
  • フルストマックであれば迅速導入で行います。経鼻胃管による術前の吸引は脳圧を上げるおそれがあるので行わないほうがよいでしょう。
  • 気管挿管時の刺激で脳圧が亢進したり、頻脈で冠虚血(今も狭窄があれば)を起こす可能性もあるので、プロポフォール、レミフェンタニル(フェンタニル)で十分に深く麻酔導入して挿管を行います。

②脳圧を下げるための一般的な方法を3つ述べてください。
  • 低酸素血症、高二酸化炭素血症があれば頭蓋内圧は上昇するので、是正します。
  • 過換気(PaCO2:25〜35mmHg):4〜6時間持続します(PaCO2を下げ過ぎると,脳血流の減少により,自動調節能が障害されている部位の虚血を引き起こすことがあるので注意)
  • 頭部挙上(20〜30°前後まで):静脈還流が増加し,ICPが低下します.
  • 胸腔内圧の上昇を避ける(PCVでは吸気圧を下げる,VCVでは換気量を下げたり,吸気時間を伸ばす,PEEPを下げる).
  • 吸入麻酔からTIVAに変更する.
  • マンニトールやフロセミドの投与.
  • 外科的減圧や脳脊髄液ドレナージ

 

3)術後管理

①術後の脳血管攣縮の予防および脳灌流維持の療法としてどのようなものがあるかを述べてください。
  • 予防として有名なものに3H療法があり、Hypervolemia、Hypertension、Hemodilutionの頭文字をとったものです。
  • 輸液や輸血で血管内ボリュームを保ちます。ただ過剰輸液になると脳浮腫をきたすため、最近ではフロートラックやプリセップカテーテルによる管理も行われます。CVPであれば8〜12mmHg、PCWPであれば18〜20mmHg程度を目標にします。
  • 血圧は輸液や必要に応じてカテコラミンを使用し、140〜150mmHgでコントロールします。
  • 微小循環を改善させるためにHtを30%前後にコントロールします。
  • 他にも薬物療法として塩酸ファスジルやオザグレルナトリウムなどを用います。

 

4)周術期危機管理

①術後、抜管前に自発呼吸下にFIO2=0.5でSpO2が92%に低下しました。 この症例で特に考えられる理由を述べてください。
  • 術直前までの長期にわたる喫煙があるため、クロージングキャパシティが増加しており無気肺を形成した可能性が高いと思われます。
  • 喀痰の貯留も無気肺形成を助長した可能性もあります。肥満があればさらにでしょう。
  • 神経原性肺水腫を起こしている可能性もあります。

 

👆補足事項

  • 典型的な問題で特に補足事項はないんですが、冠動脈ステントの種類と待機手術についてと、脳血管攣縮の症状(意識レベル低下や片麻痺、失語などの脳梗塞症状)、予防についてはすらすらっと出るようにしておいてください。