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53回

🔐53-1-1:腹腔鏡下虫垂切除術

45歳の男性.身長173cm,体重96kg.急性虫垂炎の疑いで緊急腹腔鏡下虫垂切除術を行うことになった.これまで医者にかかったことはないが,時々立ちくらみがする(これは褐色細胞腫の症状だ!・・・と思える人はほとんどいないでしょう笑).

0)この問題に必要な知識

  • 肥満患者の麻酔,気道確保(DAM)
  • 糖尿病患者の麻酔
  • フルストマック時の麻酔
  • 褐色細胞腫の麻酔に関する知識

1)術前評価

①【術前問題点】術前問題点を4つ述べてください.
  • 緊急手術のため術前情報少なめ.医療機関受診なしの既往歴なし.
  • 時々立ちくらみ.心血管系?脳血管系?内分泌系?
  • 肥満(BMI32)
  • 糖尿病.糖尿病の合併症のチェックも.
  • フルストマックの可能性(CTでわかっていると思います).
  • Mallmpati分類Ⅲ.気道確保困難の可能性あり.
  • 腹部CTで左副腎部に腫瘍らしきものあり.褐色細胞腫を念頭に置く.であれば通常よりも
  • 脱水の傾向は強め.そう思ってよく見ればHbが17と結構高い.

 

②【麻酔計画】どのような麻酔計画を立てますか?
  • 褐色細胞腫の可能性を考えて硬膜外麻酔を留置しておいたほうがいいかな?.必須ではないですが.
  • フルストマックであればプロポフォール,レミフェンタニル(フェンタニル),ロクロニウムで迅速導入を行います.維持はお好きなもので(ここはプロポフォール,レミフェンタニル(フェンタニル)によるTIVAということにします).
  • 積極的に褐色細胞腫を疑っていれば動脈ラインや中心静脈ライン(内頸静脈)を留置しておきます.

 

2)術中管理

喉頭展開所見はCormack分類Grade3で,3回目で気管挿管に成功しました(3回トライする前にMcGRATH使おう).

①【血圧上昇・心電図変化の原因】気腹開始15分後,血圧が230/160mmHgに上昇し,図のような心電図所見となりました.何を考えるか,5つ述べてください.
  • 麻酔が浅かった(麻酔薬自体が少なかった,ルートが流れていなかった,水チバ・嘘チバだったなど).
  • 気腹によりETCO2が上昇した(ここまでの循環への作用はないですけどね)
  • 例の腫瘍がやはり褐色細胞腫であった!(まぁ問題的にはこれ)
  • 未破裂の脳動脈瘤が破裂,脳出血を起こした(んなことはないか).

②【危機対応】この状況で,薬物投与以外で,どのような対処をしますか.
  • 手術中断.気腹中止.
  • 麻酔を確認し,深める.

 

③【危機対応(薬物投与)】この状況でどのような薬剤を投与しますか.
  • 通常であればジルチアゼムやニカルジピンのようなCa拮抗薬を投与することが多いと思います.
  • 褐色細胞腫であればフェントラミンやニトロプルシド,マグネシウム,PGE1製剤なども用いられます.
  • フェントラミン(レギチーン)1mgを静脈内投与後,血圧は110/60mmHgに低下しました.

④【外科医への対応】「このまま手術を続けてよいか.」と外科医にたずねられました.どのように対応しますか.理由も含めて答えてください.
  • 手術は原則中止です(特に異所性褐色細胞腫の場合).中止の理由は刺激で血圧・心拍数の急激な上昇を繰り返すからです.
  • ですが,もうまもなく取れそうなc場合(気腹開始15分であれば上手な術者でチョロアッペならさらっととれてますし)は出来る限りバイタルサインを維持しつつさっさと取ってもらいます.
  • 偶然見つかった褐色細胞腫は決して摘出しようとしてはいけません(適切な準備ができていない場合,死亡率が高いからです).

 

3)術後管理

虫垂切除術のみを終了しました(よし).

①【術後管理方針】手術終了時(麻酔未覚醒,挿管人工呼吸中)の動脈血ガス所見を示します.術後管理方針の要点を4つ述べてください.
  • 低酸素血症(P/Fratioが150)があり,原因としては肥満によるもの,無気肺によるもの,
  • カテコラミン放出過剰による心筋障害で肺水腫を起こしている可能性などが考えられる.
  • たこつぼ型心筋症様症状を呈することがあるため,胸部レントゲンはもちろんのこと心エコーも施行しておく.
  • 挿管困難であり,3回トライされているため咽頭の浮腫などは抜管前にファイバで確認しておく.浮腫があればステロイドを投与しておく.
  • 脱水の補正と血圧コントロールを十分に行う?
  • 内分泌外科(あれば)や専門の外科医にコンサルト.

②【集中治療医への申し送り】患者は術後ICUに入室することになりました.試験管を集中治療医とみなして,申し送りを行ってください.(術中・術後の問題点,ICU入室となった理由を的確に述べること)
  • お疲れ様で〜す.
  • 挿管困難だったので抜管時には要注意.
  • 虫垂は問題なくとれたが,術前に副腎腫瘍が見つかっており(誰も気づいてなかった可能性もあるが・・・),気腹の刺激で著明な高血圧と頻脈を認めた.褐色細胞腫の可能性があります.
  • とりあえず投薬などでコントロールしたが,まだとれていない.
  • 肥満のせいか,もしくはカテコラミン過剰による影響で低酸素血症がある.
  • まずは適切な水分コントロール,血圧コントロールを行った後,診断をつけて必要なら褐色細胞腫の手術に備える必要があります.

 

コメント

  • 肥満やDAMに関してはもういいでしょう.
  • 褐色細胞腫の可能性を頭においているか(CTで疑えるか)がポイントですが,きちんと麻酔をしているのに急激な高血圧,とくれば問題的にはピンとくるとは思います.実際の臨床では「まさかね〜」とは思うでしょうが.
  • 過去にも問われていますが,聞かれることは決まっている感があります.
  • 術前に診断がついていれば,術前のコントロールについて,麻酔方法,モニタリング,バイタル変動時(手術開始後の高血圧,摘出後の低血圧)の対応です.
  • 今回のように偶発的であれば,バイタル変動への対処や手術続行の可否の判断 が問われるでしょう.