症例設定
【患者】
- 45歳女性.158cm,52kg(BMi20.8)
【現病歴】
- 3ヶ月前、自宅の階段で転倒し右手首を強打した。近医整形外科を受診し、右橈骨遠位端骨折(不安定型、関節内骨折)の診断となった。45歳と比較的若年で事務職として手指の細かい作業が必要なため、観血的整復固定術(掌側ロッキングプレート固定)を施行した。
- 術後は3日目からシーネ除去し早期可動域訓練を開始した。創部治癒も問題なく、術後2週間で抜糸、その後積極的なリハビリテーションを継続した。しかし、術後2ヶ月頃から右手首から手指にかけて「焼けるような」「電気が走るような」激しい痛みが出現した。軽く触れるだけでも激痛が走り、衣服が触れることも困難となった。また、右手の腫脹、発赤、皮膚温の上昇も認められるようになった。
- 整形外科でNSAIDsやプレガバリンを処方されたが効果は限定的で、日常生活・仕事に著しい支障をきたしている。疼痛管理目的にペインクリニック紹介となった。
【既往歴・生活歴】
- 特記事項なし
【主な検査所見・身体所見など】
バイタルサイン:
- 意識清明、体温36.8℃、血圧128/76mmHg、脈拍82/分・整、SpO2 98%(室内気)
右上肢所見:
- 右手首から手指にかけて軽度腫脹、発赤を認める
- 皮膚温:右手は左手と比較して明らかに温かい
- 発汗:右手掌の発汗亢進を認める
- 皮膚:右手背の皮膚にやや光沢を帯びた変化
- 毛髪・爪:明らかな変化は認めない
疼痛評価:
- NRS 8/10(安静時)、NRS 10/10(軽微な刺激時)
- アロディニア(+):綿花での軽い接触でも激痛
- 痛覚過敏(+):針刺激に対する過敏反応
- 冷アロディニア(+):冷たい物質への接触で激痛
運動機能:右手関節可動域制限(疼痛による)、握力著明低下
検査所見:
- 血液検査:WBC 6,200/μL, CRP 0.3mg/dL, ESR 15mm/h(炎症反応軽度上昇)
- X線:右橈骨遠位端の骨癒合は良好、プレート位置に問題なし、骨萎縮の所見あり
- 骨シンチグラフィー:右手首・手指領域に集積亢進
- サーモグラフィー:右手の皮膚温上昇(左右差 2.5℃)
Q1. この患者の診断と、その診断根拠について述べてください。
- 診断:CRPS(複合性局所疼痛症候群)1型
- 1型の根拠:明確な神経損傷がない(手術時に主要神経損傷なし)
【診断の根拠】
- アロディニアなど症状の基準を満たし,明確な外傷歴(橈骨遠位端骨折)と手術侵襲の存在,損傷に不釣り合いな持続性疼痛を認めることなどです.
- 補助的診断としては,骨シンチやサーモグラフィ,レントゲンでの骨萎縮やプレートの位置確認等を確認します.
補足・解説
- CRPSの詳細な症状,鑑別診断,典型的な症状の進展に関しては『日本ペインクリニック学会』のウェブサイト(学会発行物のページ)に掲載されている等を各自ご参照ください.
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