症例設定
【患者】
- 72歳女性。
【現病歴】
- 3か月前に左第7胸髄神経支配領域に帯状疱疹を発症。皮疹は治癒したが、疼痛が持続し徐々に増強している。近位内科を受診し,内科医からの紹介で当院ペインクリニックを受診した。
【既往歴】
- 高血圧
- 2型糖尿病
- 骨粗鬆症
【現在までの疼痛治療歴】
- ロキソプロフェン60mg×3回/日(2か月間)→ 無効
- トラマドール25mg×2回/日(1か月間)→ 軽度改善も副作用で中止
- アセトアミノフェン500mg×3回/日(現在継続中)→ 効果不十分
【疼痛評価・身体所見など】
疼痛評価
- NRS: 7/10(安静時)、10/10(接触時)
- 疼痛部位: 左T7皮膚分節に沿った帯状分布
- 疼痛性質: 持続性灼熱痛、間欠性電撃様痛、アロディニア、ハイパーアルジア
- 睡眠障害: 夜間覚醒3〜4回、入眠困難
身体所見
- 皮膚: 左T7領域に色素沈着、瘢痕化した皮疹痕
- 感覚検査: 左T7領域に感覚鈍麻とアロディニア併存
- 運動機能: 正常
- 精神状態: 軽度抑うつ、疼痛への恐怖
検査所見
- 血算: WBC 6,200/μL、Hb 11.8 g/dL、Plt 28.5万/μL
- 生化学: BUN 18 mg/dL、Cr 0.9 mg/dL、HbA1c 6.8%
- 肝機能: AST 24 U/L、ALT 21 U/L、γ-GTP 35 U/L
- VZV抗体: IgG陽性、IgM陰性
Q1. 帯状疱疹発症時の帯状疱疹後神経痛予防のための早期介入について説明してください。
- 帯状疱疹後神経痛への移行を防止するためには、抗ウイルス薬の早期投与が重要です。
- 初期治療では,発症から速やかに抗ウイルス薬(アシクロビル,バラシクロビルなど)を開始し,一定期間継続投与(目安として一週間程度)することが重要です.
- 疼痛管理は,軽症例ではNSAIDsやアセトアミノフェンから開始します.重症例や,軽症例で効果不十分な場合は,プレガバリンや三環系抗うつ薬の投与,オピオイドの使用,神経ブロックなどを考慮します.
- 神経ブロックの早期実施:急性期から亜急性期(1ヶ月程度〜)での硬膜外ブロックやステロイド併用ブロックにより,神経炎症の抑制と帯状疱疹後神経痛への移行予防が期待できます.
- また,帯状疱疹の自然経過,帯状疱疹後神経痛のリスク,早期治療の重要性について説明し,症状悪化時の早期受診を促します.特に高齢者では,「年のせい」として症状を軽視する傾向があるため,積極的な治療参加の重要性を強調します.
Q2. 帯状疱疹後神経痛の診断基準と、本症例で確認すべき症状・徴候について説明してください。
- 一般的にPHNは「帯状疱疹の皮疹治癒後一定期間(目安として3ヶ月以上)持続する疼痛」としてされています.ただし,臨床的には皮疹治癒後1ヶ月以上の疼痛も帯状疱疹後神経痛として治療対象とすることが多く,早期の治療介入が重要視されています.
- 典型的には持続性の灼熱痛,間欠性の電撃様痛,軽い接触でも激痛が生じるアロディニア,痛覚過敏が認められます.疼痛部位は帯状疱疹が発症した皮膚分節に一致する特徴があります.
- 急性期は炎症性疼痛が主体で,NSAIDsやステロイドが有効なことが多いのに対し,帯状疱疹後神経痛は神経障害性疼痛が主体で,通常の鎮痛薬は効果が限定的または無効です.
補足・解説
- 追加の評価項目として、日常生活への影響度(ADL、QOL評価)、睡眠障害の程度、精神的影響(抑うつ、不安)、社会的な生活への影響の評価も重要です。
- 特に高齢者では疼痛による活動性低下が廃用症候群やフレイルの進行につながる可能性があります。
Q3. 帯状疱疹後神経痛の評価ツールにはどのようなものがありますか??
- Neuropathic Pain Scale (NPS),DN4質問表,Zoster Brief Pain Inventory (ZBPI)などが使用されます.
補足・解説
- それぞれの詳細は,公式ガイドライン等を参照してください(中身までは聞かれることはないと思います).
- NRSやVASは疼痛の強度を数値化するツールですが,神経障害性疼痛の複雑な症状を包括的に評価するには不十分です
- 帯状疱疹後神経痛では,持続痛,発作性疼痛,アロディニア,痛覚過敏など異なる性質の疼痛が混在し,それぞれが患者のQOLに異なる影響を与えるため,単一の数値では表現するには限界があります
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