📘【想定問題】顔面骨骨折整復固定術

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症例設定

【患者】

  • 32歳男性.175cm,98kg(BMI32)

【現病歴】

  • バイク走行中に乗用車と衝突し,顔面を強打.救急搬送され,CT検査で「右下顎枝骨折(偏位7mm)および左側頬骨弓骨折(内側偏位)」と診断.受傷後36時間経過し,顔面腫脹が増悪,開口障害(開口量 1.0cm以下)を認めている.骨片の著しい偏位と進行性の開口障害による咀嚼機能障害のため,通常の待機期間(数日)を待たず,早期の下顎骨観血的整復固定術および頬骨弓整復術が予定されている.担当外科医は「骨片の偏位が大きく,このまま放置すると整復が困難になる可能性がある」と判断している.

【既往歴】

  • 10年前より気管支喘息(軽症持続型)で加療中
  • 2年前より睡眠時無呼吸症候群(AHI 25/時)と診断され,フルフェイス型CPAP療法中(コンプライアンス良好)
  • アレルギー:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)でアスピリン喘息の既往あり
  • 喫煙 10本/日×12年(こらー),飲酒 機会飲酒程度
  • 腹腔鏡下虫垂切除術(周術期に問題なかった)

【服用中薬剤】

  • ブデソニド/ホルモテロール 160/4.5μg 2吸入 1日2回(喘息管理)
  • モンテルカスト 10mg 1日1回(喘息管理)
  • アセトアミノフェン 500mg 1日3回(受傷後から疼痛管理目的)
【検査所見・バイタルサインなど】

バイタルサイン

  • 血圧 126/78 mmHg,心拍数 82/分・整,SpO₂ 98%(室内気),体温 36.8℃,呼吸数 16/分

血算・生化学:特記事項無し

動脈血液ガス:

  • pH 7.40,PaO₂ 92 mmHg,PaCO₂ 38 mmHg,HCO₃⁻ 23 mEq/L,BE -1.0

12誘導心電図:正常洞調律,特記すべき異常所見なし

胸部X線:肺野清,心胸郭比 48%,気管偏位なし

呼吸機能検査:FVC 4.2L(予測値の 85%),FEV1 2.9L(予測値の 75%),FEV1/FVC 69%

顔面・頭部CT:

  • 右下顎角部から下顎枝にかけての骨折線あり(偏位 7mm)
  • 左頬骨弓骨折(内側偏位)
  • 両側上顎洞に液体貯留あり(血腫と考えられる)
  • 頚部・気道周囲の著明な腫脹あり
  • 頭蓋内出血や頚椎損傷の所見なし

気道評価

  • Mallampati分類:評価困難(開口障害のため)
  • 開口量:最大1.0cm(痛み・腫脹による制限あり)
  • 顎関節可動性:右側で著明に制限
  • 頚部伸展:正常範囲内
  • 甲状軟骨-オトガイ間距離:6.5cm

最近の喘息コントロール評価:良好

  • 過去4週間の日中症状:週1回未満
  • 夜間症状:月1回程度
  • 発作治療薬使用:週1回未満
  • 活動制限:なし
  • 最近の急性増悪:なし(過去1年間)

OSASの評価

  • AHI 25/時.CPAP導入前の最低酸素飽和度78%
  • 現在CPAP導入中.治療コンプライアンスは良好
  • 以前は昼間の眠気等の症状があったが,CPAP導入後は改善.
Q1. 顔面骨骨折患者の周術期管理において,術前評価のポイントを説明してください.
  • 受傷機転の詳細確認:高エネルギー外傷(交通事故,転落)か低エネルギー外傷か
  • 初期診療録の確認:搬送時GCS,バイタルサイン変動,意識障害の有無
  • 神経学的評価:意識レベル,脳神経障害,運動・感覚障害,反射異常
  • 頚部評価:頚部圧痛,可動域制限,筋力低下,放散痛の有無,頸髄損傷の有無
  • 胸部評価:呼吸音左右差,皮下気腫,打診音変化,SpO₂変動
  • 画像検査:
    • 頭頚部CT:頭蓋内出血,頚椎骨折,気道周囲血腫や浮腫の有無
    • 胸部X線/CT:気胸,血胸,肺挫傷,肋骨骨折の有無
    • 必要に応じた全身CT:多発外傷評価

特に高エネルギー外傷の場合は,顔面骨骨折に加えて頭蓋内損傷(15-48%),頚椎損傷(3-10%),胸部外傷(5-15%)の合併率が高く,系統的評価が必須です.

Q2. 本症例のように睡眠時無呼吸症候群(OSA)合併患者の顎顔面骨折手術における,1)OSAの術前評価と周術期リスク評価,2)術前のCPAP治療中断に伴うリスク対策について説明してください.

OSAの術前評価と周術期リスク評価

  • 本患者は,AHI 25/時の中等症OSAがあり,CPAP療法でコントロールされています.今回の手術においては顎間固定予定がされている上,顔面腫脹のため術後にOSA悪化のリスクが高く,慎重な周術期呼吸管理が求められます.
  • 本患者はSTOP-Bangスコアが高値(肥満、OSA既往あり、男性など)であり、術後呼吸器合併症リスクが高いと考えられます.
  • また,若年ではありますが,心エコーで肺高血圧や右心不全の評価も行っておきます.
  • 術式特有のリスクとして,手術後の上気道解剖学的変化,顎間固定によるCPAP使用困難の可能性,気道系の腫脹によるOSAの悪化などがあります.

術前のCPAP治療中断に伴うリスク対策

  • CPAP使用中断のリスクとして,OSA症状の急速な再発(1-3日以内),夜間低酸素血症の増悪,交感神経系活性化と血圧上昇,上気道浮腫の増悪,術後呼吸器合併症リスク上昇などがあります.
  • 可能で有ればCPAP使用継続を行います.:
  • 腫脹や装着による疼痛があり使用できない場合は,入院中はHFNCの使用や,下記の体位療法などを行います.
  • 体位療法の指導:
    • 側臥位での睡眠推奨
    • 頭位挙上30度以上の体位での睡眠
    • 頸部中間位維持の指導
  • 手術当日は鎮静のための前投薬は使用しません.

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