症例設定
【患者】
- 65歳男性.172cm,82kg(BMI27.7)
【現病歴】
- 2ヶ月前から嗄声あり。喉頭内視鏡検査にて右声帯ポリープを認め、喉頭微細手術(CO₂レーザー使用)が予定された。
【既往歴】
- 高血圧症(10年前から)
- 2型糖尿病(7年前から)
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)(5年前から、GOLD stage II)
- 虚血性心疾患(3年前に右冠動脈にステント留置)
【服用中薬剤】
- アムロジピン5mg 1×朝、
- メトホルミン750mg 2×朝夕
- グリメピリド1mg 1×朝
- クロピドグレル75mg 1×朝
- サルメテロール/フルチカゾン吸入 2×朝夕
【主な検査所見・バイタルサインなど】
バイタルサイン
- BP 142/88mmHg、HR 76/分、SpO₂ 95%(room air)、RR 16/分
血液検査
- Hb 14.2g/dL、Plt 22.5万/μL、WBC 8200/μL
- Glu 148mg/dL、HbA1c 7.2%
- BUN 18mg/dL、Cr 0.94mg/dL、
- Na 140mEq/L、K 4.2mEq/L、
- AST 28U/L、ALT 32U/L
- PT-INR 1.05、APTT 30.5秒
画像検査など
- 心電図:洞調律、II, III, aVFでST低下0.5mm
- 胸部X線:両肺に軽度過膨張所見、心胸郭比 50%
- 呼吸機能:FEV1.0 2.15L、%FEV1.0 65%、%VC 85%
- 心エコー:EF 58%、下壁の局所壁運動低下あり、中等度異常の弁膜症なし
- 気道評価:Mallampati分類 ClassⅡ、開口2横指、頸部伸展制限なし、甲状軟骨-オトガイ間距離 6.5cm
- 術前検査:喉頭ファイバースコープで右声帯ポリープ(直径5mm)を認める。声門上・声門下の狭窄なし。
Q1. 本症例における周術期の心筋虚血リスクを評価し、予防・早期発見・対処法について説明してください
- 虚血性心疾患(3年前に右冠動脈ステント留置)・糖尿病・高血圧・COPDという複数の心筋虚血リスク因子を有しています。
- 周術期リスク評価ではRCRIでは虚血性心疾患(1点)で低〜中リスク(約1〜5%の主要心臓イベント発生率)に分類されます(糖尿病はあるが現時点ではインスリンは使用していない)。
- 周術期のイベント予防としては
- 術前βブロッカーを内服している場合は継続(本症例ではなし)
- 術中血行動態の安定化(頻脈,低血圧を防止する)
- 貧血の回避
- 適切な体温管理(低体温防止)
- 十分な鎮痛(交感神経系亢進を防止)。を行います.
- 早期発見のためには,術中心電図モニタリング(ST変化、不整脈)、四肢誘導に加えV4 or V5をモニタリング,
- 術中経食道心エコー(本症例では術野的に不可)が有用です.
- 心筋虚血を発症した場合は,酸素濃度上昇,血行動態の安定化(心筋酸素需給バランス改善)、③硝酸薬やニコランジルの投与、循環器科コンサルト、持続する虚血・血行動態不安定時や重篤な場合は,手術を中止し緊急冠動脈造影も検討します.
Q2. 本症例の患者は手術前日に入院でしたが,クロピドグレルの中止ができていませんでした.どのように対応しますか?手術チームとのコミュニケーションも含めて説明してください。
対応:
- クロピドグレルは一般に5〜7日前に中止推奨(ASAガイドライン、JSAガイドライン)です.
- 患者および手術チームへの情報共有(最終的にはこのような事例の防止対策)
- リスク評価(ポリープ手術での出血リスク、緊急性)、
- 手術の延期、予定通り実施するかを,主治医や循環器科と協議します.
- 患者にリスク・ベネフィットの説明を行います「延期なら出血リスク低下するが、ステント血栓症リスクはない」「予定通り実施なら術中出血増加の可能性」.
- 手術を行う場合は,もう一度同意書等の文書化を行います.
本症例では声帯ポリープは緊急性が低いため、1週間程度の延期を提案し、次回はクロピドグレル中止プランを明確にする方が安全と考えられます(これが無難).
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