📘【想定問題】経蝶形骨洞下垂体腫瘍摘出術

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補足・解説

【患者】

  • 45歳女性.155cm,76kg(BMI31.6)

【現病歴】

  • 2年前から顔の満月様顔貌,中心性肥満,筋力低下を自覚.半年前より高血圧と易疲労感が増悪し,内科を受診.血液検査で高コルチゾール血症を認め,下垂体MRIで径12mmの腫瘍を指摘され,Cushing病と診断された.内科的コントロール後,経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術(経鼻アプローチ)が予定されている.

【既往歴】

  • Cushing症候群(ACTH産生下垂体腫瘍)
  • 続発性高血圧(2年前〜)
  • 耐糖能異常
  • 骨粗鬆症(胸腰椎圧迫骨折 Th12)
  • 尿路感染症(3か月前)

【服用中薬剤】

  • アムロジピン 5mg/日
  • オルメサルタン 20mg/日
  • メトホルミン 500mg/日
  • メチラポン 1500mg/日(コルチゾール産生抑制薬)
  • ヒドロコルチゾン 10mg/日(メチラポン投与中のステロイドカバー)
【主な検査所見・バイタルサインなど】

血液検査

  • Hb 12.8 g/dL,Ht 38.0%,WBC 9,800/μL,Plt 25.5万/μL
  • PT-INR 1.05,APTT 32秒
  • Na 144 mEq/L,K 3.2 mEq/L,Cl 102 mEq/L,Ca 9.0 mg/dL
  • BUN 16 mg/dL,Cr 0.7 mg/dL,eGFR 75 mL/min/1.73m²
  • AST 32 U/L,ALT 38 U/L,ALP 280 U/L,T-Bil 0.8 mg/dL
  • 血糖 132 mg/dL,HbA1c 6.8%
  • コルチゾール 25.6 μg/dL(基準値:4.0-19.3),ACTH 78 pg/mL(基準値:7.2-63.3)
  • 尿中遊離コルチゾール 248 μg/日(基準値:11.2-80.3)
  • 血液型:A型 Rh(+)

バイタルサイン

  • 血圧 142/88 mmHg,心拍数 88/分,SpO₂ 97%(室内気),体温 36.6℃
  • 身体所見:満月様顔貌,buffalo hump,腹部皮膚線条,末梢浮腫,多毛

術前検査

  • 心電図:洞調律,左室肥大所見
  • 胸部X線:CTR 54%,肺野清
  • 呼吸機能検査:VC 2.5L(%VC 85%),FEV1.0 2.0L(FEV1.0% 80%)
  • 心エコー:EF 65%,左室壁肥厚あり,弁膜症なし
  • 気道評価:Mallampati分類 Class III,開口制限なしだが,口は小さい,甲状軟骨-オトガイ間距離 5cm.顎は小さめ
  • MRI:トルコ鞍内に15×12mm大の腫瘍,視交叉への圧排軽度,海綿静脈洞浸潤なし
Q1. この患者のCushing症候群に関連する周術期リスクを列挙し,術前の管理方法について説明してください.

心血管系のリスク

  • 高血圧: 術前に適切な降圧薬でコントロール(収縮期血圧<160mmHg).本症例では術前値142/88mmHgでありまずまず
  • 心肥大: 左室肥大を認めるが収縮能はOK.

代謝に関わるリスク

  • 耐糖能異常: 血糖管理(目標値140〜180mg/dL).本症例ではHbA1c 6.8%とコントロール良好.
  • 電解質異常(低K血症): 術前にK値≧3.5mEq/Lを目標に補正.本症例ではK 3.2mEq/Lと軽度低値であり,術前の補正を考慮します

分泌過剰状態の是正:

  • メチラポン投与によるコルチゾール産生抑制(目標: 正常範囲上限程度).
  • 本症例ではメチラポン1500mg/日投与中だが,術前コルチゾール値は依然高値(25.6μg/dL)で追加調整を検討.

その他の対応

  • 骨粗鬆症: 頸椎不安定性評価と術中体位による骨折リスク回避.
  • 感染リスク: 予防的抗菌薬の適切な選択と投与.
  • 皮膚脆弱性: 圧迫部位の保護,静脈路確保時の注意.肥満も有りリスク高い
  • 肥満/気道評価: そこそこの肥満有り.念のためDAMカート準備.
  • 術前の尿路感染症の除外(検尿)
Q2. 本症例の術中血糖管理の目標値とその根拠,および高血糖時の対応について述べてください.

術中血糖管理の目標値:

  • 目標範囲: 140〜180 mg/dL

目標値設定の根拠:

  • インスリンによる厳格な血糖管理(80〜110 mg/dL)は低血糖リスクが高く,生命予後改善効果がNICE-SUGAR試験などで否定されています.
  • Cushing症候群患者は:
    • インスリン抵抗性による高血糖リスクが高い
    • 術中ステロイド投与による血糖上昇
    • 腫瘍摘出後のコルチゾール急減による血糖変動
  • 脳神経外科手術では高血糖が脳虚血後の神経学的予後悪化と関連するため,厳格すぎない適切な範囲設定が重要

術中高血糖(180 mg/dL超)発生時の対応:

  • インスリン投与は各病院のスライディングスケールを使用(以下は例)
    • 血糖180〜220 mg/dL: 速効型インスリン1-2単位
    • 血糖220〜270 mg/dL: 速効型インスリン2-4単位
    • 血糖270 mg/dL以上: 速効型インスリン4-6単位
  • 投与後30〜60分で再評価し,効果不十分なら増量
  • 持続インスリン投与も選択肢(例:0.5〜2単位/時から開始)
  • インスリン使用時は,血清カリウム値もモニタリングします.

本症例(Cushing症候群)における注意点

  • 腫瘍摘出前後での変動リスク:
    • 摘出前: コルチゾール過剰によるインスリン抵抗性
    • 摘出後: コルチゾール急減による相対的インスリン感受性亢進
  • ステロイド補充(ヒドロコルチゾン)による血糖上昇効果
  • 術中ストレス(出血イベントがあった場合など)による血糖変動

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