症例設定
【患者】
- 52歳男性.172cm,78kg(BMI 26.4)
【現病歴】
- 2か月前から時折言葉が出にくくなる症状を自覚し,1か月前に近医を受診.頭部MRIで左前頭葉-側頭葉移行部に約3.5cmの腫瘍性病変を指摘され,当院脳神経外科紹介.病変は言語野(ブローカ野)に近接しており,生検の結果,WHO grade II低悪性度グリオーマと診断.術前に軽度の喚語困難はあるものの,言語理解は良好で日常会話に支障なし.2週間前に初回の部分発作型てんかん(右上肢のけいれん)を経験し,レベチラセタム500mg 1日2回内服開始.言語野近傍の腫瘍であるため,機能温存と最大限の摘出を目指して覚醒下開頭術が計画された.
【既往歴】
- 高血圧症(10年前から)
- 脂質異常症(5年前から)
- 睡眠時無呼吸症候群(3年前から,CPAP使用中)
- 20年前に交通事故による右下腿骨折(全身麻酔歴あり,特に問題なし)
【服用中薬剤】
- アムロジピン 5mg 1×朝食後
- ロスバスタチン 2.5mg 1×夕食後
- レベチラセタム 500mg 2×朝夕食後(術前2週間前から)
【主な検査所見・バイタルサインなど】
バイタルサイン:BP 146/92mmHg、HR 74/分、SpO₂ 96%(room air)、RR 14/分
血液検査
- Hb 14.2g/dL、Plt 18.5万/μL、WBC 6200/μL
- Glu 138mg/dL、HbA1c 6.8%、
- BUN 18mg/dL、Cr 0.88mg/dL
- AST 22U/L、ALT 24U/L
- Na 140mEq/L、K 4.2mEq/L、
- PT-INR 1.02、APTT 31.5秒
心電図:洞調律、軽度左室肥大所見
胸部X線:両肺野に軽度過膨張、心胸郭比 51%
呼吸機能:FEV1.0 2.38L、%FEV1.0 72%、%VC 95%
心エコー:EF 62%、左室壁運動正常、弁膜症なし
気道評価:Mallampati分類 ClassⅡ、開口制限なし、頸部伸展制限なし,甲状軟骨-オトガイ距離 >6.5cm
頭部MRI:左側頭葉に造影効果を伴う腫瘍、周囲に軽度浮腫あり、正中偏位なし
神経学的所見
- 意識清明,高次脳機能は正常
- 軽度の喚語困難あるが,日常会話に支障なし
- 運動・感覚機能に異常なし
- 術前の言語評価:物品呼称で軽度遅延あるが,90%以上正答可能
【予定術式】
- 覚醒下開頭腫瘍摘出術(言語野マッピング)
Q1. 覚醒下開頭術の麻酔管理において、術前評価で特に注意すべき点は何ですか?
- 患者の協力が適切に得られるか.術中課題の理解と実行が可能な認知機能と言語機能を有していること,極度の不安や恐怖がなく協力的であることが必須条件.
- 気道評価(困難気道予測因子)
- 呼吸機能(睡眠時無呼吸など)
- 循環機能(高血圧など)
- 脳神経機能(言語・運動機能,てんかん既往)の評価が重要です.
- 本症例では,①睡眠時無呼吸症候群があり鎮静中の気道閉塞リスクがあること,②高血圧症があり覚醒時の血圧変動リスクがあること,③てんかん発作の既往があり術中発作のリスクがあること,④言語野近傍の腫瘍であり術中言語評価の正確性が求められること,が求められます.
- また,術前に抗てんかん薬(レベチラセタム)が開始されていますが,血中濃度が十分かどうかも評価すべきです.
Q2. 本症例の麻酔導入計画について説明してください.なお,Asleep-Awake-Asleep法で行う予定です.
- まず静脈麻酔薬(プロポフォール)によるTCI管理で鎮静し,少量レミフェンタニル(0.1μg/kg/分程度)やフェンタニルを併用します.気道確保は自発呼吸を維持したまま経鼻エアウェイを使用します.挿管は行わず,覚醒時の発声に備えます(施設ごとで色々バリエーションはあると思います).
- 経鼻エアウェイ挿入時は、リドカイン含有ゼリーで十分な潤滑を行い、鼻粘膜損傷と出血を予防
- 特にこの患者はSASがあるため,麻薬投与は慎重に行います.レミフェンタニル開始後は呼吸数を持続モニターし、10回/分未満や換気低下傾向があれば投与量の調整を行います.可能で有ればBISモニタリングを行います.
- 鎮痛のための局所麻酔をしっかりと行います.
- 頭部固定ピン刺入部:1%リドカイン+エピネフリン(1:100,000)で皮下浸潤
- 頭皮切開予定線:0.75%ロピバカイン+エピネフリン(1:400,000)で浸潤麻酔
- 主要な頭皮神経ブロック:眼窩上神経,耳介側頭神経,後耳介神経,大後頭神経に各5mL程度の0.75%ロピバカインを注入.ロピバカインは3mg/kgを超えないように.
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