📘【想定問題】前縦隔腫瘍摘出術(胸骨正中切開)

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症例設定

【患者】

  • 58歳女性.160cm,61kg(BMI24)

【現病歴】

  • 2か月前から顔面浮腫,頸部腫脹,息切れを自覚.徐々に症状が増悪し,座位でないと睡眠困難となったため受診.胸部CTで上部前縦隔に78×65×60mm大の腫瘤を認め,上大静脈を高度に圧迫していた.気管への軽度圧迫所見あり.上大静脈症候群と診断され,副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン8mg/日)とヘパリン(10,000単位/日)による治療を開始.症状はやや軽減するも持続している.確定診断と治療目的で腫瘍摘出術(胸骨正中切開)が予定された.

【既往歴】

  • 甲状腺機能低下症(5年前〜):レボチロキシン75μg/日
  • 軽度貧血:特に治療なし
  • 既往手術:30年前に虫垂切除術(麻酔合併症なし)
【主な検査所見・バイタルサインなど】

バイタルサイン:BP 132/78 mmHg,HR 92/min,RR 20/min,SpO₂ 94%(室内気),体温 36.5℃

血液検査

  • WBC 8,200/μL,Hb 10.8g/dL,Plt 23.5万/μL
  • T-Bil 0.6 mg/dL,AST 24 U/L,ALT 28 U/L,
  • Cre 0.72 mg/dL,BUN 15 mg/dL,
  • Na 138 mEq/L,K 4.0 mEq/L,Cl 104 mEq/L
  • PT-INR 1.15,APTT 38秒
  • 甲状腺機能:TSH 3.2 μIU/mL,FT4 0.95 ng/dL(基準内)

心電図:洞頻脈,明らかな虚血性変化なし

胸部X線:上部縦隔拡大,腫瘤陰影による気管軽度偏位

胸部CT:上部前縦隔に78×65×60mm大の充実性腫瘤.上大静脈は高度に圧迫され内腔狭小化.奇静脈・半奇静脈の拡張あり.気管は軽度圧迫・右方偏位あるも内腔は保持.

呼吸機能検査:VC 2.28L(予測値の80%),FEV1 1.78L(FEV1/FVC 78%)

心エコー:EF 65%,有意な弁膜症なし,右心系拡大なし

気道評価:Mallampati III度,甲状軟骨-顎先間距離 5.5cm,開口制限なし

Q1. 上大静脈症候群による静脈還流障害の病態について説明してください.
  • 上大静脈の狭窄・閉塞により,頭頸部および上肢からの静脈還流が著しく障害されます.これにより当該領域の静脈圧が上昇し,毛細血管からの体液漏出が増加することで浮腫(顔面、頸部、上肢、気道)が生じます.
  • 重症例では脳浮腫や頭蓋内圧亢進をきたすこともあります.
  • また,右心房への静脈還流が減少するため,前負荷が低下し心拍出量が減少する可能性があります.
  • 代償機構として側副血行路(奇静脈系、内胸静脈、外側胸静脈、椎骨静脈叢など)が発達しますが,その程度によって症状の重症度が異なります.
Q2. 上大静脈症候群を合併した縦隔腫瘍患者における麻酔リスク評価について説明してください.
  1. リスク評価
    • 気道評価:
      • 腫瘍による気管圧迫・偏位の程度(本症例では軽度〜中等度)
      • 顔面・頸部浮腫による気道確保困難のリスク
      • 声帯・声門上浮腫の可能性
      • 浮腫に対しては頭高位や,術前の利尿薬,ステロイド(デキサメタゾン)を考慮
    • 循環評価:
      • 上大静脈閉塞の程度と側副血行路の発達状況.
      • 右心系への還流障害とそれに伴う心拍出量低下
      • 静脈内の血栓の有無(ヘパリン使用中であるため,術前の抗凝固薬中止期間,APTT評価が必要)
    • 呼吸評価:
      • 腫瘍による換気障害(気道圧迫,肺圧排)
      • 胸水貯留の有無
      • 座位でないと眠れないなどの体位による症状の程度
  2. 本症例の実際の注意点
    • 軽度気管圧迫があるため,麻酔導入時の気道確保リスクが高い.
    • 上大静脈狭窄が高度であるため,静脈路確保は下肢で行う(末梢静脈ライン or CVC).慢性の経過で側副血行路が十分発達し,浮腫も高度でなければ上肢からの静脈路確保は必ずしも禁忌ではないです.

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