📘【想定問題】胸腔鏡下胸腺摘出術

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症例設定

【患者】

  • 65歳男性.172cm,82kg(BMI28)

【現病歴】

  • 3か月前から複視と眼瞼下垂,易疲労感が出現.1か月前から四肢近位筋の脱力感も自覚し,神経内科を受診.抗AChR抗体陽性(12.5 nmol/L)で重症筋無力症と診断された.胸部CTにて前縦隔に45mm大の腫瘤を認め,胸腺腫が疑われた.プレドニゾロン10mg/日とピリドスチグミン180mg/日の内服治療を開始し,症状は改善傾向.胸腔鏡下胸腺摘出術(仰臥位)が予定された.

【既往歴】

  • 高血圧症(10年前〜):アムロジピン5mg/日
  • 2型糖尿病(8年前〜):メトホルミン500mg/日,HbA1c 7.2%
  • 喫煙歴:20本/日×45年(現在も継続)
【主な検査所見・バイタルサインなど】

バイタルサイン:BP 148/85 mmHg,HR 78/min,RR 16/min,SpO₂ 95%(室内気) 血液検査

  • 血算:WBC 6,800/μL,Hb 14.2g/dL,Plt 22.5万/μL
  • 生化学:AST 28 U/L,ALT 32 U/L,Cre 0.81 mg/dL,BUN 18 mg/dL,Na 140 mEq/L,K 4.1 mEq/L,Cl 102 mEq/L,Glu 132 mg/dL
  • 凝固:PT-INR 1.02,APTT 32秒

心電図:洞調律,特記すべき異常所見なし

胸部X線:前縦隔の腫瘤陰影,軽度肺気腫変化

胸部CT:前縦隔に45×38×32mm大の境界明瞭な腫瘤.気管・血管への明らかな浸潤所見はない.

呼吸機能検査:FVC 3.25L(予測値の82%),FEV1 2.15L(FEV1/FVC 66%),拡散能72%

血液ガス分析(室内気):pH 7.42,PaO₂ 75 mmHg,PaCO₂ 38 mmHg,HCO₃⁻ 24 mEq/L,BE 0.5 mEq/L

術前QMGスコア:10点(眼症状3点,球症状1点,四肢・体幹筋力6点)

Q1. 本症例のステロイドカバーの必要性の有無について説明してください.
  • 厳密な定義や投与量・投与方法に関して確立されたものはありませんが,本症例では以下のように行います.
  • 本症例では10mg/日のプレドニゾロン(ヒドロコルチゾン換算として40mg)であるため,ステロイドカバーが必要と考えます.
  • 本症例は問題なく行われる場合は中等度(開胸移行を行った場合は高侵襲と判断される)手術とされるため,術前にヒドロコルチゾン50-75mg,術中は25-50mgを6-8時間毎,術後1日目は20mgを6-8時間毎に投与します(煩雑ではあるため,さしあたり術前と術後に50〜100mg程度のヒドロコルチゾンを投与して様子を見てもいいかも・・?)
Q2. 本症例における術前抗コリンエステラーゼ薬(ピリドスチグミン)の管理について説明してください.
  • コリン作動性クリーゼを避けるため手術当日の内服は中止することが多いです
  • しかし,重度の筋無力症状がある場合,症状増悪予防と術後抜管時の筋力維持を考慮して継続することもあります.
  • 継続する場合,非脱分極性筋弛緩薬の必要量が増加する可能性があるため,術中の慎重なモニタリングが必要です.
  • 主治医や神経内科医との協議のもと,個々の症例に応じた判断が重要です.重症筋無力症の主治医が他院の場合は,診療情報提供書の送付や術前内服に関してコンサルトを行っておきます.
補足・解説

細かく見ると,具体的に以下のような選択肢があります.

  1. 術当日朝まで通常量継続投与する選択肢
    • 根拠
      • 筋力の急激な低下を防止できる
      • 術前の症状コントロールの維持が可能
      • QMGスコア10点と中等度の症状があり,薬剤中止でのリスクが高い
    • 留意点
      • 非脱分極性筋弛緩薬(ロクロニウム)の効果が減弱する可能性
      • 術中・術後の心拍数変動(特に徐脈)が生じやすい
      • 気管支分泌物増加の可能性がある
  2. 術前12-24時間前から減量または中止する選択肢
    • 根拠
      • 非脱分極性筋弛緩薬の効果予測が容易になる
      • 薬物相互作用のリスク軽減
      • 術後の評価(クリーゼとの鑑別)が容易になる
    • 留意点
      • 術前の筋力低下が悪化する可能性
      • 呼吸筋力低下による術前合併症リスク
      • 半減期(3-4時間)を考慮した計画的減量が必要
  3. 量を調整して継続する選択肢
    • 根拠
      • 眼症状・球症状(QMGスコア4点)コントロールのために最低限の量を維持
      • 四肢筋力低下(QMGスコア6点)は術前ステロイド治療で安定
      • 急激な中止による反跳現象の予防
    • 留意点
      • 至適減量の個別調整が必要
      • 術中の反応の予測が複雑
      • 薬物動態の個人差を考慮
  4. 術直前まで通常量継続し,術後早期に再開する選択肢
    • 根拠
      • 術前のADL・QOL維持
      • 術後クリーゼの予防効果
      • 早期離床・リハビリテーション促進
    • 留意点
      • 術後のコリン作動性クリーゼとの鑑別が困難
      • 麻酔薬と相互作用の可能性
      • 再開タイミングの判断が難しい

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