症例設定
【患者】
- 5歳男児.115cm,25kg(標準に比べてやや高慎重,高体重.肥満気味)
【現病歴】
- 2か月前から右鼠径部の膨隆を認め,小児外科を受診.右鼠径ヘルニアと診断され,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術が予定された.現在は痛みの訴えはなく,嵌頓の既往もない.
【既往歴】
- 3歳時に気管支喘息と診断.現在は安定しており,過去12か月間発作なし
- アレルギー:ハウスダスト,卵白(軽度)
- 予防接種:定期接種はすべて完了
- 入院歴・手術歴:なし
- 先天性心疾患の既往:なし.卵円孔開存なし.
【服用中薬剤】
- モンテルカスト 4mg 1日1回 就寝前
- フルチカゾンプロピオン酸エステル吸入剤 50μg 1日2回(発作時のみ,現在は使用していない)
【主な検査所見・バイタルサインなど】
バイタルサイン・身体所見
- HR 95bpm,BP 95/60mmHg,RR 20回/分,SpO₂ 99%(室内気)
- 気道評価:Mallampati分類 Class I,開口制限なし,頸部伸展良好
- 呼吸音:清,喘鳴なし
- 心音:整,雑音なし
- 腹部:平坦,軟.右鼠径部に還納可能な膨隆あり
その他の検査
- 特記すべき所見なし
Q1. 本症例の麻酔前評価において,特に注意すべき点は何ですか?また,術前に必要な追加情報があれば挙げてください.
- 気管支喘息の評価:過去12か月間発作がなく現在は薬物治療も必要としていないため,コントロール良好と判断できますが,最終発作時期,重症度,過去の入院歴,気管支拡張薬の反応性について両親に確認しておきます.
- 最近の上気道感染の有無,両親の喫煙についても聴取しておきます.
- 肥満の評価:BMI 18.9,肥満度+15%とやや肥満傾向があります.小児の肥満は気道確保困難のリスク因子となり,また腹腔鏡手術における換気への影響が懸念されます.
- 絶飲食状況の確認:小児における適切な絶飲食時間(固形物6時間以上,清澄水2時間以上)の確認が必要です(こっそりお菓子とか食べそう).
- 小児の不安軽減のための説明や前投薬の必要性を評価します.
Q2. 小児の腹腔鏡手術で,成人と比較して特に注意すべき点について説明してください.
- 呼吸に関しては,成人に比べてクロージングボリュームが大きく,気腹による横隔膜挙上とFRC低下により無気肺を生じやすいため,低酸素血症のリスクが高くなります.また,気管も短いため,成人よりも気管支挿管になりやすいです.
- また,カフなしチューブ使用時は気道内圧上昇によるリークで換気不全を起こしやすく,マイクロカフチューブの使用やPEEP付加が有効かもしれません.
- 循環に関しては,気腹による静脈還流低下の影響を受けやすくなります.
- 輸液に関しては,気腹中の乏尿に対する過剰輸液に注意します.
- 成人に比べて術野の確保のために重力によるアシストが必要になることが多く,術前の体位変換や手術台の傾きの許容範囲などの確認が重要になります.
- 比較的新しい気腹装置(視野の維持のための圧力検知機能を有する高流量気腹装置)では低体温に注意が必要です.
補足・解説
- 新生児の場合は動脈ラインによる血圧モニタリングが推奨されます.また,左右シャントの再開通や静脈ガス塞栓のリスクも報告されています.
Q3. 術前の鎮静のための前投薬について説明してください.
- 就学前後の児童では,ミダゾラム(0.5mg/kg経口程度)や、トリクロホスナトリウム(50〜75mg/kg程度)を用います.
- 効果には個人差が大きいため,必要に応じて投与量の調整を行います.また,副作用や呼吸抑制に備えて,救急対応物品はいつでも使用できるように準備しておきます.
⏩【経過】
- 前投薬は行わず,手術室に入室しました.母親同伴で入室し,麻酔導入まで付き添ってもらいます.患児は落ち着いています.
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