症例設定
【患者】
- 78歳女性.152cm,48kg(BMI20.8)
【現病歴】
- 2日前から腹痛と嘔吐が出現.本日朝から腹痛が増悪し,近医受診後に当院救急外来へ紹介.腹部CT検査で絞扼性腸閉塞と診断され,緊急手術が申し込まれた.
【既往歴】
- 高血圧症(10年前から)
- 2型糖尿病(15年前から)
- 心房細動(5年前から)
- 虫垂切除術(40年前)
- 子宮全摘術(20年前)
【服用中薬剤】
- アムロジピン 5mg/日
- メトホルミン 500mg×2回/日
- アピキサバン 2.5mg×2回/日(最終内服:当日朝)
- ランソプラゾール 15mg/日
【主な検査所見・バイタルサインなど】
バイタルサイン:
- 血圧 142/86 mmHg
- 心拍数 112/分(不整)
- 体温 37.8℃
- SpO₂ 94%(室内気)
- 呼吸数 24/分
血液検査:
- WBC 14,200/μL,RBC 480万/μL,Hb 13.2 g/dL,Ht 40.1%,Plt 32.5万/μL
- BUN 32 mg/dL,Cr 1.3 mg/dL
- Na 133 mEq/L,K 5.0 mEq/L,Cl 94 mEq/L,
- Glu 186 mg/dL,HbA1c 7.2%,
- CRP 5.8 mg/dL,AST 24 IU/L,ALT 18 IU/L,LDH 245 IU/L,Alb 3.6 g/dL
- 凝固:PT-INR 1.3,APTT 42秒
- 動脈血ガス分析(室内気):pH 7.32,PaO₂ 85 mmHg,PaCO₂ 32 mmHg,BE -6.5 mEq/L,Lac 4.4 mmol/L
画像検査など
- 12誘導心電図:心房細動,心拍数 110/分,明らかなST-T変化なし
- 胸部X線:CTR 52%,肺野清明,胸水なし
- 呼吸機能:未施行(緊急手術のため)
- 心エコー(ベッドサイド):EF 58%,左房拡大あり(左房径 45mm),弁膜症なし,壁運動異常なし,下大静脈径 13mm(呼吸性変動あり)
- 腹部CT:小腸の拡張と腸管壁の造影不良,closed loopあり,腹水中等量
- 気道評価:気道確保困難リスクは認められない.
⏩【経過】
- 搬入時,表情は苦悶様で,冷汗あり.腹部は膨満し,圧痛を認める.全身状態はやや不良だが,意思疎通は可能.末梢静脈ラインは22Gが右前腕に1本確保されている.
Q1. 本症例の術前評価で重要な問題点は何ですか?また,それに対する準備について説明してください.
- 抗凝固薬(アピキサバン)内服中の緊急手術による出血リスク.腸管壊死によるDICでさらなる出血の可能性.
- 絞扼性腸閉塞による脱水・電解質異常・代謝性アシドーシスの存在とその増悪リスク(特に腸管壊死が著明で広汎な場合)
- 定期的な凝固能検査,交差適合試験を含めた輸血準備・在庫確認
- 乳酸値と電解質の定期的な検査
- 十分な輸液路確保(末梢大口径静脈路または中心静脈路).22G1本は弱すぎ.
- 導入後〜術中ににショックを呈する可能性も高く,観血的動脈圧測定のための動脈ラインを確保します.
- 高齢患者のため,術前に認知機能や意識レベルのベースラインを簡単に把握しておくと,術後の覚醒遅延評価に役立ちます.
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