症例設定
【患者】
- 68歳男性.170cm,80kg(BMI27.7)
【現病歴】
- 半年前から労作時の胸部絞扼感が出現.冠動脈造影でLAD近位部(#6)に90%狭窄を認めた.他枝に有意狭窄なし.心機能はLVEF 50% (下壁軽度運動低下あり).早期社会復帰希望もあり,左小開胸によるOff-pump MIDCAB (LITA-LAD吻合術) の方針となった.
【既往歴】
- 高血圧症(10年前から)
- 脂質異常症(10年前から)
- 陳旧性心筋梗塞(下壁,5年前)
- 軽症COPD(3年前から吸入薬使用)
【服用中薬剤】
- アスピリン 100mg
- クロピドグレル 75mg
- アトルバスタチン 10mg
- アムロジピン 5mg
- ビソプロロール 2.5mg
- 吸入ステロイド/LABA配合剤
【主な検査所見・バイタルサインなど】
バイタルサイン
- BP 130/80 mmHg, HR 65 bpm (洞調律), SpO2 96% (室内気)
血液検査
- Hb 13.5 g/dL, Plt 22.0万/μL
- Cr 0.9 mg/dL, eGFR 75 mL/min/1.73m²
- AST/ALT正常
- PT-INR 1.0, APTT 30秒
- 動脈血ガス (室内気): pH 7.40, PaO₂ 85 mmHg, PaCO₂ 40 mmHg
画像所見など
- スパイロメトリ:%VC 85%, FEV1.0% 70% (軽度の閉塞性換気障害)
- 心エコー: LVEF 50%, LVDd 52mm, 下壁菲薄化・運動低下.壁運動異常はLAD領域にはなし.弁膜症なし.
- 胸部X線写真 心拡大なし,肺野透過性やや亢進.
- 頸動脈エコー:軽度プラークあり,有意狭窄なし.
- 頭部MRI:有意狭窄なし
Q1. 本症例の術前評価と,Off-pump MIDCABにおける麻酔計画(特に循環管理,心筋保護,気道管理)の要点を説明してください.
- 術前評価では,LAD領域の心筋虚血リスク,陳旧性下壁梗塞による予備能低下,軽症COPDによる呼吸器合併症リスク,抗血小板薬内服による出血リスクを念頭に置きます.
- 通常,アスピリンは継続し,クロピドグレルは術前5日前に中止するケースが多いです.
麻酔計画の要点
- 導入方法
- 局所麻酔下で動脈ラインを確保.
- 導入はミダゾラム(やプロポフォール,レミマゾラム),フェンタニル(やレミフェンタニル),ロクロニウムで導入,維持はセボフルランやレミマゾラム,プロポフォールTCI等で行います.
- 循環管理
- モニタリングは心拍出量付き動脈ライン(Flotracなど),オキシメトリ付きCVC,TEEを使用します.
- Off-pump心拍動下での吻合操作となるため,心臓の脱転・圧排による急激な血圧低下に備えます.脱転時に心臓が張りすぎないように過剰輸液には注意します.
- 昇圧薬(ノルアドレナリン,フェニレフリン)の準備をしておきます.
- TEEを補助的に使用し,特に前壁の壁運動を継続的に観察します.
- 心筋保護
- 心拍動下手術であり,吻合中のLAD血流遮断による心筋虚血リスクがあります.適切な麻酔深度・鎮痛,頻脈・高血圧の回避,ヘモグロビン維持が重要です.術前からのβ遮断薬継続も有効.
- 冠血管拡張薬(ニトログリセリンやニコランジル)の持続投与も行います.
- 虚血イベント発生時の対応(MAP上昇,薬剤投与,一時的なシャント挿入など)を念頭に置きます.
- 気道管理
- 左小開胸アプローチのため,左片肺換気が必要です.気道チューブはDLTあるいは気管支ブロッカーを選択します.気管支鏡による位置確認は必須です.
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